GAME 20「コーベ連続殺人事件(2)」
『悪質なことで有名なサラ金会社の社長が死体で発見される。現場は密室、死体は自殺に見えたが、どうにも腑に落ちない点が多い。「ボス(プレイヤーの分身)」は、部下の「タツ」と共に事件の謎を追うことに――』
これが「コーベ連続殺人事件」の冒頭部のあらすじだ。
このあらすじは説明書にしっかり書いてあるんだけど……実は、ゲーム内に同様の説明はない。
ゲーム開始早々ろくな説明も無しに、タツから「どういうふうに捜査を始めますか?」と尋ねられ、その後の捜査はプレイヤーの手に委ねられてしまうのだ。
今の時代からすれば、考えられない不親切さだろう。
「アッくん~! これ、このあとどうすればいいの?」
案の定、ルーくんも少し戸惑い気味だ。ここは少しだけレクチャーしてあげるべきか――。
「コーベ連続殺人事件」は、いわゆる「コマンド選択方式」のアドベンチャーゲームだ。
画面の右側に複数のコマンド(命令)が表示されていて、それらを選択してタツに指示を出し、実行してもらう。
基本のコマンドは次の通りだ。
『ばしょいどう』は読んで字の如く、場所を移動する。
『ひとに きけ』は、周囲にいる人や呼び出した人物に話を聞く。
『ひと しらべろ』は、現在判明している関係者についてタツに調査させる。
『なにか みせろ』は、周囲にいる人や呼び出した人物に、証拠品を見せる。
『ひと さがせ』は、現在地周辺で人探しをする。
『よべ』は、関係者を呼び出す。基本的には「捜査本部」で使われる。
『たいほ しろ』は、誰かを逮捕する。けれども、当然十分な証拠も無しに逮捕することは出来ない。
『なにか しらべろ』は、現場の詳細を虫眼鏡カーソルで調べたり、持ち物を詳細に調査したりする。
他にも、『たたけ』や『なにか とれ』等のコマンドがある。
更に、それぞれのコマンドには下位の選択肢が存在する。『ばしょいどう』だったら移動出来る場所の一覧が表示されるし、『呼べ』だったら呼び出し可能な関係者一覧が表示される、といった具合だ。
それぞれのコマンドを実行した時の結果は様々だ。
全くの無駄話しか集まらない時もあれば、事件に関係のある話が集まることもある。タツが知っていることを教えてくれる場合もある。
プレイヤーは、それら断片的な情報から段々と事件の全体像を把握していくことになるのだ――。
「ふ~ん、『そうさのきほんはききこみ』なんだね!」
「それも『コスプレ刑事』で覚えたの……?」
相変わらずのルーくんの面白発言に苦笑いしつつ、そのプレイを見守る。
ルーくんはまずは、『ひとに きけ』や『ひと しらべろ』で手当たり次第に情報を集めることにしたようだ。
「ふんふん、じけんのひからゆくえふめいのひとがいる……。ひがいしゃには、おいがいる……ねぇアッくん、『おい』ってなぁに?」
「僕にとってのルーくんみたいな人のことだよ。お兄さんやお姉さん、妹や弟の子供のこと」
「ふ~ん。じゃあ、この『おい』のひとはルーくんとおそろいだね!」
登場人物に自分との共通点を見付けてはしゃぐルーくん。
……言えない。その「甥」はろくでもないチンピラ設定だなんて、言えない!
***
その後も、ルーくんの地道な「捜査」は続いた。
色んな場所に行ってみたり、関係者たちを呼び出して尋問してみたり。同じ場所を行ったり来たりしてみたり……。
まあ、つまりはコマンドの総当たりだ。同じ場所に何度も足を運んでいるのは、得られた情報によって新しい展開があることに気付いたからだろう。呑み込みが早い。
でも――。
「う~ん、さきにすすまなくなっちゃった……」
総当たりには限界があった。
「コマンド選択方式」のアドベンチャーゲームはそのシステム上、コマンドを上から下まで全て実行していけば、全ての選択肢を網羅出来ることになってしまっている。
多くのゲームでは、そういった総当たりによる攻略を防ぐ為に、「特定の順番でコマンドを実行しないと進めない」仕組みや、はたまた画面内をカーソルで選択させる仕組みやらを導入していた。
「コーベ連続殺人事件」もその例に漏れず、総当たりだけではクリア出来ないようになっているのだ。
どれ、そろそろアドバイスするべきかな?
「ルーくん、もう一度殺人現場を確認してみたら? ほら、『コスプレ刑事』にもそんな名台詞があったじゃない。ええと……」
「『げんばひゃっぺん、それもそうさのきほん!』だね?」
「ああ、それそれ。現場百遍ね。まだ調べきれてない場所があるかもしれないよ。『虫眼鏡』で調べてない場所、結構あるんじゃない?」
「たしかに! 『とうだいもとくらし』だね!」
――いや、本当にルーくんは難しい言葉をよく覚えているものだなぁ。
***
「え~と……あっ!? ここにもあった~!」
現場へと再び足を運んだルーくんボスは、次々に新証拠や遺留物を発見していた。
ルーくんは既に、画面上に表示されている「明らかに怪しい部分」は虫眼鏡で調べていたけれども、このゲームは意外な場所にも遺留物が隠されていることがあり、それを見落としていたのだ。
例えば、被害者の屋敷の玄関ドア。
特に壊れているとか奇妙な部分があるとか、そういったことはないのだが……実は、ドアの下の方を虫眼鏡で調べると証拠品の「指輪」が落ちている。
普通にプレイしていると見落としがちな要素の一つだ。他にも、何の変哲もない場所だと思ってスルーしてしまいがちなポイントが、結構あったりする。
――こうして、一時は
そしてルーくんボスは捜査の途中、更に驚くべきものを見付けた!
それは、被害者宅の「応接間」を調べている時のことだった。
「あれぇ? アッくん、なにかでてきたよ?」
応接間には、一枚の絵がかかってた。ルーくんがそれを「なにか とれ」コマンドで取ってみると……その下から、何かのボタンが現れたのだ。
「ボタンだねぇ……。押す、はないから『叩いて』みたら?」
「あ、そうか!」
早速ルーくんは「たたく」コマンドを選択する。
すると金槌のカーソルが表示され、画面の中を選択出来るようになった。ルーくんは慎重な捜査でボタンの上にカーソルを合わせ――。
「……あれ? おしたけどなにもおこらないよ?」
画面の中では、タツもルーくんと同じことを言っていた。確かに、一見すると何も起こっていないように見える。
「なんだろうね~?」
僕は答えを知りつつも、とぼけてみせる。
あまりヒントを与えすぎても、ルーくんの為にはならないからだ。
ルーくんは応接間の中を虫眼鏡で探したり、はたまた色々な所「たたく」コマンドで叩いてみたりと、試行錯誤を続けていた。
けれどもしばらくすると「なにもないね~」と諦めて、「ばしょいどう」で隣の部屋――殺人現場に戻った。
すると――。
「あれっ!? ゆかにあながあいてるよ!」
そう。殺人現場の床に、ぽっかりと四角い穴が黒い口を開けていたのだ。
画面の中のタツもルーくんとシンクロするように驚いている。彼の説明では、どうやら穴の中には地下へ降りる階段があるらしい。
「ルーくんしってる! これ、ひみつのちかしつだよ~!」
「秘密の地下室」とはまた、乙な言葉を知っているなぁ、と思いつつも口には出さない。
ルーくんは地下室の登場でテンションが爆上がり状態だ。余計なことを言って水を差したくはなかった。
「よ~し! さっそくちかしつへ、ゴー!!」
ルーくんは早速、「ばしょいどう」の下位メニューに追加された「したに おりる」を選択し、地下室へと突入した。
けれども――。
「……え、ええっ!? なにこれ?」
ルーくんの目の前に現れたのは「地下室」等ではなかった。
そこに広がっていたのは、巨大な「地下迷路」だったのだ――。
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