GAME 34「戦え!バルーン(2)」
「わわわっ!? トリさん、どいてー!」
早速「戦え!バルーン」を遊び始めたルーくんだったが、予想通り苦戦していた。やはり、独特の操作感に慣れないらしかった。
まずこのゲーム、キャラクターの動きがとても速い。地面を歩いていても空を飛んでいても、結構なスピード感がある。
そして「風船で空を飛ぶ」という独特の浮遊感を演出する為か、「慣性」がとても強く働く。当たり前の話だけど、スピードに乗った状態で反対方向へ急に切り返す――なんて芸当は中々に難しい。
AボタンやBボタンで「羽ばたいて」上昇する、という操作も中々に曲者だ。Aボタンは一回だけ、Bボタンは押している間ずっと羽ばたき続けるんだけれども、この上昇力が中々に強くて、油断しているとあっという間に画面の上端に辿り着いてしまう。同じ高さに留まり続けるには、微妙な力加減が必要だった。
しかも、例の「慣性」のせいで、横の動きをしている最中に強く羽ばたくとあらぬ方向へと上昇してしまい、敵にぶつかってしまう――なんてこともある。
逆に、低い高度を維持しようとして、例えば水面ギリギリを飛んでいると――。
「ああっ!? おさかなさんにたべられた!?」
水面ギリギリを右往左往していたルーくん操る風船男が、突如として水中から跳ね上がって来た巨大魚に、パクリと一呑みにされてしまった! 当然、ミスとなってプレイヤーの残機が一つ減ってしまう。
この巨大魚はいわゆる「お邪魔キャラ」の一つだ。普段は水中を周回していて、プレイヤーキャラや鳥人間が頭上を通りかかると跳ね上がって丸呑みにしてしまう恐ろしい敵だった。残念ながら倒すことは出来ず、プレイヤー側は一方的に捕食されるしかない。
しかも、食われた時には不穏なSEも鳴るものだから、人によってはトラウマになるまである。
「むー、てきはトリさんだけじゃないんだね……」
画面上には、今日何度目かの「GAME OVER」の文字列が浮かび、ゲームオーバーには似つかわしくない陽気なBGMが流れている。
「ルーくん、ぼちぼち一休みしておやつでも食べる?」
「いらない! ぜったいいちめんクリアする!」
器用なルーくんにしては珍しく、今回はまだ一面もクリア出来ていない。そのことがよほど悔しいのか、ルーくんは毎日楽しみにしているおやつタイムにも心動かず、コントローラーを離そうとしなかった。
まあ、まだ十数分しか経ってないし、もう少し頑張らせてみますか……。
「え~と、てんじょうにぶつかるとはねかえっちゃうからきをつけて、トリさんのフーセンをわったときもふきとんじゃうから……」
ルーくんがブツブツと何事か呟きながら、何度目かの挑戦を開始した。どちらも、このゲームを難しくしている要素だ。
まずこのゲーム、画面上端に接すると跳ね返される。見えない天井があって、画面外にはみ出すことは許されないのだ。なお、画面の左右の端はそれぞれ繋がっている、いわゆるループ構造になっているので、跳ね返されることはない。
また、敵の風船を割った際には、反動でプレイヤーキャラがノックバックする。この勢いが結構強いので、目の前の敵の風船を割ったら、その勢いで後ろの敵の方まで吹き飛ばされた……なんてケースにも遭遇する。
闇雲に敵の風船を割り続ければクリア出来る、という訳ではないのだ。
更には――。
「ああっ!? カミナリだ!」
一つのステージにあまり時間をかけすぎると、雷雲から雷が発射されプレイヤーの邪魔をしてくるようになる。雷に当たると、風船の数に関わらずミスとなってしまう。
しかもこの雷、厄介なことに浮島や地面に当たると跳ね返るのだ。「雷がそんな動きするか!」と思わなくはないけれども、ゲームのルールなので仕方がない。
一回避けても、どこかに跳ね返って違う軌道でまた飛んできたりするので、あまり一つのステージに時間をかけないのが得策だ。
どうやらルーくんは、この雷の対処が苦手らしく先ほどから度々やられていた。
……というか、「処理すべき情報」が増えると途端に判断が鈍ってしまう、といった方が正確だろうか?
「戦え!バルーン」は単純に見えて、実は情報量の多いゲームだ。基本操作だけでも忙しいのに、それ以外にも「パラシュート状態の敵が水中に落ちても得点にならない」だとか「敵が魚に食べられても得点にならない」だとか、「敵を水中に蹴落とすと、落ちた所からボーナスアイテムのシャボン玉がぷかぷか浮いてくる」だとか、様々な要素が一つの画面の中に入り乱れている。
初心者の場合、そういったボーナス要素はさておいて、ステージクリアだけに注力した方が楽なんだけど、ルーくんは負けず嫌いと言うか完璧主義者というか、そういう子供だ。
全部の鳥人間をきちんと水中に蹴り落としたいし、シャボン玉も全部割っておきたい。ついでに言えば、自分の風船を一つも割られずにクリアしたい。どうやらそういう拘りが強いらしい。
……ゲームなんだからもう少し気楽に、と思う反面、そういう拘りを持った人はゲーマーに向いている訳で。僕はルーくんを急かすようなことはせず、じっくりとプレイするその姿を見守ることにした。
結局、ルーくんが一面をクリアするのには更に十数分かかった。
けれども、それ以降の面は実に順調に進んでいったのだった――。
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