第43話 限界
「はぁ……はぁ……はぁ……」
繰り返し放つ
ゼノスはこれ以上ないくらい幸せだった。自分を出し抜いた闇魔法使いを傷つけられることに。このまま、ジワジワと、いつまでも傷つけていたいという想いに駆られる。
一方。
レイアは言いようのない不安に襲われる。いくら実力で圧倒したとしても、この闇魔法使いが、こんなことで倒せるのだろうか。
「なんか……変じゃない?」
「なにがだ? 仮に私が相手の立場でも同じ戦略をとるね」
「……」
そう。強力な魔法のタメができない以上、この戦い方をとるのが定石である。一定の反撃は食らうが、相手側もタメができないので致命傷を喰らうことがない。現にアシュは隙をついてこの部屋から脱出しようとしたり、状況の打開に抜け目がない。
「ヤツの優位性を使った戦い方だよ。このままでいいんだ」
「……」
確かに、相手は不死。その優位性をもって、こちらの魔力の減少を狙っている可能性は高い。しかし、その傷は相当なものだ。すでに、流れて落ちている血は致死量を確実に超えている。現にその動きは止まっていないが、だいぶ鈍くなってきた。
「はぁ……はぁ……」
それでも、アシュは
「レイア、騙されるな。ヤツは私たちが迷っていることを狙ってるんだ」
「……」
確かに、そうとも考えられる。これだけ愚直な行動を不審に思わせ、戦略の変更を選択させる。
「このまま動けなくなるまで同じことを繰り返す。それだけで私たちは勝てる」
ゼノスの言うことは至極もっともだ。あきらかに、あちらの消耗の方が激しい。一方、こちらはまだまだ余力がある。
アシュが完全に。
足も腕も。
指すらも動かせなくなったとき。
勝負はつく。
「フフフッ……勝負に奇策が必要な者は弱き者だけだ。強き者には必要ない。変更はない。君はこのまま魔法壁を張り続ければいい」
ゼノスはそう言いながら、アシュに次々と
「……」
「どうした、見たかったんだろう? やつの悶え苦しむさまを。ひざまずき、くずおれて、泣き叫び、これまでの凶行に悔い嘆く姿を」
「……」
そのはずだった。
そのために自分の全てをかけた。
しかし。
血を滴り落としながら喘ぐ姿を。
その必死にもがくそのさまを。
どうしても嘲笑えない自分がいた。
やがて。
アシュの足が止まり。
魔法を放つ腕も上がらなくなった。
「フフフ……どうした、もう抗わないのか?」
「はぁ……はぁ……」
身体は崩れおち。
地面へと寝そべる。
「だいぶ粘ったな。こちらが崩れることを見越した長期戦だったんだろうが、アテが外れただろう?」
「はぁ……はぁ……ククク……」
それでも。
アシュは不敵に笑った。
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