「マッポー」編

GAME 30「マッポー(1)」

 ――夕方。

 所用で少し遅れて帰宅すると、ルーくんと母さんが既に来ていて、リビングの大型テレビで何かのアニメを観ていた。

 画面の中では、愛嬌のある顔をしたハチワレの猫が、一匹のネズミを追い回している。……世界的に有名な古典アニメだ。

 猫はいつも良い所までネズミを追い詰めるのだけれども、すぐにネズミが機転を利かせ、逆転勝利するのが大概だ。


「へぇ、懐かしいね、これ。再放送?」

「ちがうよ~! ママがね、ひゃくえんショップで『でぃーぶいでぃー』をかってくれたの~!」

「ああ……」


 どうやら、最近百円ショップで売ってるような格安DVDを再生しているらしい。

 版権が切れたのか、はたまた使用料が安くなったのか、昔の名作アニメが結構な種類、販売されているのを見た覚えがある。

 ――もっとも、字幕や吹き替えのクオリティが微妙なので、物によっては見るに耐えないらしいけど。


 幸い、ルーくんが今観ている作品は、殆ど台詞がないアニメだ。吹き替えや字幕のクオリティが低くても、あまり問題ない。

 ……というか、恐らく姉さんがそういう作品を選んで買ったのだろう。そういう所はしっかりしているのだ、あの人。


 等と考えている内に、画面の中では猫がネズミの仕掛けた罠にはまって、ペシャンコになっていた。

 ペシャンコと言っても、コメディなので漫画的な演出だ。猫はもちろん死なず、ペラペラの一反木綿のようになって風に吹かれて飛んでいくだけだ。


「おもしろかったー! ネズミさん、あたまいいんだね! ねこさんもかわいい!」


 どうやらルーくんはこの作品がお気に召したらしく、ご機嫌だった。

 やはり、古い作品でも元々の出来が良いと、世代を超えて受けるんだな。


 ――ふむ。しかし、「猫とネズミの追いかけっこ」か。

 そう言えば、ファムコンにもそんなゲームがあったな。


   ***


「ジャーン! 『マッポー』!」

「わ~パチパチパチ! ……ネズミのおまわりさん?」


 ルーくんの言う通り、僕が差し出したゲームのパッケージには、警察官の恰好をしたネズミが描かれている。

 ついでに悪そうな顔をした大きな猫と、ネズミに追いかけられて泣いている小さな猫も。


 「マッポー」は一九八四年に発売されたゲーム。

 猫の「ニャーヌコ」とその子供達「ニャーキーズ」に奪われたお宝を、熱血警察官の「マッポー」が取り返す、というコンセプトのアクションゲームだ。


 舞台はニャーヌコのアジトである五階建ての洋館。

 マッポーはそこに散りばめられたお宝を、ニャーヌコ達の妨害を避けながら回収していく。

 けれどもこの洋館、なんと階段の類が無い。ではどうやって階の移動をするのかというと――「トランポリン」を使う。


 洋館のそこかしこには、各階を貫く吹き抜けがある。吹き抜け部分は一階の床も抜けていて、その代わりにトランポリンが張られている。このトランポリンで飛び跳ねて、各階を移動するのだ。

 ただしトランポリンは、跳ね続けていると段々と弱っていき、最後には破れてしまう。当然、破れるとマッポーはそのまま穴に落ちて、ミスとなる。

 トランポリンの耐久力は、一度どこかの階に移動すると復活する仕組みだ。


「トランポリン! ルーくんトランポリンとくいだよ~! たいそうきょうしつでならったもん!」

「へぇ。ルーくん、トランポリンなんて習ってたんだ」

「えっへん! すごいでしょ?」


 得意げに胸を張るルーくん(可愛い)。

 そういえば、姉さんが「一通りの習い事は仕込んだ」って言ってたな。その一通りがどこからどこまでを指すのかは知らないけど、体操教室には通わせていたらしい。

 ……まだ幼稚園児だというのに、大変だな。僕なんて、習い事は小学校に入ってからだったのに。


「じゃあ、まずは僕が見本を見せるね?」

「おー!」


 ルーくんの掛け声と共にスタートボタンを押す。

 実はこのゲーム、プレイするのは久しぶりなんだけど、上手く出来るだろうか?


 まずは一面。

 洋館の断面図を横から見たようなステージが表示され――軽快なBGMが流れ始めた。

 初期のゲーム音楽の中でも名曲と名高い、マッポーのメインテーマだ。


「わっ!? ねこさんたちがたくさんいるよ?」

「うん。ニャーヌコが一匹と、ニャーキーズが……三匹? だったかな。最初から数が結構いるから――」


 開始早々、マッポーの近くにニャーヌコ達がやってきた。マッポーは、ニャーヌコ達に触れられただけでやられてしまうので、危険極まりない。

 けれども幾つか例外がある。例えばトランポリンでジャンプ中は、ニャーヌコ達と接触してもミスにならない。

 なので僕は早速、マッポーをトランポリンへと退避させた。

 すると――。


「あはは、ねこさんたちもトランポリンではねてる~!」


 ルーくんの言葉通り、マッポーがトランポリンへ退避すると、ニャーキーズ達がそれを追いかけるようにトランポリンへと乗って来た。

 基本、ニャーキーズはマッポーの後をひたすら追いかけ、ニャーヌコは決まったパターンで移動する。その辺りをきちんと見極めないと、すぐにやられてしまうのだ。


 ジャンプ中に各階へ移動するには、十字ボタンの左右を使う。

 各階への移動は上昇中だけしか出来なくて、下降中は落ちるに任せるしかない。

 マッポーが飛び跳ねる速度は結構速いので、うっかりお目当ての階へ移動し損ねる、なんてこともままある。

 そんな時にニャーキーズが大量に寄ってきてしまうと、トランポリンから降りるタイミングを逸して破ってしまう……何てミスも、結構やってしまうのだ。


「アッくん、あそこにがおいてあるよ? あれはなに?」

「ああ、あれがニャーヌコさん達が盗んでいったお宝だよ」


 洋館の各所には、五種類のお宝が二つずつ散りばめられている。

 それぞれ「ラジカセ」「テレビ」「パソコン」「絵画」「金庫」の形をしていて、後ろに行くほど得点が高い。

 しかも、対になっているものの片方を取ると、もう片方が点滅し始めて、それを取るとボーナスが入る。ただし、他の種類のお宝を取ってしまうと、ボーナスは途切れてしまうという仕組みだ。


 制限時間もあるので、無理してボーナスを狙うよりは、手近なお宝の回収を目指した方が良い場合もある。

 ルーくんにもまずは、得点は意識させないで普通にプレイしてもらった方がいいだろうな――。

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