「いけいけ洞窟探検家」編
GAME 09「いけいけ洞窟探検家!(1)」
「ねぇねぇアッくん! ルーくんね、しょうらい『たんけんか』になるの~!」
「……探検家?」
「スーパーマダオブラザーズ」の攻略も終盤に差し掛かった、ある日のこと。ルーくんが突然、そんなことを言い出した。
男の子というものは、小さい頃には実に様々な職業に憧れる生き物だ。アニメのヒーローやらパイロットやら、サッカー選手やら野球選手やら。最近だと「社長」とか「
そこに脈絡はない。ただただ「カッコイイ」という感情から、「なりたい」と考えてしまう。もちろん実現性は度外視だ。
でも、「それでいい」し「それがいい」。子供の夢は大きければ大きいほど良いのだ。
――しかし「探検家」と来たか。
僕が子供の頃は、「秘境探検」と銘打ったバラエティ番組が結構あって、作り物とは知らずに夢中になって観ていたものだが……最近はあの手の「子供だまし」な番組は減っていたはずだ。
一体ルーくんは何を見て「探検家」に憧れたのだろうか?
「あのね! このあいだね! ママといっしょにえいがをみたの! たんけんかのおじさんが、ムチでわるものをやっつけたりするの!」
「あー……」
どうやらルーくんは、姉さんと一緒に某・世界的に有名なアクション映画を観たらしい。大学教授が古代遺跡を巡ったりナチスとドンパチしたりするアレだろう。
カッコイイもんね、あの教授。――でも姉さん、あの映画は幼稚園児に見せるには過激じゃないか? 結構グロいぞ……。
――ふむ、しかし「探検家」か。「スーパーマダオ」の攻略も少し行き詰っていたし、ここは気分転換としてあのゲームをやらせてみるべきかな?
「そっかそっか、ルーくんは探検家になりたいのか。――実は、ファムコンには探検家を主人公にしたゲームがいくつかあるんだけど、ちょっとやってみる?」
「ホントっ!? やるー!」
ルーくんの返事は早かった。
***
「ジャーン! 『いけいけ洞窟探検家』!!」
「おお~!」
ゲームのパッケージを突き付けると、ルーくんが感嘆の声を上げた。
――「いけいけ洞窟探検家」は、一九八五年に発売されたアクションゲーム。元々は国外のメーカーが開発したものを、日本のゲーム会社である「アイレン」がファムコンに移植したものだ。
パッケージイラストは、「邪悪な表情を浮かべた悪霊と、ヘルメットとヘッドランプと拳銃で身を固めた男が戦っている」感じの構図で、中々にセンスがある。
更には――。
「――? ねぇねぇ、アッくん。このカセットについてるあかいのはなぁに?」
ルーくんの言葉通り、カセットの中央上部には何やら丸くて小さな赤いクリアパーツが付いている。他のファムコンカセットには無い物だ。
「ふっふっふ、これはね……カセットをファムコンにセットして電源を入れると――」
「あっ、ひかった!」
そう。この赤いクリアパーツの中には「
元々は間違ってファムコンの電源を切らない為のものらしいけど、これがやたらと恰好いい。
しかし、肝心のゲームはと言うと――。
「……なんかくらいね」
「せめて渋いと言ってあげなさい」
ルーくんの素直過ぎる感想に思わず苦笑いするが――ルーくんがそう思ったのも無理はなかった。
この「いけいけ洞窟探検家」は、電源を入れた直後からマイナー調のやけに重苦しいBGMが流れ出し、タイトル画面も黒背景の地味なものなのだ。
アクションゲームというよりは、暗めのアドベンチャーゲームが始まってしまいそうなノリですらある。
「……もしかしてこわいげーむ?」
「ある意味怖いかもしれないけど……大丈夫だよ。まずはいつも通り、僕がお手本のプレイをするから、よく見ててね?」
やや怖がり始めたルーくんをよそに、スタートボタンを押す。
すると――。
「わっ!? こんどはたのしそうなおんがくがながれたよ?」
「でしょ?」
タイトル画面の
この落差には、僕も子供の頃にびっくりさせられたものだ。
――さて、この「いけいけ洞窟探検家」はタイトルの通り、探検家を操って洞窟の中の財宝を回収しながら、下へ下へと向かっていくゲームだ。
ゲーム開始時、主人公は
しかも昔のゲームとしては、操作系統やシステムが凝っていた。
十字ボタンは普通に移動。Aボタンはジャンプだけれども、Bボタンは十字ボタンとの組み合わせで合計三つの機能が割り当てられている。
十字ボタンがニュートラルの状態だと、主人公が「マシンガン(実際にはブラスターらしいけど、どう見てもマシンガンだ)」を撃ち始める。
上を押しながらBボタンを押すと空中の敵を倒す「フラッシュ」を、下を押しながらだと大岩を壊すのに使う「ダイナマイト」を仕掛ける。
画面の中央上には「エネルギーゲージ」がある。簡単に言うと体力ゲージだ。僕らが子供の頃は「酸素ゲージ」等とも呼ばれていたっけ。
このゲージがゼロになると、主人公は死んでしまう。なので、洞窟の中に散りばめられている「エネルギー(床屋のポールに似た形をしているアイテム)」を、効率よく回収していかなければならない。
「エネルギーゲージ」は時間経過と、あと何故かマシンガンを撃った時にも減っていく。
マシンガンは定期的に出現する「ゆうれい」を倒すのに必要な武器なので、使わない訳にもいかない。中々に上手く出来たシステムだ。
「……大体はこんなところかな? じゃあルーくん、早速プレイしてみる?」
「うん、やるー!」
僕のお手本プレイを一通り見たルーくんが、今度は自分がとばかりに勇んでコントローラーを受け取る。
やる気満々だ。
――けれども、このやる気は多分、一瞬にして削がれることになるはずだ。
実は僕は、このゲームの最大の特徴を、あえてルーくんに見せないままにしている。僕の予想では、ルーくんは開始数秒で「いけいけ洞窟探検家」の洗礼を味わうことになるはずだった。
そうして運命のスタートボタンが押された――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます