トリガーハッピー
今度はよく狙った。狙い方すらよくわからないのが本音だったが、とにかく一直線上に並ぶように照準器を合わせればいいはずだ。すると、少しだけ周囲が明るくなったような気がした。月に照らされた敵の陣地がはっきりみえる。
赤い輪郭で浮かんだそれは、度重なる砲撃で半壊していたようだったが、敵の機関銃がこちらを撃ってきているのはわかった。そしてその後ろに、やけに大きな砲が2門浮かび上がった。なるほどあれがローラインが言っていた高射砲だろう。
とにかく、僕はそこに向かってやたらめったら撃ち込んだ。時々やけに光る弾があって、弾道を僕に教えてくれる。弾が切れると、すぐさま隣のゴブリンが弾をくれ、装填までしてくれた。
その間は敵が撃ってくる弾も近くで爆発する砲弾も、何も怖くなかった。ただ息を呑んで、引き金を引き、顔にかかる火薬臭い衝撃波を浴び続けた。そのうち、ただ狙って撃つことだけに夢中になっていた。
そのうち、敵の機関銃の背後で何かが爆発した。さっきのオーガ達の砲撃だろう。内側からの爆発に、土嚢からわらわらと敵の兵士達が湧きでてきた。
僕は逃げ出した彼らにもっと銃弾を撃ち込んだ。怖かったからだ。彼らがこっちに向かって突っ込んできたらと考えると、怖くてたまらなかった。だから土嚢を乗り越えようとする人影に向かって撃ち込み、本当に動かなくなるまで、弾が切れるまで撃ち込んでやった。
でもそれもすぐに終わった。隣のゴブリンが弾をくれなくなったのだ。
「弾をくれ!」
「もういらん! みんな死んでる」
じっと眺める。動いてはいない。でも生き残りがいたら?
そんな僕の懸念を読み取ったようにゴブリンが答えた。
「いくらかはいるだろうよ。だがな、いたとして、そいつまでお前はここから撃ち殺すのか? 落ち着け。息をいっぱい吸え。お前はよくやった。ローラインの容態を見てこい」
名残惜しげに僕は機関銃を一瞥した。怖がる方から、怖がらせる方へ一瞬で僕の立場を切り替えてくれたこいつと離れるのが、やけに心細くなったのだ。
「……わかりました」
吸い込んだ空気は、花火の匂いがした。それに混じって、土と腐った水の匂いを嗅ぎ分けられた。その水の匂いでさっきのヘルメットが脳裏に浮かんだ。ゲロりたい気分だ。でも、いくら喉の奥を震わせようとも、何もでなかった。唾液一滴さえ垂れてこない。
『前田! ローラインが目を覚ました!』
「なんだって!?」
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