GAME 34「戦え!バルーン(4)」

『今日は何と、鎌倉に来ています! 本日ご紹介するのはこちらのお店! 鎌倉セレブ御用達の――』


 時刻は既に五時を回り、テレビ各局がニュースや情報番組を始める時間帯。僕とルーくんが、母さんと一緒におやつの「カルシウム配合せんべい」を食べながらテレビを眺めていると、鎌倉特集のコーナーが始まった。

 画面では、若手のアナウンサーらしき女性がどこかの飲食店の前に立ち、満面の作り笑顔でマイクを構えている。


「テレビ局って、ネタが無くなると鎌倉特集やってるわよねぇ」

「有名な観光地としては比較的近いからね、都心から」


 鎌倉は都心から電車で約一時間の場所にある。ギリギリ遠くない手ごろな観光地だ。

 しかもロケーションが良い。海はあるし緑はあるし、鎌倉大仏や鶴岡八幡宮のような古い寺社はあるし、駅周辺には昔ながらの名店や新しいお洒落な店やらが軒を連ねている。そういったことから、テレビのロケも頻繁に行われていた。

 ――まあ、それも郊外住まいの僕らには、あまり関係がないんだけど。


 画面は飲食店の中に切り替わり、若い男性がインタビューを受けていた。どうやら東京のどこか有名店で修業したフレンチのシェフらしく、半年ほど前に店をオープンしたらしい。


「ふ~ん、知らないお店ねぇ。アキラは知ってる?」

「何かの雑誌に載ってたかな? 小町通りの中みたいだけど……見たことないや」


 鎌倉駅前から鶴岡八幡宮方面へと延びる商店街「小町通り」は、鎌倉の名所の一つだ。

 所狭しと飲食店や雑貨店、土産物屋が建ち並ぶ非常に賑やかな通りなんだけど、それだけ競争も激しい。外の業者が出店攻勢をかけても、定着するのはごく僅か。店舗の入れ替わりが早いのだ。

 だから、地元民でも知らない店がやたらと多い。


「フレンチかぁ。ライバルも多いし、どのくらい持つかしらねぇ?」

「う~ん、地元の固定客を得られれば結構長持ちするとは思うけど。小町通り界隈は家賃もばかにならないらしいしね。一年も持てば良い方じゃない?」


 実際、「いい感じにお洒落な店が出来たな」と思っても、あまり長く持たない例が多々あった。

 その一方で、お洒落からはかけ離れていても、地元民に愛されて長く続いている老舗なんかもある。観光客だけを狙っても、あまり定着しないということなのかもしれない――。


   ***


「よぅしルーくん。『トリップモード』はいったんお休みして、今度は『二人用モード』にチャレンジしてみよう!」

「ふたりようモード?」


 おやつタイムが終わりゲーム部屋へ戻ると、僕とルーくんは再び「戦え!バルーン」を起動していた。


「うん。一人用モードみたいにステージを一つ一つクリアしていくのをね、プレイ出来るんだ」

「ああ、『マダオブラザーズ』みたいなやつ?」

「そそ」


 随分前に遊んだ「マダオブラザーズ」の協力プレイを覚えていたのか、ルーくんが「納得した―」というような顔をした。

 そう言えば、純粋に二人同時プレイ出来るゲームは「マダオブラザーズ」以来かもしれない。


「基本は一人用モードと同じだけど、少し注意することがあるんだ。このモードはね、

「ええっ!? あぶな~い!」

「だからお互いに気を付けて遊ぼうね?」

「うん、わかった~!」


 僕の念押しに天使のような笑顔を浮かべて答えるルーくん。

 ――けれども、僕は見逃していなかった。ルーくんの目が獲物を狙う鷹のような輝きを見せていたことを!


 タイトル画面で二人用モードを選んで、早速スタートさせる。まずは一面だ。

 敵の鳥人間の数は三人。画面中央に一つだけ浮かぶ浮島に、開始当初は風船を膨らませず待機している。これを放置しておくと、風船を膨らませ飛び立つ訳だ。

 対するプレイヤーキャラは、左右の陸地に分かれて出現する。プレイヤー1は左側、プレイヤー2は右側といった感じだ。鳥人間は風船を膨らませる前に体当たりすれば倒せるので、両側から浮島まで飛んで行って挟み撃ちにすればすぐに一面をクリア出来る。

 けれども――。


「お~っと、てがすべった~!」


 プレイヤー2側の僕が右側から浮島へ上陸し、鳥人間に体当たりを敢行したのに対し、なんとルーくんは空中からプレイヤー2に襲い掛かった!

 そう、この「二人用モード」では味方の風船も割れることから、「対戦プレイ」も可能なのだ。実は、そのことは説明書にも明記されている。

 ルーくんは説明書を読んでいないけど、同じ「二人用モード」のある「マダオブラザーズ」でも、プレイヤー同士が協力し合うことも出来れば、お互いに邪魔しあうことも出来たのを覚えていたのだろう。


 悪戯好きの虫が騒いで、不意打ち気味に僕に「対戦プレイ」を挑んできたという訳だ。


「甘い!」


 けれども、それを予測していた僕は、素早く画面右側へと上昇し離脱。そのままループ構造を利用して画面右端から左端へと瞬時に移動し、ルーくんのプレイヤー1よりも高い位置から反撃に出る!


「ああっ!?」


 僕の反撃を全く予期していなかったルーくんは、避ける間もなく風船を一個割られてしまう。

 プレイヤー2は風船を割った反動を利用して更に高度を稼ぎ、素早くプレイヤー1へ追撃を加えようとするが……これは失敗。

 ルーくんは羽ばたくのを止めて急降下し、プレイヤー2との距離を取った。しかし、まだ甘い!


「あっ……」


 プレイヤー2にばかり気を取られていたプレイヤー1の頭上に、いつの間にやら鳥人間が迫る。


「と、トリさんこないで~!」


 制空権をプレイヤー2と鳥人間に取られたルーくんは、プレイヤー1を地面へと着地させ走って逃げ始める。なるほど、賢い選択だ。

 地面の上を走る方が、癖のある空中での挙動よりもコントロールしやすい。しかも鳥人間はプレイヤー1だけでなくプレイヤー2も狙ってくるので、牽制にも使える。

 けれども、このゲームは高い位置にいる方が圧倒的に有利だ。ルーくんは逃げ惑うことしか出来ない。


「ふっふっふ。『地の利を得たぞ!』ルーくん。陸地を走って逃げいているだけじゃ、いい的だよ?」

「むむむむ~。じゃあ、こっちだ!」


 困りあぐねたルーくんは画面の中央、浮島の下と水面の狭間へと飛び出した!

 なるほど、浮島の下を飛べばとりあえず上から攻撃されることはない。中々上手い手だ。高度にさえ気を付けていれば巨大魚に食べられる心配もないし。

 でも、やっぱり甘い!


「はっはっはっ! ルーくん、逃げてばっかりでいいの? そっちが逃げてる間に、アッくんがトリさんを倒しちゃうぞ~? 得点、ゲットだぜ!」


 言いながら、残りの鳥人間達を攻撃していく。そのままあっという間に一面をクリア!

 当然のことながら、スコアは僕の方が圧倒的に多い。


「む~。アッくんいじわる~」

「ええっ? 先に仕掛けてきたのはルーくんじゃないか。ほらほら、二面も始まるよ? どうする? またお互いに風船を割り合う? それとも協力してトリさんを倒す?」

「むむ、むむむむ~!」


 心底悔しそうに唸るルーくん。

 結局、その後はおとなしく協力プレイに移行したんだけれども……僕が油断した頃に、またこちらを攻撃し始めてきたのは、言うまでもないかもしれない。

 ルーくん、案外と好戦的なんだよね――。



   *次回予告*


 協力プレイと紙一重の対戦プレイ――その魅力に取りつかれたルーくんが次に挑むのは、そびえ立つ絶対氷壁!?


 次回、「氷壁登り」をお楽しみに!


(注:この次回予告には一部嘘が含まれています)

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ルーくんはゲームが好き 澤田慎梧 @sumigoro

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