「ドゥルガーの塔」編

GAME 23「ドゥルガーの塔(1)」

「アブラカダブラー!」

「ぐわぁ~! や~ら~れ~た~! ガクッ……」

「ふっふっふっ、あくはほろびた!」


 ここに雌雄は決した。

 悪の大魔法使いアックンは、正義の魔法少年ルークンの大魔法を受け、地に倒れ伏した。

 正義は必ず勝つ! ……けど、ルーくん。その台詞だとルーくんの方が悪役っぽいよ?


 ――ということで、僕とルーくんはリビングで「魔法使いごっこ」に興じていた。

 最近「ガリー・ポーター」という映画シリーズを観て以来、ルーくんの中では魔法使いがブームらしいのだ。


 「ガリー・ポーター」は、海外の人気ファンタジー小説を原作とした映画シリーズだ。

 現代に生きる冴えない少年ガリー。しかし彼はとんでもない魔法の才能の持ち主で、ある日、魔法学園に招待され転校することになる。

 学園ですぐに頭角を現したガリーは、悪の魔法使いグループ(というか不良)達と対立することになり、度々に渡って魔法バトルを繰り広げる――というのがあらすじ。


 ルーくんはガリーになりきり、そこら辺に落ちていた木の枝(消毒済み)を「魔法の杖」に見立てて、悪の魔法使い役の僕を魔法で攻撃していた、という訳だ。


 ――しかし、ガリー・ポーターもそうだけど、子供向けのファンタジーは、昔から現実と地続きな物が多い気がする。いわゆる「ロー・ファンタジー」というやつだな。

 現実世界の中に隠された空間があったり、はたまた子供達が偶然に異世界への扉を見付けてしまったり。

 僕が子供の頃は、「ハイ・ファンタジー」――現実世界は全く関係なくて、ファンタジー世界だけで物語が完結している作品も多かった気がするけど、最近は少ないように感じる。

 個人的には「ハイ・ファンタジー」の方が好きなんだけどな。純粋な「剣と魔法の世界」の方が……。


 ふむ。ルーくんにもそろそろ「ハイ・ファンタジー」の素養を身に付けてもらった方が良いかな?

 ファムコンで言うと、やはり王道の「クエスト・オブ・ドラゴン」かな?

 ……いや、待てよ。やはりここは、ゲームの歴史通り、ファンタジーゲームの大先輩に登場願った方が良いかも――。


   ***


「ジャーン! 『ドゥルガーの塔』~!」

「わぁ~……あっ?」

「ん? どうしたのルーくん」


 「ドゥルガーの塔」のパッケージを見たルーくんの顔は、心なしかひきつっているように見えた。

 一体どうしたのだろうか?


「あのね……? なんだかかわいいパッケージだけど……これも『まおうむら』みたいにこわいゲーム?」

「ああ……」


 改めてパッケージを見て納得する。

 「ドゥルガーの塔」のパッケージイラストは、デフォルメされた可愛らしいタッチで描かれている。

 しかも、「鎧姿の騎士が女の子を助けに行く」ように見える構図だ。ルーくんは似たような感じで描かれていた「魔王村」を連想したらしい。


「大丈夫だよ、ルーくん。これは怖いゲームではないから。難しくはあるけど、操作自体は簡単だし」

「ほんと?」

「ホントホント」


 ……決して嘘は言っていない。怖くはないよ。今言った通り、難しいけどね。


 「ドゥルガーの塔」は、1985年に発売されたタイトル。当時のファムコンに多かった「アーケードからの移植」ゲームの一つだ。

 黄金の騎士ギルガメシュを操り、全六十階の「ドゥルガーの塔」を踏破することを目的とする。

 最大の特徴は、各階に隠された「宝箱」を見付け出し中身を取得していくことで、主人公のギルガメシュがパワーアップしていくというもの。後のロールプレイングゲームと同様の育成要素がある訳だ。


 物語は王道のファンタジーだ。

 ファムコン版の説明書には殆ど言及がなかったけど、当時の攻略本などに書かれた前日譚は、確かこんな感じだった。


 ――昔々、ある所にバビロン王国という豊かな国があった。王国は主神アヌに授けられた「ブルーダイヤモンド」の加護を受け、大いに栄えていた。

 だが、その噂を聞きつけた「帝国」はバビロン王国を侵略。天空に輝く「ブルーダイヤモンド」を奪うべく、高い高い塔を建造し始めた。


 これに怒ったアヌ神は、天の雷で塔を破壊。

 だがその余波で一瞬だけ「ブルーダイヤモンド」の加護が失われ、封印されていた大悪魔ドゥルガーが復活してしまう。

 ドゥルガーは瞬く間に塔を修復すると、「ブルーダイヤモンド」を奪い、そのまま塔を要塞と化して居座ってしまった。


 人類に失望したアヌ神はドゥルガーの横暴を見逃してしまう。

 しかしバビロン王国の守護神である女神イシュタルは人々を見捨てず、自らに仕える巫女アントゥに加護を与え、「ブルーダイヤモンド」を奪い返す使命を与える。

 けれどもアントゥは力及ばず、ドゥルガーに捕らえられてしまう。


 そこで立ち上がったのが、アントゥの恋人であるバビロン王国の王子ギルガメシュだった。

 単身アントゥの救出へ向かおうとするギルガメシュの勇気を称え、アヌ神は彼に「勇気を力に変える黄金の鎧」を与える。

 こうしてギルガメシュは、全六十階の「ドゥルガーの塔」へ挑むことに――。


 中々に壮大な物語だけど、残念ながらゲーム内での説明は殆どない。

 一応、タイトル画面で放置していると英文で「あらすじ」が表示されはするのだけれども、非常に簡素なものだし、何より英語の読めない子供には内容が分からない。

 僕もくだんの攻略本で、初めてストーリーを知ったくらいだった。


 ゲーム内で直接ストーリーが語られるタイプのロールプレイングゲームは、それこそ「クエスト・オブ・ドラゴン」こと「クエドラ」を待たなければならない。

 まあ、「ドゥルガーの塔」はゲームとして良く出来ているので、正直その当時はストーリーなんか気にならなかったんだけどね。

 ただ――。


「ふ~ん。このおにいさんは、こいびとをたすけるためにたたかうんだね……もえるてんかいだね!」


 どうやら、ルーくんはお気に召したようだった。

 ファンタジーを題材にしたゲームの多くは、「お姫様や恋人を助ける為、冒険に出る勇者」の物語を描いていることが多いけど、やっぱり「男の子が燃える普遍的なシチュエーション」なのだろうな。


 時代をまたいでも、性別を巡る価値観が変遷しても、この手のシチュエーションは一定の需要がある。つまりは、根源的プリミティブな欲求に基づいた物語構造、ということなのかもしれない――。

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