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小ガモを引き上げてきた宗男が、自室でその記録画像を解析していた。30秒に一回だけ記録される写真が連なって動画ファイルを形成するタイムラプス撮影は、一時間の記録でも120フレームしかないので、半日分のデータでもさほど大きなファイル容量とはならない。宗男はMediaPlayerで再生される動画ファイルを1フレームずつコマ送りし、来客が映り込んでいる映像のみを静止画ファイルとして別保存した。
しかし、当然のことながら波多野は、日中は自宅には居ない。彼くらいの大物になれば、大臣の執務室に籠りっ切りの仕事も多く、自宅を空けることも常態化しているようだ。その為か、昼と言わず夜と言わず、訪れる来客など殆ど居ない。宗男たちが収集する画像は、予想に反して退屈なものばかりであった。それに対し、波多野が自宅に居る期間は、一気に訪問客が急増する。大臣が自宅に居るという情報が伝われば、彼にお目通り願いたいと考える輩が、それこそ湧いてくると言ってよい。公式な場、つまり各省庁の執務室などでは面会できないような
監視を始めて一週間が過ぎた。その間に、一日だけ波多野が自宅に戻った日が有り、その夜に波多野邸を訪れた来客は九組に上った。宗男は、タイムラプスから抽出した彼らの静止画ファイルを警視庁の西村に送った。週一回の定期報告だ。すると、メールを送信した数時間後に西村から返信が返ってきた。そのメールには、宗男が送ったファイルの内の一個が添付されており、本文内には以下の通り、記載されていた。
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宮川様
いつもお世話になっております。
警視庁、捜査第二課の西村です。
報告メール、拝見いたしました。
そこで一点、お願いが有ります。
添付いたしました画像をご確認ください。
この男が訪問した際の写真が他にも有れば、
追加で送付頂きたく。
よろしくお願いいたします。
西村
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西村が反応したのは、短く刈り上げた頭が漁師のようにも、あるいは寿司職人のようにも見える、少し厳つい感じの男であった。あまり知的な感じは受けず、スーツを無理やり着込んだ様子が、田舎臭さを強調している。どこかの中小企業の社長が大臣に
また一週間が過ぎ、宗男は来客の画像ファイルをまとめた。今週は、波多野が自宅で三日間を過ごしたため、来客の数は先週の三倍以上に膨れ上がっていた。三十一組、五十二名に上る、それら雑多な来客たちの画像をまとめている時に宗男は、西村が反応した男が今週も波多野の元を訪れていることに気が付いたが、あえて事務的に、その男の写真も他の男たちと同様に一枚だけを抽出し、まとめて送付した。すると案の定、西村からは
西村によれば、それは波多野の地元、石巻市の業者、東巻工業の幹部である大暮という男であることが判っているらしい。その東巻工業と波多野の間に何かが有ると、西村が踏んでいるのは間違いないようだ。そこで、警視庁からの新たな追加依頼は、大暮の周辺も波多野と同様に監視して貰えないかという内容だった。波多野の監視はこのまま続け、別動隊として大暮にも張り付いて欲しいと言う。とは言うものの、石巻は警視庁の管轄外である。そこでも、例の違法捜査を行うことになるわけだが、西村の全く気にしていない様子に宗男が懸念を提示した。
「西村さん、申し上げにくいのですが、石巻は宮城県警の管轄ですよね? そこで違法な捜査を行っては、何かあった時にウチのスタッフを守り切れないと思うのですが・・・」
「なるほど。宮川さんのご懸念は良く判ります。ですが、私の方から話しを付けておきますので、御心配には及びません。ご安心して
自信満々にそう言う西村であったが、宗男にはどうしても納得が出来なかった。警視庁と宮城県警は上下関係にあるわけではなく、同じ所轄同士だ。宮城所轄の宮城県警が、東京所轄の警視庁の命令を聞く道理が判らない。もし西村の言う通りなら、やはりこの案件はもっと上の、おそらく警察庁の意向が絡んでいると考えざるを得ないではないか。確かに西村の落ち着いた様子というか、自身に満ち溢れた雰囲気からは、より高所から全体像を達観しているような印象を受けるのだが、果たしてこの男をどこまで信用して良いものやら・・・ そんな西村の様子を思い出しながら、事のあらましを恭子と崇に説明していた。
「当然、依頼料は倍払うそうです」
それを聞いた恭子が鼻息を荒くする。
「凄いじゃん! それ受けようよ! 倍だよっ!」
しかし宗男は渋い顔だ。当然だが、宗男か崇のどちらかが石巻に行かねばならない。崇の反応が判らず、宗男としては返事を保留してある。
「それはそうなんですが・・・ 崇くん、どうかな?」
「えぇーーっ! 俺一人でやるのーーっ!?」
「もちろん、無理にとは言いませんが・・・」
宗男の弱気な言い草を、恭子が跳ね飛ばした。
「えぇーーじゃないわよっ! アンタも一人でそれ位のこと出来るようになりなさいよっ!」
崇としては気が乗らない話ではあったが、自分のせいで姉と宗男の
「判ったよぅ。行きますよ。行きゃぁいいんでしょ?」
「やってくれますか、崇くん? 有難うございます。助かります」
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