「ゲルダの伝説」編
GAME 26「ゲルダの伝説(1)」
「たいへんだよアッくん! ファムコンさんがちいさくなっちゃった!」
ゲーム部屋に入るなり、ルーくんが驚きの声を上げていた。
指さす先にはその言葉通り、「一回り小さくなったファムコン」が鎮座している。
「あはは、大丈夫だよルーくん。これは『ミニファムコン』と言って、元々小さいファムコンなんだ」
「みにふぁむこん?」
ミニファムコン――正式には「南天堂クラシックミニ FAM-COM」は、二〇一六年に発売された復刻版のファムコンだ。
復刻と言っても昔のゲーム機本体をそのまま出したわけじゃない。本体サイズは一回り小さくなっていて、ロムカセットを差すことは出来ない。
ゲームは本体メモリ内に記録されたものしか遊べないのだ。
おまけに本体と一緒にコントローラーのサイズも小さくなっていて、大人の手にはちょっと小さすぎたりもする。
収録タイトルも三十本と、ファムコンの全タイトル数(確か一千くらい)と比べると、あまりにも少なすぎる。
それでも発売当初にはバカ売れして、現在でもやや入手困難な程の人気を誇っている。
「きょうは、このミニファムコンさんでゲームするの? なんで?」
「うん、ちょっとミニファムコンでしか出来ないゲームをやろうと思ってね……」
「そんなのがあるの?」
「ちょっと特殊なのが……ね」
ルーくんに答えながら、ミニファムコンの電源を入れる。
まず表示されるのは、収録されているゲームタイトルの一覧だ。横にずらりとパッケージイラストが並んでいて、そこからゲームを選ぶと即起動する仕組みだ。
僕はその中から、あるゲームタイトルにカーソルを合わせた。
「今日はこの『ゲルダの伝説』を遊ぶよ!」
「げるだのでんせつ?」
「ゲルダの伝説」は、一九八六年に南天堂から発売されたアクションRPGだ。
「ドゥルガーの塔」と同じく見下ろし型マップのゲームで、やはり様々なアイテムを取得して主人公が強くなっていく成長要素がある。現在も新作が発売されている名作シリーズの一つだ。
でも、「ゲルダの伝説」最大の特徴は別にある。
このゲームはロムカセットではなく、「南天堂ディスクシステム」で発売されたゲームなのだ。
「南天堂ディスクシステム」は、当時としては画期的だった「磁気ディスクによるゲーム状態の記録が可能」なシステムだった。ファムコンに外付けの機械を接続して、専用の磁気ディスクを使ってプレイするのが特徴だ。
しかもこの専用磁気ディスクは、なんと「ゲームの書き換え」が可能だった! 一つに飽きたら、ディスクに他のゲームを上書きすることが出来たのだ。
専用の機械が置いてあるお店に行く必要はあったけれども、書き換え料は驚きの五百円。当時のゲームソフトの十分の一近い、良心的お値段だった。
そしてもう一つ、「南天堂ディスクシステム」には印象的な特徴があった。
ルーくんが見守る中、ミニファムコンの「ゲルダの伝説」を起動する。すると、特徴的な「NANTENDO」のロゴが表示された。「南天堂ディスクシステム」の起動画面だ。
丁寧なことに「PLEASE SET DISK CARD」つまり「ディスクを入れてください」という表示まで再現されてる。
そしていよいよ「ゲルダの伝説」のゲーム画面が表示され、BGMが流れ出すと――。
「これがゲルダのでんせつ? ……ねぇねぇアッくん、なんだかおとがかっこいいね!」
ルーくんが期待通りの反応を示してくれた。心の中で思わずガッツポーズをとる。
実際、テレビから流れるBGMは、ファムコンの「ピコピコ音」よりも厚みがあって音色も豊かだ。それこそ、幼稚園児の耳でもはっきり分かるくらいに。
特に特徴的なのは、「鐘の音」だ。西洋風の奥行きのある鐘の音が、合いの手のように響いている。普通のファムコンでは出せない奥深い音色だ。
これが「南天堂ディスクシステム」のもう一つの特徴――「拡張音源」の存在だった。
単純な「ピコピコ音」しか出せなかった従来のファムコンと違って、「南天堂ディスクシステム」には「波形メモリ音源」という、シンセサイザーのように様々な音色を合成できる音源が追加されている。
その恩恵として、当時のファムコンとは比べ物にならないクオリティのBGMが、多数生み出されたのだ。
――まあ、その後ロムカセットの方にも「FM音源チップ搭載型」なんてものが出て、結局追い抜かれてしまうんだけど、ここではその話はやめておこう。
今回、わざわざミニファムコンを選んだのは、この「音」が忠実に再現されているからだった。
実は「ゲルダの伝説」は、後年ロムカセット版も発売されている。けれどもそちらには拡張音源が存在せず、音楽面では大幅にパワーダウンしていた。
「南天堂ディスクシステム」盤と同じBGMを聞くには、このミニファムコンや一部機種で配信されているエミュレーター版でプレイするしかないのだ――。
楽曲自体はどこか薄暗い雰囲気があるのに、これから始まる大冒険に否応なしに期待が高まる、名タイトル画面だった。ルーくんも気に入ったのか、すぐにプレイを始めようとはせずタイトル画面を眺めている。
やがて画面はゆっくりとスクロールし、英文で物語のあらすじが表示された。当時のゲームにありがちな演出だ。「ドゥルガーの塔」もそうだったっけ。
「ゲルダの伝説」は、概ね次のような物語だ。
”
小さな王国バイラルには、神秘の力を持つ三角形の宝物「トライアングル」が祀られていた。
しかしある日、「トライアングル」の力を得ようとした大魔王ガロンがバイラルに攻め込み、「力のトライアングル」を奪ってしまう。
バイラルの王女ゲルダは、残された「知恵のトライアングル」を八つのピースに分け、各地に隠した。ガロンに対抗できる勇者の手に渡ることを祈りながら……。
しかし自身は、ガロンの軍団に捕らえられてしまう。
そこへ現れたのが旅の剣士シンク。正義感に燃える彼は、大魔王ガロンを倒すべく「知恵のトライアングル」を集め始める――。
”
説明書にはもう少し細かい設定が書いてあったけど、まあルーくんにはこれだけ伝えておけば大丈夫だろう。
興味を持ったら自分で読んでもらおう――。
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