肩から肺への弾道
「今のうちに援護射撃している奴らと合流しろ!」やけに渋い声だった。
『ローライン軍曹が肩を撃たれて死にかかっています! 弾が肺までいってます! ここから動かすのは無理です!』
僕はそれを震え声で伝言する。
「どっちにしろここに置いていったら蘇生もできんぞ! イオ、彼女を吊るして運ぶんだ!」
『無理です! 人間一人運ぶなんてこと、この羽根じゃできませんよ!』
僕は後ろを振り返った。向き合わなければいけなかった。
そこには、右肩がぐちゃぐちゃになったローラインが、上を向いてハッ、ハッ、と短い息をしている。暗いし一瞬だからわからなかったが、彼女の頬に飛びちった血が閃光のように僕の頭の中で瞬いた。
「僕が、運びます」
躊躇いはなかった。
「よし、援護するから心配せずにこの肥溜めを渡ることだけ考えろ!」
彼女を胸に抱くと、あまりの小ささに驚いた。僕は、こんな軽くて小さい女の子に頼り切っていたんだ。
「よしいくぞ! イオ、援護射撃しながらとにかく走れ。こいつの後ろに隠れて走れ!」
それからは、とにかく走った。自分の腕の中にあるローラインの青い髪が揺れる様が、やけに印象的だった。血で濡れた髪が僕の腕を打ち付ける感触を、決して忘れることはできないだろう。
そうしてなんとか対岸に渡りきった頃には、彼女はほとんど息もしていなかった。彼女の真っ青な瞳が震えながら暗い空を仰ぐ様は、なんとかして月の光を見続けていたいという願望を映し出している。
後ろからは僕らを追ってきた銃弾が、狙いを変えてこちらに向かってきていた。背中にいくつか衝撃があるが、これが弾が当たっていたなんて僕はその時、気づきもしなかった。せいぜい銃弾で砕かれた小石が跳ね返っているんだと信じていた。
土手の上には10人ほどの雑多な種族がいたが、ローラインやイオと同じ軍服なのでほっとした。血まみれのローラインを見ると数人のゴブリンが駆け寄ってきた。彼らに渡してもいいものか迷っていると、無理やり奪い取られた。
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