もしも、夏休みの課題が「ドラクエのゲーム感想文」だったら…
ひが光司
LEVEL1 / 書けないんだよ……
ブー、ブー、ブー、
夏休みも半分を過ぎた頃の夕方、マナーモードに設定していた
電話の相手は
「もしもし」
「龍崎か?お前、ゲーム感想文、終わった?」
――終わってねえよ。
稔は「やっぱりね」といわんばかりの態度で「アレ、やばくねえ?」と。どうやら、かなり焦っているらしい。
――確かに、マジでやばいよ。
ゲーム感想文、とは夏休みの課題のことだ。多くの学校では夏休みの課題として読書感想文を書かされるだろう。そして、その課題図書といえば、やれ走れメロスだの、風の又三郎だの、定番の小説を読んで感想文を書いてこいというものだ。
ところが、彼等の通う
「ドラクエの、ゲーム感想文を書いてきてください」
それを聞いた時、多くの、それも男子生徒達は大喜びだった。
「ラッキー」
「これで今年の夏休みは遊び放題だ」
「最初からそういう宿題を出せっつーの」
誰もがこの宿題を、例年の読書感想文のような面倒臭いものとは考えてはいなかった。ゲームを遊び終えたら、その内容をサッサと書いて終わり。
むしろ、どれだけ自分がレアなアイテムを入手したとか、あるいは最強のパーティーに仕上げてクリアしたとか、クラスで自慢できるような内容に仕上げて提出しようとすら思っていた。
「それがさ……みんなそうなんだって!」
稔は他の友達にも確認をしたらしい、そして案の定、誰も終わっていない。即ち感想文を「コピペ」する人間がいない状況である。、
――そうなのか。チクショー玉野の野郎、騙しやがって!
勇斗もまた、宿題が終わっていない。そして稔と同様、宿題の内容に対し改めて怒りが込み上げてきた。
国語教師の
その他にも、授業中にスマホゲームをやっていた生徒に対して反省文を400字詰めの原稿用紙で100枚分書かせたとか。とにかくゲームに何か恨みでもあるんじゃないかってくらい、目の敵にする。
そんなあいつが、夏休みの宿題に「ゲーム感想文」なんて出す。この時点で疑っておくべきだったんだ。
とはいえ、今更引き返すわけにもいかない。
「俺さ、今、塾に通ってんだけど……」
勇斗は最近、塾に通い始めた。いや、通っていたと言った方が正しいのかもしれない。別に通いたかったわけじゃない。とりあえず親が行けと言うから、仕方なく行っていた。
もちろん、そんな状況だから塾へ行ったところで成績が上がるなんてことは、まず、ない。
予習をして来なければ怒られる。だからそれが嫌で、行きたくない。結局塾に行かず、近くを適当にぶらぶらしていることもしばしばだった。
当然、無断欠席をすれば家に電話がかかってくる。そんな時は、やれ電車の中で居眠りをして、ずっと先の駅まで乗り過ごしてしまったとか、あるいは財布を忘れてしまい、電車に乗れなかったとか、適当な言い訳をする。しかし、それもそろそろ限界に近づいてきた頃だった。
「頼むよ……ここままじゃマズイって」
要するに塾の先生に答えを教えてもらえってことだ。塾ならば学校の勉強位は簡単に分かるだろう。当然、読書感想文だって書き方を知っているはずだ。
「でも、ドラクエじゃあ。実はこれって、もしかして――」
――勇斗も今、稔と同じことを考えていた。
「俺も、そう思った」
確かに、塾の先生ならば読書感想文くらい書けるんじゃないか。でも、ゲームとなればどうだろうか?
少なくとも学校教師の玉野はゲーム嫌いで、おそらくゲームなんてやらないだろう。となれば、塾の講師だって大人だから、当然ゲームの事なんか知らないんじゃないか。
「なあ龍崎、これってまずいよな……てゆーか、玉野の奴、最初から狙ってたんじゃねーの?」
読書感想文は多くの生徒が書けない。結果、一部の要領のいい生徒はインターネットにある情報を基に書こうとする。
中には「コピペサイト」なるものも存在していて、その通りに書けば誰でも「模範解答」になる。仮に夏休みの課題が、そのサイトに掲載されている文学作品であれば、何の問題もなかったはずだ。
しかし、今回の課題図書、というよりゲームはそうはいかない。
「龍崎、お前ひょっとして、ネットでゲーム感想文とか探した?」
――いや、まだだけど。
「実は、俺探したんだけどさ、やっぱりねえんだよ。これ、ホント玉野の策略だって、マジで」
スマホの先から、半泣き状態の稔の声が聞こえる。
まあ、そう言われてみればそうなのかもしれない。コピペサイトの作者だって、まさか学校の先生が夏休みにゲームをやって来いなんていうのを想定はしていないだろうから。
「とりあえずさ、塾に行って聞いてみるわ」
何となくその場の不安を遮るかの如く、勇斗は塾で聞いてみるという返事をしてしまった。もっともそんなことは微塵も考えていないにもかかわらず、である。
「頼むよ、まじヤバイって」
――いや、ヤバいのはお前だけじゃないだろう。というより、俺に全て解決策を委ねようというのもどうなんだ?
しかし、勇斗にとって、今はそんな事考えている場合ではなかった。
――このままじゃ宿題が終わらない。
勇斗はすっかり足が遠ざかっていた塾に、久々に足を運ぶことにした。塾の先生達に怒られなきゃいいけど、という不安を抱えつつ……
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