第5話 小さな教会
しばらく進むと、小さな教会が見えてきた。ドアが開き出てきたのは高齢の男。グレッグ=ローゼンという名の神父で、白い顎髭が温和な顔立ちを一層ひきたたせている。
「おお、聖女様……これぞ、神のご加護。よく来てくださいました」
「レイア=シュバルツです。あなたに神のご加護が届きますように」
簡略的に正十字をきって、中へと入る。聖堂内には、多くの人々が祈りに訪れていた。あちこちに毛布が置かれていることから、多くの人がここに寝泊まりしているようである。
「……みんな、今回の件を不審がってここに集まってきております」
「……」
周りを見渡すと、レイアはひとりの少年に目が止まる。近づくと、その子は頰が赤く染まっており、息を多めに吐いていた。
「あ、あの聖女様……」
戸惑いの表情を浮かべる少年に、彼女は満面の笑みを浮かべて指先で
<<悔い改め 邪を祓え 聖を戻したまえ>>ーー
「これでよし、後は安静にしていればきっと治る」
少年の頭を優しくなでながら、レイアは正十字をきる。
「は、はい。ありがとうございます」
礼儀正しくお礼を言って、正十字を切り返す様子を笑顔で眺めながら、クルッと振り返って再び戻る。
「素晴らしい
神父のグレッグはウットリした様子で褒め称える。
通常、魔法を外部に放つには
一般的に
一方、
「私なんかまだまだです。それより、状況を教えてください」
「は、はい。奴がデルサス山に砦を建てたのは、三日月が満月へと変わる間でした」
「……いくらなんでもそんなに早く建てられるはずがないのでは?」
窓の外から山頂を眺めているレイアはつぶやく。遠目から見てもその砦は、頑強で難攻不落。恐らく、数千人単位の兵で攻めたとしても容易には落とせないだろう。神父の話が本当ならば、建設開始から2週間を経過せずにそれを建てたことになる。
「身の毛のよだつ光景だったと、知らせてくれた女性は言っておりました。多くの人が一心不乱に建設作業に従事してたそうです。会話も、休憩も、食事も、排泄すらもなく、ただ淡々と虚ろな表情で」
「……信じられない」
過去の報告からも同様のことは報告されているが、実際にそびえ立つ砦を目にしても現実味が湧かない。建築までに2週間。例え、彼らが24時間休みなしで働き続けたとしても人数としては数百……いや、千は超えるほどの人出がいる。それを一度に操るほどの
「……神父様、
「え、ええ。その女性が、一人指示をしていた男の姿を見たとのことでした」
「その男は……白髪でしたか?」
「いえ。髪は黒かったとのことでしたが」
「そうですか」
アテが外れてレイアの声色に落胆が漏れる。
「しかし……白髪の男……」
「なにか心当たりがあるんですか!?」
「い、いえ……昨日、ここを訪ねて来た者がたまたま白髪の男だったもので」
「なっ……」
「昨日は夜遅く集会もあったので、一度お引き取りいただいたのですが、また来ると……と噂をすれば」
神父の指さす窓の方向を見ると、そこにはアシュが立っていた。
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