第11話 破滅的な聖夜


 部屋の前で佇むこと30分。このまま朝まで立ち尽くしてはどうだろうかとは生贄美少女の想いである。しかし、実際に彼女が入って行かなかったらアシュは間違いなくサラの下へと行くのだろう。まさか、なんの罪もない彼女をそんな目に合わせるわけにはいかない。


 カチャリ。


 恐る恐る部屋の扉を開けると、どこから用意したのか高級そうなワインとチェダーチーズが小さな机に並び立てられていた。


 その前に座っているのは闇魔法使い。


 が。


「……スゥー、スゥー」


 眠っている。


「……」


 このまま、一生眠ってくれないだろうかと本気で考えるレイアだったが、そんなことはないのだろうとベッドの中に入る。


 まるで処刑台に立たされているような心地で、居眠り魔法使いを眺めていたが一向に起きる様子はない。


 全ての髪が白く染まった男。その無防備な寝顔は、とてもじゃないが大犯罪者だとは思えない。


「不思議だな」


 仕方がないことだとは言え、あれだけ憎んでいた男と普通に会話をしていることに。嫌な男には違いない。しかし、実際に話をするくらいには自身の感情を制御できている自分もいる。


          ・・・


 しばらくして、雲間に照らされた夜の月で、闇魔法使いは目を覚ました。


「……しまった」


 高級ワインにチェダーチーズ。ロマンティックな雰囲気に持っていき、そのまま熱い夜を過ごすはずだったのだが。


「スゥー……スゥー……」


 見事にアテが外れて熟睡している金髪美少女。『大陸一の紳士』を掲げるゲス魔法使いにとって、強制的に起こして無理矢理手篭めにするなど考えられない所業である。


 彼女の顔を見ると、透きとおるような白い肌。整った輪郭。長く細い睫毛。見れば見るほど類い稀な美貌を持つ。


「……」


 惜しいことをした。


 非常に惜しいことをしたと言うのは、勘違いナルシスト魔法使いの想いである。


 そもそも、先ほどまでの自惚れ振りは留まるところを知らなかった。サラだけでなく、レイアすらも自分の魅力に参ってしまい、それをパーシバルが嫉妬してギャンギャン吠えているという圧倒的勘違いの図式。


 どうやったら、そんな絵が思い浮かぶのか、正気を疑ってしまうほどの天然さを誇るのが、アシュ=ダールという男だった。


 観念して、サラの家に行こうとも考えるがすでに彼女も就寝中であろう。彼の目標は、女性をスマートに口説いて惚れさせること。すなわち、ゲス男のように、無理矢理迫るなどは、たとえできたとしても絶対に許すことはできない芸当である。


 そして、今、目の前にいるのは隷属魔法で反逆を封じた美少女。


「……まったく、僕が紳士でよかったね」


 そうつぶやきながら、彼女の足がはだけている毛布をかけ、


 そのまま一緒の毛布の中に入る。


「これは、しかたない……うん、まったく仕方のないレベルだ」


 この部屋にベットが一つしかないのも不可抗力。他に寝るところがないのも不可抗力。ここで、寝るしかないことも不可抗力。ついでに言うと、弾みでいろいろ触ってしまうことも不可抗力だと判断した。


 まあ、僕は寝相が悪いからね。そう何度も何度も言い聞かせる中身圧倒的ゲス魔法使い。


「う、うーん」


 自分に寝ていると言い聞かせて、正真正銘起きている状態で自らの右腕を彼女の胸元に近づける。


「……」


 パシッ、ガスッ! ドカガッ!


「……」


 バキッ、ドカッ! ドカガッ!
















 彼女は、圧倒的な寝相の悪さだった。



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