第19話 偽善者
討伐を始め数時間。実に、百体以上の死体を浄化した一向。
「はぁ……はぁ……しかし、キリがないな」
息をきらしながらログリオがつぶやく。
レイアの立てた作戦は見事にハマり、敵に対して優位な状態で進められてはいる。味方は申し分ない実力の猛者揃い。それでも、次々と無尽蔵に湧き出てくる死兵たちに不気味な想いは拭いきれない。
「仕方ないわ。敵は数千はいるという話。一日で片付くと思わない方がいいかもね」
彼女は息一つ切らさず冷静に答える。
「……化け物だな」
ナイツは思わず舌を巻く。もちろんパーシバルも優れた騎士だ。恐らく、ナルシャ国でも有数の剣士だろう。しかし、レイア=シュバルツは間違いなく大陸で十本の指には入る。
その多彩な魔法と、尋常じゃないほどの魔力。正確な
有能魔法使いが、こうした想いを抱いたのは実に2人目である。
「……そうか。防腐魔法を施している……いや、しかしこれは凄い」
実にもう一人の魔法使いは、ブツブツつぶやいている。
「おいアシュ、テメエもちったぁ働けよ!」
これまで、一体足りとも死兵を倒さずに、残った部位を観察するだけの闇魔法使い。戦闘には興味すら示さずにずっとそれを観察している。
「ふっ、ロドリゴ君。肉体労働は脳みそまで筋肉に侵されている君の仕事だ。天才の僕は頭脳を使う。これが理に適っているじゃないか」
「な、なんだと貴様っ!」
「だいたい、君たちは貴重な
「ぐぐぐぐっ……ごの゛や゛ろ゛う゛」
ムカつく。あまりにも歯を食いしばり過ぎて、口から血がボタボタ流れる脳筋戦士。
「アシュ、この死兵たちは粉々に砕くか、光魔法で浄化しなくちゃ動いて抵抗してくる。それとも、もっと他にいい方法があると言うの?」
いい加減腹のムカつきが止まらないのは金髪美少女も同様である。全然、働かない。代わりに、文句ばかり。果ては、仲間を罵倒し。適当な皮肉を並べ立てる。なにしに来たんだか全くわからない。
「ククク……気持ちいいかね?」
闇魔法使いは不快な笑みを浮べる。
それは、禍々しいと言うより。
心底、人を愚かしく思っているような表情で。
「……はっ?」
「元々人間であったものを為すすべも打ち砕いて、楽しいかね?」
「……」
その言葉は、心臓を打ち砕くような衝撃を与えた。
「なんだ、今頃気がついたのかね? 大した偽善者だな」
「……救う方法なんてないじゃない!?」
反射的にいい訳していた。なにか、非常に得体の知れぬものがまとわりついた気がして。
「探したのか? 君はその方法を」
「……っ」
レイアは二の句はつけずに黙り込む。
「まあいい。僕には、僕の仕事がある。君たちはどうか僕の仕事を邪魔しないでくれたまえ。チームワークだよ、チームワーク」
「「「「……」」」」
お前にだけは言われたくないと、一同は思う。
そんな中、またしても数体の死体がやってきた。
「ちっ……次から次へと」
ロドリゴがそう言って戦槌を構えたとき、死体たちはピタリと立ち止まる。それは、身動きが取れないというよりは、その思考が停止しているという感じだった。
「ククク、やっと波長があったようだね」
闇魔法使いは静かに笑った。
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