GAME 16「解体工兄弟(3)」

「ブ~ンブ~ン! ブ~ンブ~ン! はやいぞはやいぞ、ぼくのクル~マ~♪」


 「解体工兄弟」の攻略が続くある日のこと。

 ルーくんが欲しがっていた本の発売日だというので、僕は車に母とルーくんを乗せて、隣の藤沢市へと向かっていた。

 鎌倉市内では大型の書店がめっきり減ってしまったので、本を買う時はネットで頼むか、こうして隣の藤沢市の大型店舗へと足を運ぶ必要があるのだ……。


 ちなみに車は、リースで四人乗りの軽自動車を借りていた。普通車よりも頑丈といううたい文句の国産車だ。

 お金はきちんと姉さん夫婦に出させている。――けれども、その分そちらの買い物を頼まれることも多くなってしまったので、僕としてはメリット・デメリット半々と言ったところだろうか?


 まあ、可愛い可愛いルーくん(とおまけの母さん)を乗せてのドライブが楽しめると思えば、安い物なんだろうけど。


「ぜったいダメだよ、きゅうはっしん~! ゴ~ととばしちゃあぶないよ~♪」


 ルーくんは車で出かけるのが嬉しいのか、先ほどからご機嫌な感じで歌いっぱなしだった。

 真新しいチャイルドシートにすっぽりと収まりながら、何かの歌をずっと口ずさんでいる。僕には全く聞き覚えが無いから、最近の歌だろうか?

 ふむ。カーステレオのメモリに、何かルーくん用の歌を入れておいた方が良いかな?


「ん~? ねぇねぇ、あれはなに~?」


 ――と、不意にルーくんが声を上げた。何か窓の外をしきりに指さしているらしい(後部座席だから僕からはよく見えない)。


「ああ、あれはね、解体工事だよ」

「かいたいこうじ~?」


 運転で手が離せない僕に代わって、母がルーくんに答える。

 チラッと外を見ると、なるほど確かに道沿いのビルの解体現場が目に入った。

 囲いに覆われた中で、大型の解体車両がコンクリートをガツンガツンと打ち壊しているところらしい。


「ほら、ルーくん。『解体工兄弟』と同じだよ。ああやって、ビルを壊してるんだ」

「ふ~ん。ダイナマイトはつかわないの?」

「日本だとあんまり聞かないねぇ。アメリカとかだと、派手に爆破して、それが見世物になってたりするらしいけど」

「へぇ~?」


 僕の説明に生返事しながら、ルーくんは遠ざかっていく解体現場の光景をじぃっと眺め続けているようだった。

 ……ふむ、どうもルーくんは「壊す」ことに興味を持っているらしい。悪い傾向、とまでは言えないかもしれないけど、少し気になる。

 「もうちょっと慣れてから」と考えていたけれども、「解体工兄弟」の攻略を早急に次のフェーズへ進めた方が良いかもしれない――。


   ***


「よし、ルーくん。今日は『解体工兄弟』の『デザインモード』で遊ぼうか?」

「でざいんもーど?」

「ほら、『大興奮バイク野郎』の自分でコースを作るのと同じあれだよ。このゲームにもあるって、前に言ったやつ」

「……ああ、あれね~!」


 さも「思い出した」と言いたげにポンと手を打つルーくん。

 けれども僕の目はごまかせない。ルーくん、デザインモードの存在を忘れてたな? まあ、いいけど。


 早速、タイトル画面の「DESIGN」を選び、「デザインモード」メニューを表示させる。

 「デザインモード」メニューには、次の六つの項目が表示されている。


 「1PLAYER GAME」

 「2PLAYER GAME」

 「DESIGN PHASE1」

 「SAVE」

 「LOAD」

 「RESET」


 「1PLAYER GAME」か「2PLAYER GAME」を選択すると、自分で作成したステージを遊べる。

 でも、初期状態ではステージには壁が一枚も置かれていないので、正常にゲームが出来ない。全四ステージあるデザインモード専用のステージが順番に表示され続けるという、残念な状態になってしまう。

 こうなるとリセットボタンを押すしか抜ける方法はない。


 「DESIGN PHASE1」が目的のステージ作成のメニューだ。

 「PHASE」というのはステージのことで、この項目にカーソルを合わせてAボタンを押すと、1~4までの数字を順送りすることが出来る。


 「SAVE」と「LOAD」はそれぞれ「保存」と「読み込み」なんだけど……外付けの記録装置がないと、作成したステージの保存は出来ない。

 残念ながら、僕はその記録装置を持っていなかった。いずれ手に入れたいところだ。


 「RESET」はそのまんま。「デザインモード」をリセットして、タイトル画面に戻る。


「よーし、じゃあ早速作っていこう!」

「お~!」


 ルーくんの掛け声と共に「DESIGN PHASE1」を選択して、エディット画面に入る。

 するとまず、全八階に床だけが敷き詰められたステージが表示される。ここに壁を追加していったり、ハシゴを設置して各階を繋げたりしていく。

 設置作業は、基本的に一つずつ手作業だ。カーソルがある場所でAボタンかBボタンを押すと、設定されたキャラクタ(壁やモンスター、空白)が順繰りに表示される。好きなキャラクターを設定したら、十字ボタンでカーソルを移動して……といった作業の繰り返しだ。


 他にもコントローラー2を使って特定の壁で埋め尽くしたり、設定済みのステージからコピーしてきたりといった操作も可能だ。

 流石に「範囲選択して一部だけコピー」みたいな機能は無いけれども、ファムコン初期のゲームにしては、中々良く出来たシステムだと今でも思う。


「つくって~つくって~つっくて~♪」


 ――そして仕組みがシンプルな分、子供でもステージの作成が容易だ。

 おまけにルーくんは、この手の作業は得意中の得意だ。「大興奮バイク野郎」では、僕がギリギリ苦戦するような見事なコースを作り上げていたけれども、果たして今回はどうだろうか?


「できた~!」


 十数分後。ルーくんは見事なステージを作り上げていた。


 大小のハシゴ壁を中心に構成されていて、所々にハシゴ壁でしか行けない階がある。間違えてハシゴ壁を壊すと、すぐに「詰む」構成だ。

 しかも要所要所に、「叩いて」と言わんばかりに「ダイナマイト」が仕掛けてある。これを使って一気に壁を壊そうとすると、必要なハシゴ壁も一緒に壊れてしまい、「詰む」。ある種のトラップになっている。

 けれども場所によっては、ダイナマイトの爆風で吹き飛ばされないと行けない場所もあり……非常に凝っている。

 モンスターは、ゲーム開始直後からマダオに殺到するように配置されていて、油断出来ない。


「へぇ、初めてにしては見事もんだねぇ」

「すごいでしょ~? ね、ね! アッくんやってみて~」


 ルーくんがいたずらっ子の表情を浮かべながら、僕にコントローラーを突き付けてくる。

 ……なるほど、「大興奮バイク野郎」の時と同じくご自慢のステージが出来上がったらしい。今度こそ叔父の威厳を見せねば!


「ふむ、ルーくん先生のお手並み拝見といこうかな? どれどれ」


 僕は余裕綽々よゆうしゃくしゃくの表情を浮かべながら――その実、とても気合いを入れて、ルーくん作成のステージに挑んだ。


 ……なるほど、確かに歯ごたえはある。けれども、既存のステージにはもっと難しいものもある。

 おまけに僕は、ルーくんがステージを作っていたのを横で見ていたのだ。ある程度はシミュレーションが出来ている。難しくはあるが、クリアに手間取るほどではない感じだ。


「最後にこれを壊して……よし、クリア! どうだいルーくん?」

「わぁ~、じょうずじょうず~!」


 ルーくんは僕がステージを見事にクリアしたのを見ても、まだいたずらっ子の表情を浮かべたままだった。

 ――なんだろう? 何か違和感がある。


 そうこうしている間にもゲーム画面は動き続けている。

 先程も言った通り、壁を一つも置いてないステージは表示はされるがプレイ出来ないので、すぐにクリア音が鳴り次のステージへ移行してしまう。

 PHASE2~4はまだ何も手を付けていないので、やがて画面は再びルーくんの作ったPHASE1へと戻った。


「ふっふっふっ。アッくん、よくみててね?」


 するとルーくんは僕からコントローラーを奪い、自らが作ったステージを遊び始めた。

 ――なんだ? 一体何があるんだ?


 ルーくん操るマダオは、モンスターから逃げつつも壁を一つも壊さずにどこかへと移動していく。

 その先にあるのは……一つのダイナマイトだ。フェイクとして置かれていて、これを間違えて爆発させるとクリア不能になる……あれ?


「つくって~こわして~あそびましょ~!」


 人気番組の決まり文句を口にしながら、ルーくんがそのダイナマイトを爆破する。

 ――すると、驚いたことに壁が連鎖爆発を起こし、一気に崩れていくではないか! その様はまるで、良く出来たピタゴラ装置を見せられているようだ。


 残すは他から隔離された場所に設置してある壁だけど、それも問題ない。

 ルーくんが爆破したダイナマイトの爆風は、マダオを隔離された場所まで吹き飛ばし……残りの壁も無事、破壊された。実に鮮やかな手際だった。


「あっ!? そうか……沢山あるダイナマイトの中に一つだけ正解があったのか! 気付かなかった……」

「アッくんもまだまだだね~」


 にっこりと、天使のような笑顔を浮かべながら叔父にマウントを取ってくる幼稚園児ルーくん

 その姿は頼もしいやら不穏やら。

 ぼちぼち叔父の威厳を見せつけないと、ルーくんが悪い子になってしまう……かも?




   *次回予告*


 アッくんは焦っていた。

 思いの外に器用なルーくんを前に、叔父として、ゲーマーとしての威厳が地に落ちようとしていたのだ。

 ――ここはあの伝説の「高難度ゲーム」に頼るしかない!


 いや、ホントあの頃ののゲームは難しすぎて、何を考えて作ったのやら――。


 次回、「魔王村」をお楽しみに!


(注:この次回予告には一部嘘が含まれています)

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