番外編『鍵穴のエルフ キャスカ・ロングウェイ』#20
「そんなことより、こちらを貸してあげますわ」
彼女はアングストの死体のそばに転がっていたリボルバーを手に取ると、グリップが上に来るよう、引き金に指をかけてぶらさげる。いかにも掴みやすいそのグリップを、私は不思議に思いながら握る。
彼女が指を離すと、ずしりとした重みが私の細腕にかかる。こんな銃を片手で撃っていたなんて。震えるのは、怖さからだろうか。それとも、深淵に捕まってしまったからだろうか。
「ハンマーを起こして、ね。ここですわ」
彼女の言われるままに金色の撃鉄を起こす。
「あの人を撃ってごらんなさい? まだ生きていらっしゃるわよ」
彼女がそう言うと、血溜まりに倒れ伏していたミノタウロスの一匹が、ぎょろりと私を見た。だけど体はもう動かないみたいで、助けてくれ、とかすれた声でつぶやく。
「うふふふ! みてください、あなたを馬に乗せたときみたいですわね。でも違うのは、私達がエルフで、彼らがミノタウロスということですわ」
そっとささやく。私の耳に彼女の息がかかって、くすぐったい。
「あなたはどうすべきだと思いますか?」
私はそう言われてもどうすればいいのか決めかねていた。そうしていると、彼女の手が私に重なった。ただ、じっと狙いをつけた。
「ほら、リラックスして。ただ引き金を引くだけですわ。飛んでいった銃弾がどこに向かうかなんて、あなたには想像もつかないでしょう? もしかしたら、外れるかもしれませんわね」
どぱん。
不意に銃が跳ねあがった。どうしてこんなに重いのに、引き金は羽みたいに軽いの?
銃弾はうごめくミノタウロスの角をへし折った。
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