GAME 25「ドゥルガーの塔(3)」
ルーくん操る勇者ギルガメシュは、順調に「ドゥルガーの塔」を攻略していた。
「ドゥルガーの塔」は、アクションゲームとしては難しい部類に入る。流石に「魔王村」ほどのシビアさはないけれども、「スーパーマダオ」と比べても難しい方だろう。
なので、ルーくんのギルガメシュも、既に何度もやられていたのだけど……。
「あっ!? またゲームオーバーだ……。よ~し、コンティニューしてがんばるぞ~!」
その難度故か、「ドゥルガーの塔」にはデフォルトでコンティニュー機能が実装されていた。
この時代の他のゲームにもコンティニュー機能はあったけど、その多くがいわゆる「裏技」扱いだった。「ドゥルガーの塔」のように、タイトル画面から普通にコンティニュー出来るのは少数派なのではないだろうか?
おまけに、このゲームのコンティニューは、ただ続きから遊べるだけじゃない。「今までクリアした階の中から選択して、そこから再開出来る」のだ。
これは「宝箱」を取り逃した場合の救済措置なのだろう。何せ、一部の「宝箱」を取り逃すと、実質クリア不可能になる訳だし……。
とにもかくにも、ルーくんはこのコンティニュー機能のお陰で、コツコツとゲーム攻略を進められているのだ。
更にもう一つ、ルーくんが順調に「ドゥルガーの塔」を攻略出来ている要因があった。
それは――
「ねぇねぇアッくん。このかいのたからばこは、どうやってだすの?」
「ん? ええと、今は七階だから……壁を壊して『カッパーマトック』をわざと使い切ってみて! そうすると今度は、壁を最大四回まで壊せる『
このように、「宝箱の出し方」を僕が横から教えていたのだ!
人によっては「ずる」と思うかもしれないけれども……「宝箱」の出し方まで自力で攻略しようと思ったら、この「ドゥルガーの塔」は「魔王村」以上の超高難度ゲームになってしまう。
というか、僕だって子供の頃には攻略本に頼って遊んでいたのだ。自分が出来ないことをルーくんに強いることは出来ない。
今ルーくんがチャレンジしている「シルバーマトック」なんて、大事に扱っていた「カッパーマトック」をわざと壊さないと手に入らないのだ。ノーヒントで辿り着いた人は、本当に凄すぎる。
上の階に行けば行くほど、この手の「普通にプレイしていては辿り着けない」ような条件が増えていく。おまけに、中には「ギルガメシュがパワーダウンしてしまうアイテム」まで混じっているのだ。
宝箱の出し方とその中身を教える位、ルーくん位の子供に対しては良いハンデじゃないだろうか――?
***
――とまあ、ハンデを付けてみてもやはり「ドゥルガーの塔」は難しい。
不屈の闘志を持つルーくんも、かなり疲れてきたようだ。
特にルーくんが苦戦しているのは、「マジシャン」系のモンスターだった。
「マジシャン」系は、ワープと遠距離攻撃を繰り返すタイプの敵だ。一定の法則に従ってパッと現れ、呪文を放つとまたすぐに消える。倒すには、呪文を放ってから消えるまでの僅かな時間を狙わなければならない。
おまけにこの「マジシャン」系には幾つかの種類があって、これがまた対処に苦労する。
「紫マジシャン」はワープと攻撃しかしてこない。けど、油断すれば一撃でやられてしまうので、決して雑魚とは言えない。
「緑マジシャン」の呪文は、途中で「火の玉」になって一定時間その場に残り続ける。「火の玉」に触れると当然アウトだ。ただし、この「火の玉」のダメージは、とあるアイテムの入手で無効化出来る。
「灰マジシャン」の呪文は、迷路の内壁を破壊する。ギルガメシュの通路を増やしてくれると同時に、呪文からの退避場所がどんどんと減っていくことにもなるので、時間が経てば経つほど厄介になっていく。
極めつけが「橙マジシャン」。こいつの呪文は、なんと壁をすり抜ける。
ギルガメシュが呪文の交差する地点にいると、防ぐのがかなり難しくなるのだ。
他にも厄介な敵は目白押しだ。
特定のアイテムが無いと姿を見ることが殆ど出来ず、しかも「マジシャン」系と同じ呪文で攻撃してくる「ゴースト」。
ギルガメシュの体力を大幅に奪ってくる触手の怪物「ローパー」。
その中でも印象的なのが、ファンタジーの王道的モンスターである「ドラゴン」系だろうか?
御多分に漏れず、「ドゥルガーの塔」のドラゴンも炎を吐いて攻撃してくる。壁も壊してくるし、更には一定以上の強さの武器や専用のアイテムを持っていないと倒せない。まさに強敵だ。
しかも、このゲームでは「ドラゴン」系の敵が登場する階では、BGMが専用のものに変化するという気合の入れようだ。後年のロールプレイングゲームで言う「中ボス」みたいな風格を備えたモンスターと言えるだろう。
――出来れば、最初のドラゴンが登場する十五階まで進めてもらいたい。
けれども、既にルーくんの顔には疲労の色が出始めているし、かれこれ一時間以上プレイしている。いつものように休憩を入れるべきだろう。
「ルーくん。もう一時間以上経ってるから、休憩にしようか」
「ええ~!? ルーくんもうすこしでこのステージクリアできるよ! もうちょっとやらせて~!」
「だ~め。ルーくんさっきから、怖いお顔になってるよ? ゲームを楽しむ最高のコツは、何よりリラックスすること! ささ、リビングに行っておやつ食べよ?」
「ぶ~」
珍しくルーくんはぐずっていた。いつもはわがままなんて言わない子なのに。
どうやら「ドゥルガーの塔」は、ルーくんの闘志に火を点けてしまったようだ。
――まあ、でもそれはそれとして。きちんとけじめは付けなければ。
「う~ん、約束をちゃんと守れない子には、もう『宝箱の出し方』は教えてあげないぞ?」
「いいも~ん! じりきでがんばるも~ん」
「……ほう、言ったね?」
いつになく頑ななルーくんを前に、思わず「実際に自力で進めさせたらどうなるかな?」等と考えてしまう。けれども、それではルーくんの態度を硬化させるだけだろう。
普段わがままを言わない分、一度こじらせるとルーくんはとことん頑固なのだ。
「この先は大変だよ? 例えば、『何もしないで七秒間立っているだけ』とか、『他の敵を一切倒さないで灰マジシャンだけ全滅させる』とか。十字ボタンを決められた順番で決められた回数だけ押すとか――」
「ええっ!? それって、なんかいのおはなし? どうやってしらべるの?」
「教えてあげな~い」
途端、ルーくんが顔色を変えるが、当然僕は答えない。
ルーくんは
「……アッくん、おやつたべにいこ~?」
一転、天使のような笑顔をこちらに向けて来た。
我が甥ながら、中々の計算高さだ……。
――とにもかくにも、こうして勇者ギルガメシュの冒険は一時中断した。
その後も日を変えて、ルーくんの「ドゥルガーの塔」攻略は続いたのだけれども、四十階くらいでまさかのギブアップ。制限時間の減る速度が六倍になる鬼畜アイテムを間違えて取ってしまって、心がぽっきり折れたらしい。
まあ、むしろ「ドゥルガーの塔」を四十階まで進めただけでも凄いんだけど――。
*次回予告*
――こうして勇者ギルガメシュの冒険は道半ばにして終わった。
けれどもルーくんはこう言った「もっと、『ふつうにかんがえればわかる』ゲームならクリアできるもん!」と。
なるほど、ならば「ドゥルガーの塔」とよく似たシステムの、あの名作アクションゲームの出番だな?
次回、「ゲルダの伝説」をお楽しみに!
(注:この次回予告には一部嘘が含まれています)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます