「ドンキーゴリラ」編

GAME 02「ドンキーゴリラ(1)」

「ようしルーくん! まず最初はこれ、『ドンキーゴリラ』を遊ぼう!」

「どんきーごりら? ……このおおきいおさるさんがしゅじんこう?」


 「ドンキーゴリラ」のパッケージイラストを指さして、ルーくんが尋ねてくる。

 ……確かに。パッケージイラストは、女性を担いだ悪戯好きそうなゴリラが大きく描かれていて、その後を赤い帽子を被ったヒゲ親父が追いかけている、という絵面だ。

 一見するとゴリラの方が主人公に見えなくもない、か?


「あはは、違うよルーくん。主人公はこっち。このヒゲのおじさん『マダオ』だよ」

「マダオ! しってる! ルーくんしってる! ママがスマホでマダオあそんでたよ!」


 「マダオ」は南天堂を代表する、世界的に有名なキャラクターだ。

 この「ドンキーゴリラ」で実質主役デビューし、後に発売された「マダオブラザーズ」や「スーパーマダオブラザーズ」で人気を不動のものとした。


 そう言えば、「マダオ」シリーズは、ちょっと前にスマホゲームにもなっていたな。どうやら姉さんがそれをプレイしていたのを、ルーくんも見て覚えていたらしい。

 知っているキャラクターなら取っ付きやすいだろうから、ここは姉さんに感謝だ。


「じゃあルーくん、早速遊んでみようか? ファムコンはねぇ、まずカセットを本体に挿すところから始めるんだ」


 言いながら、「ドンキーゴリラ」の箱から丁寧にカセットを取り出す。

 赤いカセットにラベル代わりの銀の塗装が施された、今から見るととてもシンプルなデザイン。だけど、それがむしろ斬新にも感じる。


 続いて、ファムコン本体のカセット挿入口のカバーをパカッと開く。

 一応、挿入口内の端子部分に埃が溜まっていないかもチェックする。その昔は、端子部分の接触が弱いと「フーっ!」って息を吹きかけたものだけど……実はあれ、端子の劣化を早めるだけなんだよね。

 幸い、この前ブロワ―で手入れをしたばかりなので、埃の類は大丈夫そうだ。

 カセットと挿入口の端子の位置を合わせて、ズズッと差し込む。


 次いで、テレビの電源を入れる。

 チャンネルは「2」に固定しているので、すぐに俗に言う「砂嵐」が表示される。

 昔のテレビなら、ここで「ザーッ」というノイズが流れ出すところなんだけど、残念ながら(?)このテレビでは音声自体がカットされてしまう。

 ルーくんはその光景を不思議そうに眺めている。「砂嵐」なんて、生まれて初めて見るはずだもんね。


 そして、おもむろにファムコンのスイッチを入れると……無事、「ドンキーゴリラ」のタイトル画面が表示され、軽快なBGMが流れ出した。

 ――ファムコンにはよくあることなんだけど、端子の接触が悪いとグッチャグッチャの画面が表示されたりもする。

 意図的に接触不良を起こして、本来あり得ない動作をさせる、なんて「裏技」もあったけど……それはさておき。


「ねえ、これなんてかいてあるの?」


 ルーくんがタイトル画面を指差しながら、難しい顔をしている。ルーくんはもう、ひらがなを読めるらしいけど、この当時のゲームは基本、英語表記だ。


「上に大きく表示されているのが、このゲームのタイトル。『DONKY GORILLA』って書いてあるんだよ。その下は――」


 ――と、説明しかけた所で、不意に画面が切り替わる。


「あれ、がめんがかわっちゃったよ!」

「ああ、これはデモ画面だね」

「でもがめん?」

「うん、『これはこういうゲームですよ』っていう見本だね」


 昔のゲームには、タイトル画面で放置しているとプレイデモが流れ出すものが多かった。この「ドンキーゴリラ」もその例に漏れない。

 丁度良いので、デモ画面を例に、ルーくんにゲームの概要を教えてあげよう。


 「ドンキーゴリラ」は、恋人を巨大ゴリラに攫われたマダオが、それを助けるためにビルの上へ上へと進んでいくゲームだ。

 ――もちろん、ただ進むだけのゲームじゃない。ゴリラのせいで、床は斜めになってるわハシゴは所々で途切れてるわで、足場は心もとない。

 しかもゴリラが上の階から樽を落として攻撃してきたりもする。それをジャンプでかわしたり、はたまた途中にあるハンマーで粉砕したりして、上を目指すのだ。


「……ふぅん?」


 デモ画面を見せながら口で説明してみたけど、ルーくんはどうにも分かってないようだった。

 まあ、無理もない。ここは、僕が実際にプレイしながら説明した方が分かりやすいだろう。

 ――ということで、早速コントローラー1のスタートボタンを押す。すると、それまで流れていた軽快なBGMの代わりに、おどろおどろしいSE(サウンド・エフェクト)が流れ出し、ルーくんが「わっ」と驚きの声をあげた。

 そうそう、この音、最初はビビるんだよね……。


「じゃあ、ゲームを始めるね? まずは移動。十字キーの左右を押すと、押した方向にマダオさんが歩きます」

「わっ! なんかキュッキュいってる~! マダオさんは、さんだるはいてるの?」


 マダオは歩くごとに「キュッキュ」と味わい深い音を響かせる。ルーくんにはそれが、幼児用の「歩くと音が出るサンダル」のように聞こえたらしく、キャッキャと喜んでいる。


「……そうかもね。で、Aボタンを押すと、マダオさんがジャンプします」


 僕がAボタンを押すと、画面のマダオが「ビヨ~ン」という愉快な音を出しながらジャンプする。ルーくんはそれがお気に召したのか、「もっかい! もっかいジャンプして!」と楽しげだ。

 けれども――。


「わっ!? ゴリラさんがなにかなげたよ! へんなもでてきた!」


 ルーくんの叫んだ通り、画面の上の方にいる巨大ゴリラが「たる」を投げつけてきた。

 樽は床――画面に横に五本並んでいる傾斜のある鉄骨を、下へ下へと転がっていく。

 更に、マダオのスタート地点の後ろにある「OIL」と書かれた青い物体(恐らくドラム缶)からは、おばけにも似た姿をした火の玉が姿を現した。


「うん、ゴリラさんが投げたのは樽だね。これに当たらないように、マダオさんは上へ上へと進まなきゃいけない。しかも、一番下でのんびりしていると、後ろから火の玉さんが現れて『早く先に行きなさい』ってせっついてくるんだ。火の玉さんは、この青いドラム缶に樽がぶつかる度に増えていくよ」


 ――等と言っている間にも、ゴリラは樽を投げ続け、火の玉は後を追ってくる。

 僕はマダオを操作して、樽をひょいひょいと避けながら上へ上へと進んでいく。

 樽は、床を転がって来るだけじゃなく、ハシゴを降りてきたり、はたまたジグザグに降ってきたりと、様々なパターンの動きを見せる。それらのパターンを見極めてマダオを安全に進ませることが、このゲームの肝だ。

 そして――。


「はい、到着!」


 画面の一番上――お立ち台みたいになっていて、女性キャラがいる場所までマダオを進ませると、ステージクリアとなる。


「……これでおわり?」

「いんや、この後にもまた違ったステージがあるんだけど……まずはルーくん、自力でステージ1のクリアを目指してみようか?」


 言いながらリセットボタンを押し、タイトル画面に戻しながら、ルーくんにコントローラー1を手渡す。

 さてさて、ルーくんの初プレイや如何に……?

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