「大興奮バイク野郎」編

GAME 11「大興奮バイク野郎(1)」

「ねぇねぇ、アッくんは『おめんライダー』しってる?」


 ある日の午後。

 一緒に某有名ブロックゲーム(物理)で遊んでいた時に、ルーくんが脈絡なくそんなことを聞いてきた。


 「御面おめんライダー」というのは、昭和の時代から断続的に続いている人気特撮シリーズだ。

 改造人間だったり超人だったりする主人公達が、仮面で顔を隠しつつ人知れず悪の秘密組織と戦ったりする、「変身ヒーローもの」の代表格で、近年では若手イケメン俳優の登竜門にもなっている。


「『御面ライダー』? もちろん知ってるけど……なんで?」

「ルーくんね、しょうらい『おめんライダー』になるの! バイクがね、ぶぉ~ん! って、かっこいいの!」


 言いながら、何だかやけに未来的デザインのバイクをブロックで完成させるルーくん。

 僕が組み立てたものより遥かに上手な出来栄えだ。我が甥ながら、末恐ろしい……。


 しかし、「御面ライダーになる」か。

 そういえば僕も、小さな頃は御面ライダーに憧れてたな。変身ポーズとかよく真似たし。

 でも、大きくなってくると「改造人間」とか結構ヘビーな設定が気になってくるんだよね……。ルーくんもあと何年、純粋な憧憬しょうけいを向けられるだろうか?


 ――まあ、不肖の叔父としては、せめて可愛い甥っ子の憧れを大事にしてあげるべき、かな?

 ふむ。「スーパーマダオ」の次は何のファムコンゲームをやらせるか悩んでたけど、「御面ライダー」……それに今やっているブロック遊び……。少し閃いたぞ!


「そっかっそっか。ルーくんは『御面ライダー』になりたいのか。じゃあ、バイクの勉強もしないとね? ――実は、丁度良いファムコンゲームがあるんだ」


 僕の言葉に、ルーくんはたちまちその大きな瞳を輝かせ始めた――。


   ***


「ジャ~ン! 『大興奮バイク野郎』!」

「わ~! パチパチ~!」


 最早お馴染みとなりつつある僕のゲーム紹介に、ルーくんが優しくも合いの手を入れてくれる。

 口でパチパチ言ってくれてるけれども、肝心の拍手の方は「ペチペチ」という感じなのが、また可愛らしい。

 ――それはともかくとして。


 「大興奮バイク野郎」は、一九八四年に南天堂から発売されたタイトルだ。名前の通り、バイク――モトクロスを題材にしている。

 モトクロッサーモトクロス用バイクを巧みに操り、アップダウンやジャンプ台、等の障害物を避けたり利用したりして、タイムを競うゲームだ。

 残念ながら一人用なので対戦は出来ないんだけれども……実は、対戦以上に「燃える」機能が付いてたりする。まあ、それについてはおいおい。


「わぁ~! ぱっけーじいらすとカッコイイね!」


 ルーくんが「大興奮バイク野郎」のパッケージイラストを見て感嘆の声を上げていた。

 確かに、このゲームはパッケージは金色だし、イラストはマットな配色の写実的なものだしで、やたらとかっこいい印象がある。

 まあその分、初期ファムコンの簡素なドット絵との落差があるような気もするけど……。


「よし、じゃあ早速始めてみようか」

「おー!」


 ファムコンの電源を入れると、やや調子の外れたBGMに乗せて青背景のタイトル画面が表示された。


 さて、このゲームには三つのモードがある。

 一つ目は「単独走行モード」。これは文字通り、コースを自分のモトクロッサーだけで走行するモードだ。

 二つ目は「レースモード」。こちらにはライバル達が登場し、抜きつ抜かれつ、邪魔しつつされつつのレースが展開され、ちょっと難度が上がる。

 三つ目は……今は置いておこう。


「じゃあ、まずは単独走行モードで操作を練習してみようか」

「わかったー」


 「大興奮バイク野郎」のコースは基本、横スクロールの直線のみだ。実際にはトラックになっているらしく周回要素があるのだけれども、表示性能の問題か、はたまた容量の問題か、見た目はあくまでも真っすぐだ。カーブの類は無い。

 基本操作は十字ボタンの上下でハンドル操作、AボタンとBボタンでそれぞれ性能の異なるアクセル操作を行う。


 Aボタンは通常アクセル。押せば加速し、離すとブレーキがかかる。

 Bボタンはターボ。加速性能が高いけど、エンジン温度がすぐに上がってしまい、オーバーヒートすると数秒間動けなくなってしまう。

 それぞれの使い分けが重要になってくるんだけど――


「よぅし、いくぞ~! いっけ~! はしれ~! とばせ~! ……あれ? アッくん、バイクさん動かなくなっちゃったよ?」


ルーくんは開始早々、オーバーヒートを起こしてしまっていた。うん、あれ、思ったよりもオーバーヒートするの早いんだよね……。


「Bボタンを長く押しすぎたね。ある程度スピードが出たら、Aボタンに切り替えるんだ。エンジンの温度――画面下の緑のゲージね? これが真っ赤になると走れなくなるから、緑色の部分の残りに気を付けて使い分けるのが大事だよ」

「ふぅん……。バイクさんも、はたらかせすぎるとスネちゃうんだね」

「あはは、そうかもね」


 相変わらず面白い語彙を披露するルーくんに、思わず苦笑いする。

 この位の歳の子は、親兄弟の言葉を真似るものだけど……姉さんと義兄さん、普段ルーくんの前でどんな会話してるんだろう?


 ――レースが再開する。

 流石にルーくんは物覚えが早く、早速AボタンとBボタンを巧みに使い分けて、モトクロッサーを軽快に走らせていた。

 けれども、このゲームの肝はアクセル操作だけじゃない。


 上を通過すると大幅にスピードが落ちてしまう「ぬかるみ」。

 コース上に沢山設置された凸凹。

 モトクロッサーが大きく跳ね上がってしまう「ジャンプ台」。

 ――等など、様々な起伏や障害物を上手に乗り越えていかなければならない。


 「ぬかるみ」や凸凹は、上下キーで上手く避ける必要がある。

 「ジャンプ台」では、十字ボタンの左右でモトクロッサーの角度を調節して、高く短くジャンプするか、低く長くジャンプするかを慎重に調節する必要がある。

 また、ジャンプした場合、着地点とモトクロッサーの角度をしっかり合わせないと、大きく減速したり、最悪バイクが転倒して大きなタイムロスになってしまう。


 しかもそういったあれこれのテクニックを覚えて、ようやくスタート地点といったところなのだ。

 ルーくんに今やってもらっているのは「単独走行モード」。その後には競争相手がいてより難度が高くなる「レースモード」が控えているし……何より、このゲームの醍醐味ともいえる第三のモードも待ち構えているのだ。


 ――そう。人によっては「レースモード」よりもやりこんだであろう、「デザインモード」が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る