第20話 技術
闇魔法使いは、死体に近づいて頭を優しく撫でる。その掌は漆黒の光が禍々しく帯びる。
「なかなか掴めなかったが、百体越えでやっとと言うところか」
それは、あまりにも、無邪気な笑いだった。純粋な知識欲に駆られ、それを暴けることに悦を感じている笑い。
<<亡者よ 深淵より 偽りの 聖者を暴け>>ーー
アシュの描いた
死体から意識のみを取り出し、知っている知識を吐き出させる闇魔法。死体の状態に左右される面があり、より傷ついていない状態の方が、情報は引き出せやすい。
「……ぐっぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ」
苦しげなうめき声が周囲一帯を木霊する。もはや、その死体の口は、まるでなにかに操られているように動きだす。
「状態はいいが、悠長にはしてられないな。手短に聞こう、まず君の名前は?」
アシュが質問すると、
「……コビル=シリオ」
その死体は流暢に話す。
「そうか、コビル。君の見たものを話してもらおう。
「わから……ない」
「……では、質問を変えよう。ここまで来た道のりを教えてくれ」
アシュは洋筆紙で死体の証言を書き込んでいく。
「……ふぅ、こんなものか。ありがとう、非常に参考になった。最後に、誰かに伝えたいことはあるかね?」
「サリド村の……シノン=バルーに……行けなくてすまない……と」
「……わかった。伝えよう。安らかに眠りたまえ。コビル=シリオ君」
添えていた手を頭から外して立ちあがる。
やがて、男を包んでいた黒い光は消え、
フッと。
その死体は、笑った気がした。
メモをしたを闇魔法使いは胸ポケットにしまい込む。
「……約束は守るの?」
レイアは自然と尋ねていた。
それは、初めてだった。
初めて、アシュに対して憎しみ以外の感情で。それがなんなのか、自分の中でも整理しきれぬまま。
「まさか、気休めだよ。彼の優先順位は僕にとってあまりに低い。でも……」
「……でも?」
「いつか……僕が暇で暇で仕方なかった時に思い出して、気が向いたら、いつかね」
そう答えた背中は、まるで心を見せるのを拒んでいるように見える。
「慈悲を施したつもり?」
彼女はキッと睨む。
再び憎悪の炎を燃やして。
この男は悪人だ。
悪人でなければいけないのだ。
「……慈悲?」
「だってそうじゃない。その行動はまるで、善人みたいで……私にはまるで偽善に見える」
「ククク……」
闇魔法使いは振り返って笑った。
「なにがおかしいの?」
「君は鏡で顔を見たことがないようだね」
「なっ……そんなものあるに決まっているでしょう!」
「偽善は君たちアリスト教徒のお家芸じゃないのか。まあ、君たちは慈しみの心をもって接するのがお好きなようだから、そのような思考になるのも無理はないか」
「……くっ」
やっぱり、最低魔法使いと思い返すのには30秒もかからなかった。
「まあ、僕はそんな気持ち悪いものは御免だね。慈悲なんてものは死者に対しての最大の侮辱だ。君は商品を買ったときに、お金は支払わないのかい? 彼は僕に情報を提供した。それに報いようと対価を支払うことはおかしいことかな?」
「……」
「まあ、いいさ。あまり時間がないんだ。他の死兵にも話を聞かなければ。君たちは、僕の時間を邪魔しないように周囲を固めてくれたまえ。無能な君たちでもそれぐらいならできるだろう?」
その闇魔法使いの表情は、あまりにも歪んで見えた。
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