「解体工兄弟」編

GAME 14「解体工兄弟(1)」

『つくって、こわして、あそびましょ!』

「つくって~こわして~あそびましょ~!」


 テレビの中で年齢不詳のタレントが叫んでいるのを、ルーくんが真似していた。


 ルーくんが観ているのは、人気の幼児向け番組「つくって、こわして、あそびましょ!」だ。

 内容は昔からよくある、司会者の「おにいさん」と子供達が、段ボールや折り紙などのありふれた素材で工作をして、様々な遊び道具を作るというもの。

 ――けれども、この番組には一風変わった趣向があった。なんと、工作した物でひとしきり遊んだら、最後にはそれを自分達の手で壊してしまうのだ。


 なんでも、「物を作ることの大変さと、一生懸命作ったものも容易く壊せてしまうことの恐ろしさ」を子供達に啓蒙けいもうする為のコンセプトなんだというのだが……世の中、何がウケるのか分からないものだな。

 ルーくんも見事にハマっている。元々「作ること」は好きだけど、どうやら「壊すこと」も好きらしい。変な性癖がつかなければいいけど……。


 ――ふむ。そう言えば、ファムコンにも「作ること」と「壊すこと」を同時に遊べるゲームがあったな。

 よし、今日はルーくんにあのタイトルを遊んでもらおう!


   ***


「ジャーン! 『解体工兄弟』~!」

「あっ! マダオさんだ! またマダオさんのゲームなの?」


 ルーくんの言った通り、僕の取り出した「解体工兄弟」のパッケージには、ハンマーを振り回して壁を破壊しているマダオの姿が描かれている。

 「スーパーマダオ」以前の、下積み時代のゲームの一つなのだ。


 「解体工兄弟」は一九八五年発売のゲーム。

 元々はアーケードゲームだったのだけれども、対戦ゲーム色が強かったそちらと違って、ファムコンへの移植版は一人用ゲームになっている。


 ゲームの主目的は、「ビルの解体」。ビルの中に見立てられた全百面のステージをクリアしていく、アクションパズルゲームだ。

 主人公のマダオ(2Pの場合はクイージ)を操り、手にしたハンマーや設置されている爆弾を駆使して、壁を破壊していくのが主なゲーム内容になっている。


 しかもこのビル、一体全体どういうことなのか、「モンスター」が住み着いている。

 マダオ達を追いかけてくるスパナ型の怪物「スパナドン」。

 決まったコースをひたすら周回する、足の速いナス型怪物「ナスビマン」。

 更には、マダオそっくりの恰好をしたお邪魔キャラの「クロッキー」も登場する。


 アクションパズルゲームとしては中々の高難度で、一つのミスで「詰む」こともザラにある。

 このゲームのマダオは、下へ飛び降りることは出来るが、上へ飛び上がることは出来ない。ビルの上の階へ上がるには、ハシゴを使う必要がある。

 だから、ハシゴの繋がっていない場所から間違えて飛び降りてしまうと、二度とそこへ辿り着けない……なんて事態も起こりうる。


 ハシゴの中には破壊できるものもあるので、それを間違えて壊してしまった場合も「詰む」。

 ジャンプ出来ないので、くぼみに落ちるとやっぱり「詰む」。

 オブジェクトの一つであるドラム缶などは、落下時に真下にいると、マダオが閉じ込められてそこでジ・エンドとなる。中々にシビアなシステムなのだ――。


「ふ~ん、なんだかムズカシそうだね。ルーくん、ひゃくめんもクリアできるかなぁ?」

「その点は大丈夫。実は、タイトル画面でどのステージから開始するか選べるんだ。『前は五面までクリアしたから、今日は六面から始めよう』とか、そういうこともできるし、いきなり百面から始めることも出来るよ」

「へぇ~」


 その難度の高さ故か、「解体工兄弟」には後年のゲームで言う「ステージセレクト」機能が最初から付いている。

 一応、「残機制」のゲームとして全百面に挑戦することも出来るんだけど……僕も達成したことは無かった。


「それにね、ルーくん。このゲームには『大興奮バイク野郎』にあったような、エディット機能が付いているんだ!」

「えっ!? じゃあ、ルーくんがすてーじをつくることもできるの?」

「そうだよ。……でもまあ、まずはゲームを理解する為に、少し自分でプレイしてみようか? エディットはその後で」

「わかった~!」


 こうして、ルーくんの「解体工」入門が始まった。


   ***


 まずは基本の一面だ。入門ステージだけあって、壁数は少ないし、モンスターも動きの遅い「スパナドン」が一匹いるだけ。

 プレイヤーはここで基本操作を覚えることになる。最初なので、このステージには「詰む」要素はない。


「よーしルーくん。まずはウォームアップだ。『スパナドン』さんの動きにだけ気を付けて、全部の壁を壊していこう!」

「おー! こわしてこわして、こわしまくるよ~!」


 ルーくん操るマダオが軽快に走り出す。

 マダオはハンマーを持っているが、これでモンスターを倒すことは出来ない。モンスターの動きを読んで避けつつ、壁を壊していくのが基本だ。


 壁は全部で四種類ある。

 一回叩くと壊れる「一回壁」。白くてのっぺりとしている。

 二回叩くと壊れる「二回壁」。これは薄い灰色。

 三回叩くと壊れる「三回壁」は、「二回壁」よりも濃い灰色だ。

 そして最後が、ハシゴとしても使える「ハシゴ壁」。これは一回叩くとすぐ壊れてしまう。


 各所に置いてある「爆弾」型のオブジェクトは、「ダイナマイト」。そのまんまだな。

 ハンマーで叩くと(何故か)爆発し、隣接した壁に一回叩いたのと同じダメージを与えられる。しかもこのダメージは、壁が連なっている限りずっと続いていくのだ。

 ――なので、良く考えずに「ダイナマイト」を爆発させると、壁に連なっている「ハシゴ壁」まで壊してしまい、取り返しがつかなくなる、なんてこともあるので注意が必要だ。


 また、「ダイナマイト」の爆風に巻き込まれると、マダオやモンスターは吹き飛ばされて一番下の階まで落ちてしまう。叩いたらすぐに逃げないといけない。

 ただし、それを逆手にとってモンスターだけを落としたり、わざと爆風に巻き込まれてマダオを緊急回避させる、なんてテクニックもある。


 他にも上に物が乗っている「支柱」だとか、モンスターを「裏側の世界」へ閉じ込められる「ドア」なんてオブジェクトもある。

 一気に説明してもルーくんが消化不良を起こすだろうから、プレイしながらおいおい説明していこう――。

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