第39話 歓談


「ふむ……料理も申し分ないね」


 そう言いながら、一流シェフの料理に舌つづみをする。


「……ニンジンが嫌いなのか?」


 アシュが丁寧に料理から取り除いている様子を眺めながら、ゼノスが尋ねる。


「ああ、どうにも口に合わなくてね。両親が農夫だったので、母からはよく食べろと怒られていたけど、どうしてもダメでね」


「……私の両親も農夫だった」


「そうか。それは、奇遇だね」


「私の母は俗物的でくだらない親だったな。貴族になれさえすれば、未来が開けると思っていた短絡的な親さ」


「……」


「その後、いくらか金を渡してやったが、その後どうしてるのやら。まあ、農夫が金を得ようと身分が変わるわけじゃないからな。きっと。それなりに不幸だったんだろうな」


「……君はあまりご両親のことを愛されなかったのだね」


「愛する? 農夫の愚鈍な親を? 私が愛しているのはマリアだけだ」


「そうか……」


「おっと、余談が過ぎたようだ」


「いや、君とはこういう話がしたかったんだ。他愛のない話から、学問の話まで。僕は超一流であるがゆえに、話のレベルが合う相手がいないんだ」


「……確かにな。私も闇魔法使いの知り合いは少ない。いや、その存在自体が許されていないからな」


「だから、アリスト教徒を……光魔法を使う魔法使いを狩っていたのかい?」


「……」


「君がこれまで行方不明にしたとされている魔法使いのほとんどはアリスト教徒だ。あくまで僕の見解ではあるが不老を贄とするだけならば、彼らではなくてもいい」


「……」


「長年生きているあなたには、痛いほどわかるのでしょうね。アリスト教は凄まじい……怖いぐらいだ。その信者数はすでに100万人を超えている」


 発祥当時、アリスト教信者は数百人にも満たなかった。それが、今や大国すらも凌ぐほどの人数だ。その発展ぶりは奇跡などと言う言葉ですら軽く感じる。


 一方、彼らの増加に伴って、闇魔法使いは減少の一途を辿る。主要な要因の一つに、彼らが『闇魔法使いを悪』とする教義を発したことも要因の一つであると言われている。


「……貴様は憎くないのか? 私は生きてきて……憎くたらしくて仕方なかったね。奴らを知れば知るほど」


「……」


「類稀な素質を持っていても、闇魔法使いだとわかった時点で迫害される。当時はなんでだかわからなかったよ。自分たちは正義だとのたまいながら、多人数で寄ってたかって。自分たちは穢れなき『白』。私たち闇魔法使いは穢れた『黒』なんだとさ。やつらの差別は生まれついた瞬間から根づいていたのさ。やつらの性根は生まれた瞬間から腐りきっていた。貴様だってそうだろう?」


「……僕は」


「やつらの祈りが我らの呪いであることを……貴様は……貴様だけは知っているだろう?」


「……ああ」


 想いは目に見えない。しかし、人はその存在を確信している。祈りとは、それを飛ばす儀式である。それは、すごく微量で。一人だと感じもしないほど小さくて。


 多くの祈りが集まれば、それは見える世界に影響をもたらす。より多くの祈りが集まれば集まるほど、それは強く広域に響き渡る。


「……おっと、そろそろ聖女の準備ができたようだね」


 ゼノスが指を鳴らすと、扉が開き。














 レイアが歩いてきた。


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