GAME 27「ゲルダの伝説(2)」

 ――タイトル画面は更にスクロールし、今度は「ゲーム中で入手できるアイテムの一覧」が表示され始めた。

 これは当時から見てもちょっと変わった演出だった。しかも最後に「くわしくは本(説明書)を見てね」みたいな言葉が表示されるオマケ付きだ。

 どんなアイテムがあるかすら分からなかった「ドゥルガーの塔」と比べると、ある意味で親切設計だったのかもしれない。


「ねぇねぇアッくん、このアイテムさんたちをぜんぶあつめるのがもくてきなの?」

「そうだね。色んな場所にこのアイテムさん達が隠されてるから、それを全部集めて主人公を強くして、それから悪い大魔王をやっつけに行く感じだね」

「……このゲームも、アイテムさんたちみつけるの、たいへん?」


 途端、不安そうな表情を見せるルーくん。

 どうやら「ドゥルガーの塔」で「そんなの絶対分からない」みたいなアイテムの出し方を散々見せ付けられて、少しだけトラウマになっているようだった。


「大丈夫。このゲームは考えれば分かるような仕組みしかないから」

「ほんと?」

「ホントホント」


 実際、「ゲルダの伝説」のゲーム内の仕掛けギミックは、その殆どがパズル的なものだった。ノーヒントでも……あるいはゲーム中のメッセージをきちんと読んでいれば解けるものが殆どだ。

 「ドゥルガーの塔」のように、「そんなの考えても分からんわー!」というものは殆どない。


 もちろん、普通にプレイしていては辿り着けない、いわゆる「隠し要素」もあるにはあるけど、それは「攻略が楽になる」程度だ。

 そちらについては、ルーくんが攻略に行き詰るようだったら、僕の方から教えてしまおう――。


「じゃあ、早速始めて行こうか」

「おー!」


 ルーくんの元気な掛け声を聞きながら、スタートボタンを押す。するとまずは、セーブデータの選択画面が表示される。

 セーブデータの保存場所は全部で三つ。それぞれに名前が付けられる。今は一番上に「シンク」と名付けられたデータだけがある。他は空きだ。


「じゃあルーくん。ルーくん専用のシンクさんを作るから、下にある『ナマエ トウロク』を選んで?」

「ルーくんせんようのシンクさん?」

「うん。このゲームはね、今まで遊んだファムコンゲームとは違って、『ここまで遊びました』って言うデータを保存しておけるんだ。きちんと保存しておけば、また別の日にも続きから遊べるよ」

「そんなことできるの!?」


 ルーくんの反応に思わずニンマリしてしまう。ルーくんも、スマホゲーム等で「セーブ」の概念自体は知っているはずだった。でも、今までルーくんがプレイしたファムコンタイトルには、セーブ機能があるものはなかった。

 だから、ルーくんの中では「ファムコンのゲームは一回電源を切ると、次は最初からやり直し」という認識が出来上がっていたのだ。それを今回、アップデートすることに成功した。


 出来るだけ年代順にファムコンゲームをプレイしてもらっているのは、このように「ファムコン世代の追体験」をしてほしかったからだ。

 新しいシステム、新しい機能、新しい試みと出会う楽しみ……テレビゲームが進化していく様を目撃する、その喜びを知ってほしかったのだ――。


「え~と、なまえなまえ……。じゃあ、ルークン……と。これでいいの?」

「うん。それで『トウロク オワル』を選んでさっきの画面に戻ったら、『ルークン』って横に書いてあるシンクさんを選んでみて」

「わかったー」


 ルーくんが「トウロク オワル」を選択すると、画面は先程のセーブデータの選択画面へ戻った。

 先程は空欄だった所に、「ルークン」という文字列が追加されている。これで準備はOKだ。ルーくんは早速、自分の名前を付けたシンクを選択し――冒険が始まった。


 後々のシリーズにも受け継がれる名作BGM「地上」をバックに、スタート画面が表示される。

 どこかの岩場らしき場所の中央に、シンクが立っていた。


 「ゲルダの伝説」は、いわゆる「画面切り替えスクロール」型のゲームだ。

 「ドゥルガーの塔」のように、自キャラの移動に合わせてスクロールするのではなく、今現在いるマップの端っこに自キャラが到達すると、画面全体がスクロールして隣接するマップに切り替わる仕組みだ。

 画面一つ分が「一マス」になっていて、それが縦横に連なっている……と言えば分かりやすいだろうか?


 視点は「ドゥルガーの塔」と同じ見下ろし型。主人公の基本装備が剣と盾なのも一緒だ。

 けれども、今はその「剣」がどこにも見当たらない。シンクは何故か盾しか持っていなかった。


「ねぇねぇアッくん、シンクさん、ケンもってないよ? どうやってこうげきするの?」

「まぁまぁ慌てないでルーくん。そこに黒い穴が開いてるでしょ? それは洞窟の入り口なんだ。まずはそこに入ってみよ?」


 画面の左上の岩石に、黒い穴がぽっかりと口を開いている。これは洞窟やダンジョンの入り口なのだ。

 洞窟の中には色々な人物が待っていて、アイテムをくれたり、お金と引き換えに売ってくれたり、はたまた大切な情報を教えてくれたりもする。

 ダンジョンはそれぞれ広大なマップを持っていて、最奥のボスを倒すと「トライアングル」の欠片を入手出来る。


 ルーくんシンクは早速とばかりに洞窟へと入って行き、画面が切り替わる。

 中は岩に囲まれた真っ暗な空間で、かがり火のようなものが二つと、それに挟まれる形で画面中央に老人のキャラクターが一人。基本的に洞窟は一画面分だけの構成で、道が奥に繋がっているようなことは無い。

 そして――。


「アッくん! みてみて、ケンがあるよ!」


 ルーくんの言葉通り、老人の前には一振りの剣が鎮座していた。

 更に、カタカナで「ヒトリデハキケンジャ コレヲサズケヨウ」と表示されている。老人の台詞、という訳だ。


「このケン、もらっていいの?」

「お爺さんは『授けよう』、つまり『あげるよ』って言ってるんだ。早速取ってみな」


 ルーくんがシンクを剣の上に移動させる。

 すると、景気の良い効果音SEと共にシンクが高々と剣を天にかざした!

 が――。


「わわっ!? アッくん! !?」


 シンクが剣を取った瞬間、何故か老人は姿を消していた。

 そうそう、確か他の洞窟のキャラも同じで、何故かアイテムを取ると姿を消すんだよね……。でも洞窟に入り直すと、また普通に出てきたりする。

 この辺り、何の説明も無いからちょっとホラーなんだよね……ルーくんもドン引きしてるし。


 ……まあ、何はともあれルーくんシンクは無事に剣を手に入れた。

 ここからが本格的な冒険の始まりだ――。

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