GAME 06「スーパーマダオブラザーズ(2)」

「わっ! おそらがあおいねー!」


 ――ファムコンの電源を入れ、「スーパーマダオブラザーズ」のタイトル画面が表示された時の、ルーくんの第一声がそれだった。

 初期のファムコンゲームは、タイトル画面もゲーム本編も、背景が真っ黒であるものが多かった。ルーくんにプレイさせた「ドンキーゴリラ」も「マダオブラザーズ」も、背景は真っ黒だ。


 けれども「スーパーマダオブラザーズ」は、タイトル画面からしてカラフルそのものだ。

 茶色を基軸とした大きなタイトルロゴ。その裏に広がる青空。地面も茶色のレンガで、その中に立つマダオは鮮やかな赤い帽子とオーバーオールに身を包んでいる。

 背景には、山と木々らしきオブジェまである。それまでのゲームとは違って、格段にカラフルなのだ。


 僕も初めてこのゲームを遊んだ時は、そのカラフルさ――もっと言えば「世界の広さ」に感動したものだけれども、どうやらルーくんともその気持ちを共有出来たらしい。

 まあ、それを狙って初期の黒背景・固定画面のゲームばかりをやってもらっていたんだけど。


「あ、マダオがかってにうごきだしたよ?」

「ああ、いつものデモ画面だね。丁度良いから、この画面を見ながら簡単にゲームの中身を説明していくね?」


 御多分に漏れず、このゲームもタイトル画面でしばらく放置しているとデモプレイが始まるようになっている。

 しかも今までのゲームと違って、タイトル画面のマダオがそのまま動き出すから面白い。

 デモ画面では、マダオが右へ右へと軽快に走り出している。


「わっ、がうごいたよ!?」

「うん。このゲームではね、キャラクターの動きに合わせて背景が動くんだ。『スクロール』って言うんだよ?」


 背景があることにも驚いていたくらいだから、それがキャラクターの動きに合わせてスクロールする様は、ルーくんにとっては正に驚きだろう。

 ……まあ、姉さんがスマホゲーとかプレイしている時に見てるはずなんだけどね。ルーくんの中では「スマホゲーム」と「ファムコンゲーム」が別物扱いされているのかもしれないな。


 「スーパーマダオブラザーズ」の基本は、右へ右へとマダオを進めていき、時間内までにエリアの最後にある城を目指す、というものだ。

 もちろん、途中には亀族や裏切り者のキノコなどの敵キャラクターが居て邪魔をしてくるし、穴やトゲ等の罠も待ち構えている。それらを上手く倒したり躱したりして、無事に城まで辿り着く必要がある。


 ステージ数は、背景の異なる八ワールド×四エリアの、計三十二面。

 同じようなステージを繰り返すのが当たり前だったそれまでのゲームと比べると、格段のボリュームだ。

 しかも、隠し要素としてルートの短縮やら何やらもあって……今のゲームと比べてみても、かなり高い完成度があるように見える。


「まず、操作の基本だけど……十字ボタンはいつも通り、キャラの移動に使うんだ。右と左でキャラの移動。上と下は……おいおい説明していくね。で、Aボタンはジャンプ。これは『マダオブラザーズ』と同じだね。短めに押すとちょっとだけジャンプ、長く押すと高くジャンプするよ」


 画面の中で歩いたりジャンプしたりしているマダオを指さしながら、ルーくんに説明していく。

 やがてマダオは最初の敵、裏切り者のキノコである「トレボー」に遭遇する。


「あ、キノコさんだよ! たすけなきゃ!」

「あはは、残念ながらこれは悪いキノコさんなんだ。だからやっつけなきゃいけないんだけど――」

「あっ!」


 説明しようとするや否や、画面内のマダオはジャンプからの踏みつけで、トレボーを踏みつぶしてしまった。

 哀れトレボーはペシャンコになってマダオの得点に……。


「……今みたいに、ジャンプして上から踏みつけると倒せるんだ。普通に触っちゃうと、齧られてマダオさんがやられちゃうから気を付けてね?」

「うん。ちょっとキノコさんかわいそうだけど、わかった!」


 ルーくんはペシャンコになったトレボーに同情しているようだった。流石は我が甥。慈悲深い。

 ――菩薩かな?


「でね、ルーくん。このゲームには色んな所に『?』マークのブロックがあるんだけど、それを下から叩くと――」

「あ、キノコがでてきたよ!」

「うん、こっちはさっきのと違って良いキノコさんなんだ。で、早速キノコさんを助けると――」


 デモ画面上では、マダオが「?」ブロックを下から叩き、中からキノコを出現させていた。キノコはそのままスーッと動き出し、マダオがそれに触れると――。


「わっ!? マダオさんがおっきくなった!」


 なんと、マダオの背丈が一気に二倍くらいになる。


「うん。キノコさんを助けたから、その力を借りてマダオさんがパワーアップしたんだ。その名も『スーパーマダオ』!」

「すーぱーまだお?」


 そう。タイトルにもなっている「スーパーマダオ」とは、キノコの力を得て大きくなったマダオのことを指す。

 この状態のマダオは、敵に噛みつかれても一度だけ耐える(普通のマダオに戻る)ようになるし、ジャンプして下からブロックを叩くことで破壊出来るようにもなる。

 正に「スーパー」なマダオなのだ!


「『?』ブロックからは、他にもコインが出たりもする。あと、『スーパーマダオ』の状態でキノコが出るブロックを叩くと『お花』が出て、更にマダオさんが強くなるよ――その名も『ファイヤーマダオ』!」

「ふぁいやーまだお?」


 「スーパーマダオ」は、更に「ファイヤーマダオ」にパワーアップできる。

 「ファイヤーマダオ」になると、Bボタンで火の玉を投げられるようになり、それで敵を倒せるのだ!


「さて、基本はこんなところかな? まずは実際にプレイしてみて、少しずつ覚えていこうか?」

「うん!」


 コントローラーを握りしめながらルーくんが元気に答える。いよいよゲームスタートだ。

 早速とばかりに、ルーくん自らスタートボタンを押すと――軽快なBGMが流れ出した。


「わ、アッくん! おんがくがながれてきたよ!?」

「うん。この『スーパーマダオブラザーズ』はね、音楽――BGMも素敵なんだ。しばらく聞いてみる?」


 ――期待通りのルーくんの反応に、心の中でガッツポーズをする。

 それまでのファムコンゲームのBGMには、「曲」と呼べるほどのものはあまり多くなかった。単純なメロディの繰り返しや一定のリズムだけのもの、というゲームも少なくなかったのだ。

 それが、この「スーパーマダオブラザーズ」では、きちんとしたメロディとリズムがあり、AメロがありBメロがあり、サビまである、きちんとした楽曲になっている。

 アーケードゲームからの移植以外では、中々に画期的だったのだ。


 ルーくんも気に入ったらしく、早速たどたどしくも口ずさみ始めたけれども……手元がお留守になっている。

 この後には、、そんな調子で大丈夫かな――?

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