「魔王村」編
GAME 17「魔王村(1)」
――ある日の夕方。
ルーくんはいつも通り、ゲームの合間の休憩時間におやつの「キノコちゃん」を食べながら、リビングの窓から外の緑を眺めていた。
母曰く、「視力低下を防ぐには、定期的に『遠くの緑』を見るのが良い」らしいけど……それって迷信じゃなかったっけ?
まあ、遠くを眺める事自体は、実際に目を休める効果があった気もするけど。
一時期、都市部に住んでいたことがあるけど、その時は窓の外にはビルばっかりが広がっていて、木々の緑なんて殆どお目にかかれなかった。
鎌倉の郊外暮らしは色々と不便だけど、山の緑を気軽に眺められる点はメリットと言える。場所によっては海も見えるから、景色だけは良いんだよね……。
とはいえ、鎌倉で生まれ育ったルーくんにとっては、これが当たり前の景色だったりもする。
ルーくんが将来どんな職業についてどんな街に住むのかは分からないけれども、今の内に故郷の風景を心に刻んでおいてほしい。
そう思った――。
***
――さて。「解体工兄弟」の攻略はまだ半ばだったけれども、コツを掴んだのか、ルーくんも大苦戦するようなことは少なくなっていた。
しかも、連日のように凝りに凝った自作ステージを作り上げては僕にプレイさせる、という別の楽しみ方まで覚えて、このゲームを十分にエンジョイしてくれているらしい。
やはりこういった「頭を使う系」ゲームは得意なようだ。
でも、それでもって「アクションゲームが得意」と思われては心外だ。
世の中にはもっと理不尽で高難度なゲームが存在するのだということを、この辺りでルーくんに教えておくべきだろう――。
「ねぇルーくん。……ルーくんは怖いのって平気な方? お化けとか」
「おばけ? ルーくん、おばけなんてぜんぜんこわくないよ! ママといっしょに、『ゾンビえいが』もみてるもん!」
姉さん、幼稚園児になんてものを見せてるんだ!?
相変わらずあの人の教育方針が分からない。義兄さん、苦労してないといいけど。
――まあ、それはともかくとして。
「そっか、じゃあ怖いゲームも大丈夫だね? お化けとかゾンビとか、ウジャウジャ出てくるんだけど……」
「へーきへーき! ルーくんぜんっぜんこわくないもん!」
ほほう、言ったな我が甥よ。
でも、その強がりはどこまで持つかな……?
「そんな怖いのが大丈夫なルーくんには、これ! ジャーン! 『魔王村』~!!」
「まおうむら~? これ、こわいゲームなの? かわいいじゃなくて?」
不思議そうな表情を浮かべながら、「魔王村」のパッケージを眺めるルーくん(可愛い)。
パッケージでは、青空を背景に、草原の中でデフォルメで描かれた鎧の騎士がお姫様を庇いながら、一つ目巨人やドラゴンっぽいバケモノと向かい合っている。
ルーくんの言う通り、何だか「かわいい」感じにも見える。童話の表紙と言っても通じそうな感じだ。
「……そうだね、パッケージは何だか可愛いよね。まあ、『百聞は一見に如かず』だ。まずはプレイしてみようか?」
「おおー!」
ルーくんはいつも通り、やる気満々だ。
――でも、そのやる気はいつまで持つかな?
早速カセットをファムコンにセットして、電源を入れる。
すると――。
「わっ!?」
タイトル画面が表示されたその瞬間、ルーくんが悲鳴のような声を上げた。
表示されたのは黒背景に、おどろおどろしいデザインで血のような赤色に縁どられた「魔王村」のタイトルロゴだ。
パッケージイラストのほのぼのさはどこへやら。どこからどう見てもホラーテイストのタイトル画面だった。
「な、なんだかこわいかんじだね……」
「怖いゲームだからね。じゃあ、まずはいつも通り僕が見本でプレイするね?」
「わ、わかった!」
早くもおっかなびっくりになったルーくんを尻目に、スタートボタンを押す。
すると――。
「ひっ!?」
ルーくんの口から短い悲鳴が漏れた。
このゲームではスタートボタンを押すとまず、オープニングデモが始まる。――これがとても「怖い」のだ。
おどろおどろしいBGMが鳴り響く中、草むらでくつろぐ騎士と姫。夜なのか、辺りは真っ暗だ。
そこへ真っ赤な悪魔のようなバケモノが現れ、姫を連れ去ってしまう。騎士はそれを追う為に鎧を身に付け、怪物達が
そんなプロローグが濃縮されたデモなのだけれども、BGMがとにかく不穏なのだ。もうこれだけで怖い。
数秒のオープニングデモが終わると、いよいよゲームスタートだ。
僕も久しぶりにプレイするので、ちょっと緊張している。
軽快なのに不気味という絶妙なBGMが流れ出し、主人公が操作可能になる。
すると――。
「わっ!? ゾンビさんが、さんにんもでてきたよ!?」
ルーくんの言葉通り、開幕いきなりゾンビが三体も出現した!
地面から這い出るような不気味な登場の仕方もさることながら、スタート直後に三体もの敵が襲い掛かってくるという鬼畜仕様も恐ろしい。
――「魔王村」は典型的な横スクロールアクションゲームだ。
十字ボタンの左右で移動。上下でハシゴ等の上り下り。下ボタンは「しゃがむ」のにも使う。Aボタンはジャンプで、Bボタンで装備している武器を「投げる」。
初期装備は「槍」。何故か「投げ槍」型ではなく「
武器はそれ以外にも「たいまつ」や「斧」「短剣」などがあり、それぞれ性能が異なる。
特定のボスには特定の武器が効かなかったりもするので、注意が必要だ。
早速、前後に現れたゾンビ三体に槍を投げつけて倒す。
ゾンビは一番の雑魚なので一撃でやられてくれるが……連中は地面から生えるように出現するので、何度もびっくりさせられることになる。
ゾンビを体よく倒した僕は、主人公を右へ右へと移動させるが――またすぐにゾンビ達が出現する。
奴らは三体ずつ出現する。時には画面外や主人公の足元から出現したりもするので、なんとも油断ならない。
「あれっ!? アッくん、あのゾンビさんなにかもってるよ?」
「ああ、あれは壺だね」
「ツボ?」
一部の敵キャラクターは、「壺」を持って現れることがある。
中には得点アイテムや他の武器が入っている。真っ先に倒して手に入れておきたいところだ。
敵はゾンビ以外にも沢山いる。
「弾」を打ち出してくる怪植物。墓石に止まっていて、主人公が近付くと高速で飛来してくるカラス。
自在に空を飛び、猛スピードの体当たりや火の玉で攻撃してくる「レッドデビル」……等など。他にも目白押しだ。
「……ふむ、見本はこんなものかな? じゃあ、次はルーくんが頭からやってみようか?」
「ええっ!? もう? アッくんがいちめんぜんぶクリアしてくれるんじゃないの?」
「ルーくんも大分ファムコンに慣れて来たからね。大丈夫大丈夫。さ、一回リセットするから早速やってみよう!」
ルーくんに半ば強引にコントローラーを渡し、リセットボタンを押す。
どうやらルーくんは、「魔王村」の怖い雰囲気にすっかり呑まれてしまっているようだけど……きっと、それすらもすぐに気にならなくなるだろう。
僕は今、見本の初回プレイを軽くこなしてみせた――振りをした。
実際にはミスしないようにと必死だったけど、それを押し隠して、だ。
――この「魔王村」の最大の特徴は、実は「怖さ」なんかじゃない。
このゲームは、その鬼畜なまでの難度の高さで当時の子供達にトラウマを植え付けたことで有名なのだ。
ルーくんにも是非、その洗礼を味わってもらうことにしよう――。
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