泥水の中で
「そのルキヤンってのにはどうやったら会えるんですか」
「さあ。随分バラけて降下させられたからな。とにかく集合地点に向かうぞ。イオ、海はどっちだったっけ?」
イオは僕らの右を指差した。
「じゃあ左に行く。集合地点は敵の海岸防御線の後方、この水浸しの網の目を抜けた先だ。お前も来い、前田。どうしてなんて顔をしないでくれよ。とにかく、ここにいるのはよくない。少なくともここが海岸線のすぐ後ろだってことはわかってるんだ」
「どうしてです?」
「海岸線のすぐ裏に水を流し込んで進撃しにくくしていると事前情報で教えられた。だからここがそうだってことだ。幸いにもまだ発見されてないが、さっき指差した方向には敵がうじゃうじゃいるはずだ。本来の投下場所は、この水浸しの場所よりもっと後方なんだ。そこに歩いていって合流しなくちゃな」
なるほど、ここは人工的に水を流し込まれているだけだったのか。
イオとローラインがスコップで土をほぐしてくれたおかげで、やっと足が抜けた。それでもずぶずぶ一投足のたびに沈み込んでいくのは変わらないので、雪の上でも歩いているかのような足使いで歩くしかない。
僕をおいてすいすいと進んでいく二人を観察して改めて気づいたのは、異様に背が低いことだった。ホビット、いわゆる小人族のようなものなのかもしれない。だが等身からそういった印象を受けないのはどういうことなのだろうか。この世界では僕の背が高すぎるだけなのか? そういえば、やたらと大きく見えたオークやオーガの背の後ろから、僕は例の穴を覗くことができた。もしかして、本当に身長が伸びているかもしれない。
ざばざばと音を立てて進んでいくと、土手のようなものが見えた。あれが網目の線の部分だろう。これ以上泥水をかき分けるのも嫌なのでそこに近づくと、ローラインが僕の足に手をかけて静止させた。
「すぐそばに敵がいるかもしれないと言っただろ。高いところに登ったぶん、見つかりやすくなる。敵がいないとわかるまで、素直にこの泥水をかきわけろ」
現実感もなく、僕は頷いた。敵と言われても、実感がない。そんなに怯えなきゃいけないことなのか、いやそもそもこの世界に来てから、全てに実感が無いのだ。
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