GAME 29「ゲルダの伝説(4)」

「よ~し! きょうもシンクさんとぼうけんするぞ~!」


 ――「ゲルダの伝説」をプレイし始めて早数日。ルーくんはコツコツとだけれども、このゲームを攻略しつつあった。

 今までは「電源を切ったら最初からやり直し」だったのが続きから出来る訳で、ルーくんのモチベーションも保たれやすくなったらしい。


 セーブ・ロード機能のある「南天堂ディスクシステム」は、こうやって日をまたいでプレイを続けられるのが強みの一つだった。

 「ゲルダの伝説」に少し遅れて発売された「クエドラ」なども、「パスワード方式」で日をまたいだプレイ継続が可能だったけれども、やはりデータとしてゲーム側に記録されることの優位性は圧倒的だった。

 ……「クエドラ」のパスワードを間違えてしまって、途方にくれた子供も多かったんだよね。


 とはいえ、「ゲルダの伝説」発売の翌年にはもう、「バッテリーバックアップ」と呼ばれるセーブ機能を備えたファムコンのロムカセットが登場してしまう。これはロムカセットに記録用のメモリと、メモリに電力を供給する電池を内蔵したものだ。電池の寿命が尽きるまで、メモリの内容が保持される仕組みだ。

 更に翌年の一九八八年には、社会現象にもなった「クエドラ3」が「バッテリーバックアップ」搭載で発売され、ディスクシステムの優位性は崩れていくことになる。


 更に追い打ちをかけたのが、ディスクシステムの「記録容量」の問題だ。

 専用磁気ディスクの容量は、両面合わせて112キロバイト。「クエドラ」の容量が64キロバイトだったから、二倍近い大容量だった。

 でも、ロムカセットはその後の技術革新で大容量化の一途を辿り、すぐに128キロバイト――ビット換算すると「1メガビット」の物が登場した。ディスクシステムの容量は、あっという間に追い越されたわけだ。


 他にも、磁気ディスク故のアクセス・記録速度の遅さ、磁気に弱くデリケートな点、駆動部品を含む為に損耗しやすい……等の理由があって、「南天堂ディスクシステム」はやがて廃れていった。

 実際、僕が持っていたディスクシステムも既に壊れていて、実機で遊ぶことは出来ない。磁気ディスクも読み込めなくなっている可能性が高かった。

 ロムカセットのゲームが未だに動くことを考えると……何とも侘しいというか、なんというか。


「やったー! みてみてアッくん! レベル2のボスをたおしたよ!」


 気付けば、ルーくんが苦心の末に「LEVEL-2」のボスを倒していた。

 このダンジョンのボスは、サイにも似た大型のモンスターで、剣での攻撃が効かない。攻略法はなんと……「爆弾を食べさせる」だ。爆弾を目の前に置くとパクパクと食べてくれるので、それを数回繰り返せば倒せる。

 けれども、ゲーム中では「ボスは煙に弱い」という謎のヒントしか与えられないので、ルーくんも頭を悩ませていたのだ。


 ちなみに「煙に弱い」というヒントも間違いではない。

 実は、爆弾が爆発した時に出る煙をボスに当てると一瞬だけ怯んでくれて、その間は剣でもダメージが通るのだ。

 でも、爆弾を食べさせた方が遥かに楽だったりする。一体何の為のヒントなのだろうか……?


「じゃあ、キリがいいから今日はここまでにしようか?」

「うん! じゃあ、……と」


 ルーくんが徐にミニファムコンのリセットボタンを押した。普通のファムコンなら、ゲームの進行状況がリセットされてしまうところだけど……そうはならない。

 ミニファムコンのリセットボタンは、本体メニューの呼び出しボタンになっているのだ。


 ルーくんは慣れた手付きで、ミニファムコンに搭載された機能の一つ「中断ポイント」を使って現在までのデータを保存した。

 「中断ポイント」というのは、リセットボタンを押した時点でのゲームの進行状況を丸ごと保存してしまう機能だ。一つのゲームタイトルあたり四つまで登録出来る。全く、便利な世の中になったものだ。


 最初はルーくんも、「ゲルダの伝説」本来のセーブ機能を使っていたのだけれども、段々と面倒くさくなったのか、途中から「中断ポイント」を使うようになっていた。まあ、その気持ちはよく分かる。


 「ゲルダの伝説」のセーブ方法は少し特殊だ。

 基本的にはゲームオーバーになった時に出る、「続ける」か「セーブして終わる」か「やり直す」のメニューから「終わる」を選んでセーブするのだ。

 それ以外の方法でゲームを中断するには、なんとコントローラー2を使う。「サブ画面」を表示させた状態でコントローラー2の上とAボタンを同時押しすると、中断メニューが表示されるという謎仕様が採用されていた。

 これが微妙に面倒くさい……。


「きょうのおやつは、なっにかな~♪」

「あ~、さっきバァバがドーナッツを揚げる、とか言ってたかな? ほら、何だかいい匂いがするよ?」

「わ~い! ルーくん、バァバのドーナッツ大好き~!」


 歓喜の声を挙げながら、ルーくんがリビングへと駆けていく。

 僕はルーくんが切り忘れたテレビの電源を消しつつ、ふとゲーム棚に目を移した。

 そこには未だルーくんに遊んでもらえていないファムコンタイトルが、所狭しと並べられている。名作からクソゲーまで、僕が子供の頃に熱中したもの、大人になってから手に入れたものが、整然と。


 ルーくんが成長するまでの長いようで僅かな間に、一体どれだけのファムコンソフトを遊べるのかな。

 僕はそれが一本でも多くなることを願いながら、甘い匂いの漂うリビングへと向かった――。




   *次回予告*


 ルーくんは燃え尽きていた。

 「ゲルダの伝説」をなんとかクリアしたものの、「しばらくはもっとたんじゅんなゲームがいい……」とお疲れ気味だ。

 折しもテレビでは、猫と鼠が追いかけっこをする古典アニメがやっている。――ふむ。そういえば、このアニメを思い起こさせる名作アクションゲームがあったな!


 次回、「マッポー」をお楽しみに!


(注:この次回予告には一部嘘が含まれています)


【作者からお知らせ】

 当初目標としてた八万文字を超えましたので、「ほぼ毎日更新」はいったん休止し、今後はマイペースで更新していく予定です。

 皆様からの応援やコメント、お星さまによって加速しますので、ドウゾヨロシク――。

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