GAME 07「スーパーマダオブラザーズ(3)」
「テレッテッテレッテー♪ あ、わるいキノコさんだ! やっつけてやる!」
BGMを口ずさみながらマダオを右へ右へと移動させるルーくん。その前に、最初の敵キャラである「トレボー」が立ちはだかる。
ルーくんは、デモ画面で見たとおりにマダオをジャンプさせ、トレボーを踏みつぶそうとするが――。
「ああっ!?」
マダオはトレボーの頭上ではなく、すぐ手前に着地してしまい……やられてしまった。
何だか残念な感じのSEが鳴り、マダオが諸手を挙げた状態で飛び上がり、やがて地面の下まで落ちていく……。
「マダオ、やられちゃった……」
「ジャンプするタイミングがずれちゃったんだね。Aボタンを押す長さを変えたり、もっとトレボーの近くでジャンプしたり……タイミングを合わせないと上手く踏めないよ?」
――そう。「スーパーマダオブラザーズ」の最初にしてある意味最大の難所は、「最初のトレボーを上手く倒せるかどうか」なのだ。
まだ操作に慣れていない中で、やや癖のあるマダオの動きを自在に操るのは中々に難しい。数多くのプレイヤーが、最初のトレボーの犠牲になったことだろう。
「後はね、ルーくん。マダオさんを歩かせながらAボタンを押してごらん?」
今のルーくんの場合、トレボーの手前で立ち止まってからAボタンを押してジャンプしてしまっていた。
「スーパーマダオブラザーズ」の世界にはきちんと「慣性」の概念があるので、歩きながらAボタンを押さないと、マダオは前にはジャンプしてくれない。立ち止まってからだと、その場で真上にジャンプしてしまうのだ。
「よーし、つぎはちゃんとやっつけるぞ!」
マダオの「残機」が一つ減り、またエリアの最初からリスタートとなる。けれどもまだ、ルーくんはめげていない。
まあ、まだ始まってさえいないのだから当たり前だけれども。
「マダオさんをあるかせて……ここ!」
今度はマダオを立ち止まらせず、タイミングを見計らってAボタンを押す。
すると、マダオはやや前方へ向けてジャンプし、過たずトレボーの頭上へと着地し――。
「っ!? やったー! アッくん、わるいキノコさんをやっつけたよ!」
「おお、二回目で倒せるなんて、ルーくんは筋が良いなぁ!」
見事、トレボーをペシャンコにしてはしゃぐルーくん。けれども先はまだまだ長い。
「よし、ルーくん。次は『?』ブロックを下から叩いて、味方のキノコさんを出してみよう!」
「うん、わかった!」
僕のアドバイスに、ルーくんは早速とばかりマダオを「?」ブロックの下に移動させジャンプさせるのだが……マダオは空しく隣のブロックを叩いただけで、「ボコンッ」という鈍い音だけが響く。
「あれ? あれあれ?」
「ルーくん、ブロックは動かないから、今度はマダオさんを立ち止まらせてからジャンプしてみたら?」
「あっ! そうか!」
ルーくんはマダオを慎重に「?」ブロックの下へと移動させ――満を持してジャンプさせる。
マダオは、今度は見事に「?」ブロックを下から叩き、キノコを出現させた。そしてキノコが画面の左の方へと移動を始める――。
「あっ、キノコさんまってー! ……あれ? あれあれ? アッくん、ひだりがわにもどれないよ?」
キノコの移動スピードは速く、あっという間に画面の左端の方へと姿を消してしまう。が、それを追いかけたマダオは、画面の左端で足踏みするばかりで、画面が左側へスクロールすることはなかった。
「ルーくん。このゲームはね、一度右側へ画面をスクロールさせると、左側には戻れなくなるんだ」
「えっ!? な、なんで?」
「……多分、マダオさんが急いでるから戻れないようになってるんじゃないかな」
――「なんで」と聞かれて適切な答えが思いつかなかったので、思わず適当に答えてしまう。
この時代の横スクロール・縦スクロール画面のゲームの中には、画面を一度スクロールさせると逆方向に戻れなくなるものも少なくなかった。キャラクターが進む方向が一方通行であることが多かったのだ。
多分、メモリ容量の関係とかその辺りが理由なんだろうけど……それをルーくんに言っても流石に理解は出来ないだろう。だから、ちょっと適当な事を言ってしまった。
「ふぅん……。マダオさんはかこをふりかえらないおとこなんだね!」
「……ルーくん、そういう言い回しどこで覚えたの?」
ルーくんの口からは時折、この手の
……姉さん達、普段ルーくんにどんなもの見せてるんだろうか?
***
その後も、悪戦苦闘の連続だった。
ルーくんは度々キノコを取り逃したし、最初のトレボーにやられもした。
Bボタンを押しながら移動するとマダオが走る、いわゆる「Bダッシュ」を覚えると、今度はジャンプできずにトレボーに体当たりすることもあった。
途中に出現する土管のオブジェクトを上手く飛び越えられずに、その場でタイムアップになってしまうこともあった。
文字通りの大苦戦だ。
でも、ルーくんはめげない。
少しずつ、本当に少しずつ前に進んで……ようやくエリアの中程まで辿り着いた。
「よぅし! こんどはちゃんとファイヤーマダオのまま、ここまできたよ!」
「うん。これで亀さんも遠くからやっつけられるね! ――あ、ルーくん。そこの『?』ブロックを叩いてごらん? 面白いものが出るから」
ルーくんが僕の言葉通り、途中の「?」ブロックを叩く。
するとそこから、キノコでも花でもない、別のものが出現した――キラキラと輝くお星さまだ。
「な、なにこれ? てき?」
「いや、これも味方だよ。大丈夫だから取ってごらん?」
僕の言葉に従い、ルーくんが恐る恐るマダオをお星さまに接触させる。すると――。
「わっ!? マダオさんがピカピカひかった! おんがくもかわった!」
途端、マダオがピカピカと光だし、BGMもアップテンポのそれに変わった。
――これは俗に言う「無敵」状態だ。この状態のマダオは敵に触れても、逆にやっつけてしまう。
「わわっ! ほんとだー! カメさんにさわってもやっつけちゃう~!」
「無敵」状態を早速理解したのか、ルーくんの操るマダオはBダッシュ状態で亀の群れに突っ込み、
あれ、気持ち良いんだよね……。
けれども――。
「このままぜんぶやっつけろー! ――あっ」
調子に乗ったルーくんのマダオは、無敵状態のまま途中の「穴」へ落ちてやられてしまった。
油断大敵と言うやつだ。
「あはは。無敵状態でも穴に落ちたらやられちゃうんだよ。後、無敵状態は長くはもたないから、調子に乗って体当たりしてると、無敵じゃなくなった瞬間に亀さんに触ってアウト! ってこともあるよ? 気を付けようね」
「むむむむむ~。ひとすじなわじゃいかないんだね」
難しい顔をしながら、また幼稚園児とは思えぬ語彙を披露するルーくんだった。
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