番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#19
「うふふ。おかげで跡も残らず治りましたわ。ありがとうございます」
「いいえ……。それにしても、どうしてこんなことを? いつから知っていたんですか?」
私は彼らに親を殺された。ダバディアが自治権を獲得してから何度目かわからない、嫌がらせの一つだったんだろう。シュマインランドに近かった私の家族は、国境警備隊の警備をあっさりと抜けてきたミノタウロスに皆殺しにされたのだ。そしてその中にいたのが、ここでくたばったアングスト一行だった。
独立間もないダバディアではしょっちゅう起こっていることだった。さらに、私達の一家は多種族との混血だったのがいけなかった。私達のような混血は、エルフの世界でも爪弾きにされるのだ。
「知っていた、というのは間違いですわ。私はなんにも知りませんの」
彼女はなんでもないことのように言い放った。
「で、す、が」
指を立てて続ける。
「このアングストというミノタウロスが、あなたと尋常ならざる関係なのは気づいていました。そしてあなたは怯えていらっしゃった。ですので、殺してしまいましょう、と。ああいう手合は威勢がよくて、私の好みなのですわ」
「好み、ですか?」
どういう意味での好みなのかわからず、私は聞く。
「もちろん、殺しの相手としての好みですわ。彼らのようなならず者は、ためらいなく撃ち返しますわ。そういうことが、私、お恥ずかしいのですが大好きなのです」
「……撃ち合いが、ですか?」
「いいえ、撃たれるのがですわ。私、そういうことをされるのが大好きなんですの」
彼女は割れずに転がっていたヴォーダの瓶を一気に煽る。この人もミノタウロスに負けず劣らずに化け物だ。
「な、ならどうして撃ち返すんですか……?」
「もちろん、復讐の種を芽吹かせるためです。目撃者はいますから、きっと彼らの親族は、私のことを知るでしょうね。そうなれば、もっと多くの敵が私を殺そうとするでしょう。復讐を打ち負かせば、また別の復讐へ。そうやってどんどん復讐が連鎖して、ある日、鉄砲水のように大挙して私を襲うのです。私は、そういう運命が訪れる日を早めようとしているだけなのです」
ぷふぅ、と上品に酒臭い吐息を漏らし、彼女は語った。
自殺志願者のような論理だ。
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