転生したらゴーレムのOSだったんだが?

戸賀内籐

プロローグ クソッタレの朝

 寝覚めのいい朝などなかった。当たり前だ。僕の毎日はクソをもらしかけるところから始まるからだ。



 痛みから開放されていた3時間足らずの睡眠時間は、強烈な便意でビンタのように鋭くかき消され、形のないクソを漏らす。30分ものあいだ格闘し、やっと便器から腰をあげて窓から仰ぎ見た空は、まだ仄白くなり始めただけで、漆黒とも言える暗さのままだ。



 すべてがクソッタレだ!



 そんなある日、僕は決意した。このままよくなるともしれない病気に付き合って一生を過ごすよりは、最後にしたいことをしようと。



 そう思い立ったはいいが、何もすることがなかった。一つだけわかっているのは、人生に憤怒しているということだった。闘病生活はもう3年になるが、苦しみだけは一生分味わったと思う。



「でもあんたは彼らほど苦しんでいないでしょインドや、コンゴや、ほらそういう貧しい人達に比べたら、家で寝ていられるだけ幸運よ。それに、あんたのために腹を痛めない料理を頑張って作ってるんだからそう言わないで」



 僕が愚痴を漏らすと母は必ずこう言って僕をなだめた。ずるい人だ。そんなことは今の僕の境遇には全く関係ないじゃないか。だいたいそうやってもっと辛い人々を持ち出してなだめにかかるなんてのは、はなはだ上から目線に感じるのだ。



 そもそも、そんなことを言う母の料理の旨さにも腹が立つ。僕は油というものが腹にくるのでてんでダメなのだが、母は唐揚げだとか焼き鳥だとか、そういうパンチの効いたものまで僕に食べやすく作ってくれるのだ。負担をかけていることがありありと母の疲れ目に出ていて、ありがたくて情けなくて涙が出る。



 さて、だからこそ、僕は自分に残された最後の切符をきってしまうことにした。



 このまま座して死を待つことを僕の忍耐が許さなかったのだ。というか、忍耐にゲージがあるとしたら、僕は毎日じわじわと回復量以上のダメージを受け続けている。ゆえに、この復讐は正当だった。

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