第50話 激闘
その頃、ロドリゴ、ナイツ、パーシバルは入口の前で激闘を繰り広げていた。四方……いや八方死兵に囲まれて、もはや息をすることすら難しい。
「うおおおおおおおおおおおおおっ」
一体、二体、三体、四体。その怪力のおかげで、ロドリゴが
「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……クソっ、キリがねぇ!」
苛立ちながら、息をきらしながら、ヤケクソに叫ぶ脳筋戦士。巨木の幹のような足は皮膚を剥がれ血が吹き出ている。しかし、どれだけ死兵が殴り、蹴り、噛みついても、この鋼鉄の戦士には致命傷を与えられない。
そんな中。
<<果てなき業火よ 幾千と 敵を滅せ>>ーー
全体の極大魔法をナイツが放つ。炎の
「ぜぇ……ぜぇ……」
これですでに5発目。自分では3発までが限度かと思っていたが、絶体絶命の窮地に追い込まれて限界突破中である。
しかし、すぐさま死兵の補充がやってくる。ナイツが魔力欠乏で朦朧とする中、その腕をグッと掴んでパーシバルが魔弩を放ち、八方に腐肉の破裂音を響かせた。
「はぁ……はぁ……しっかりしろ!」
「くっ……わかってる!」
悔しげにそう叫ぶナイツの周りから襲ってくる死兵を雌雄一対の双剣『シグル×ラグル』で切り刻む。あたりを一掃した瞬間、足音も立たぬほどの軽快さで大樹の枝にとまり、囲まれて殴られ続けているロドリゴの周囲に魔弩を放つ。
「はぁ……はぁ……ロドリゴ、貴様がデカイのはその身体だけか!?」
「ぜぇ……ぜぇ……う・る・せ・えっ!」
片膝をついていた脳筋戦士は再び戦槌を振るい出す。アリスト守護騎士は、ニヤリと笑ってその場で息を整える。二人が崩れたとき、必ずと言っていいほど窮地を救い、檄を飛ばす。合間合間に起こる僅かな隙を埋めることで、多勢に無勢にもかかわらず、長時間の抵抗を可能にしていた。
しかし。
突然、死兵たちの動きが止まる。
「ぜぇ……ぜぇ……なんだ、もうあきらめやがったか?」
息をきらしながら胸を撫で下ろしていると、ひとりの死兵が前に出てきた。それは、常人よりも遙かに大きいはずのロドリゴよりも更に大きな男だった。
「……へっ、力対力ってことか。面白え」
首を左右に動かして、
ガッ。
「んっ……だと!?」
その
「んがぎぎぎぎぎぎぎぎっ……」
押そうとしても引こうとしてもまったくビクともしないその巨体は、もう片方の拳でロドリゴの頬をブン殴る。
瞬間。
宙に舞って、二回転。さらに地面に数メートル引きずられて大木に激突。
「……こ、この野郎」
すぐに起き上がって、元の位置に戻って巨人の頬を何度も何度もブン殴る。
「……」
しかし、表情を変えずに反撃を繰り出してくる巨人。
「ぐぅ……」
思いきりみぞおちに拳を浴びて、うずくまるロドリゴ。対して巨人の死兵は、痛覚も疲れもない。無表情でその場に立ち尽くしている。他の死兵たちも周りを囲んだままだ停止している。
まるで待っているかのように。
ロドリゴが折れるのを待っているかのように。
「へっ……嫌なヤツだな。アイツにソックリだ」
唾液が混ざった血とともに、吐き捨てるようにつぶやく。
「おい、名前は?」
「……」
「……答えるわきゃねーわな!」
そう言いながら。
ロドリゴは掌を広げて両手をかざした。
「勝負だ」
その言葉に呼応するように、巨人は掌を合わせる。
「ぐがぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ……」
先ほどと、まったく同じ展開。
子どもの頃から腕相撲には負けたことがなかった。大人になって、現実をみて、わかった。この世の中には魔法というものがあって、どれだけ力があったとしてもなんの自慢にもならないことを。
「おい……ロドリゴ、離れて戦え! 意地を張るな」
「ぎぎぎぎぎぎっぐう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛っ……」
馬鹿言ってるんじゃねえ。
魔法使いにはわからない。
力自慢が力勝負に負ければおしまいなんだ。
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛おおおおおおおおおおおっ!」
ロドリゴの咆哮と共に。
その巨人の掌が砕け。
腕がもぎとれる。
「ぜぇ……ぜぇ……へへっ、ざ、ざまーみ……」
笑顔を浮かべ、その場に沈むロドリゴ。
巨人の死兵は表情を崩さずに、そのまま踏み潰しにかかるが、後ろからパーシバルが魔弩を放ちそれを食い止める。しかし、周りを囲んでいた死兵たちも再び動き出してきた。
万事休す。
脳筋戦士が戦闘不能になったことで、この均衡を保つ手はない。
そんな時。
<<月よ その暖かな光で 悲しき亡者を 滅せ>>ーー
このあたり一帯を白い光が輝きだす。死体たちは成すすべもなく立ち尽くし、やがてその身体は地面へと還る。
消滅しているにもかかわらず。
それは、まるで
超広範囲浄化魔法。
これを放てるのは一人しかいない。
彼らの視線の方向には、月光を背にしたレイアが立っていた。
「ご無事で」
噛み締めるかのように駆け寄るパーシバル。気分としては天にも昇る気持ちではあるが、はしゃいでいられる状況でもない。
「……ええ」
「はぁ……はぁ……アシュは?」
ナイツが息をきらしながら尋ねる。
「……ゼノスと戦っているわ」
「しかし、よくここを抜け出せたな」
レイアは入口からではなく、砦の裏側からここまで来た。内部は相当な広さで、よほど詳しい者じゃないと裏口など見つけられない。
「そんなことより、やることはわかってる?」
そう呼びかけると、ナイツとパーシバルは頷き、一斉に走り出す。安堵した表情を浮かべながら、金髪美少女はロドリゴの治療を始めた。
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