LEVEL32 / 合宿先(後編)
翌日の朝10時。虎ノ口中学校では職員会議が開かれていた。
部活動で忙しい教師以外、夏休み中は教師も生徒と同様に休みを
教師は「通常通り」忙しい。それは他の公務員、あるいは
全国大会に進出するようなケースを除き、多くの3年生は夏休み前に部活動を
3年生のクラスの担任は、そんな彼等の
「ところで、今年のゲーム感想文についてですが」
いきなり、である。いつもは、やれ運動部の誰がスポーツ強豪校に進学する予定だとか、学年で一番優秀な生徒が全国でも有名な私立の進学校を狙っているとか。
逆に学校一の問題児をどう指導していけばよいのか。あるいは夏休み中に補導された生徒の
「保護者の間ではあまり評判がよろしくないんですよねぇ~」
ゲーム感想文に否定的だった、国語教師の
「評判、といいますと?」
「とぼけないでくださいよ。玉野先生」
「別に、とぼけてなんかいないですよ」
玉野は強気な姿勢を見せた、だが内心は不安で一杯だった。
というのも、ゲーム感想文に否定的なのは何も春日だけではない。実際に国語以外の科目を担当する教師の多くは「反対派」である。
「ゲームに時間を費やし過ぎた結果、勉強が疎かになる」
仮に生徒の成績が下がった理由が自分の
「まるで
少なくとも国語教師達は
そうなると、この場において議論の対象となるのは「ゲーム感想文が良いか悪いか」というものではない。
「こんな課題を提案した教師に対し、どう責任をとらせるか?」
そんな流れになってきている。
「やはり、ゲーム感想文は難しいのですか?」
会議に出席していた、校長の
「ええ、
春日はここぞとばかりに、ゲーム感想文の批判。そして保護者からの苦情に対する不満を述べる。
「別に、本人だけの問題ならばいいんですよ。校長先生」
「本人だけならいい、といいますと?」
「兄弟のいる家庭で
「揉めてる、といいますと?」
「特に下の子が、「お兄ちゃんばっかりズルい!」って」
玉野はまたしても「しまった!」と思った。
ゲーム感想文となれば「課題をやる」と称して長時間ゲームをやるということは容易に想像できた。だが、結果として長時間やり過ぎたことも「作文のネタ」になれば無事解決すると考えていたのだ。
(
親の立場からすれば、子供にはなるべくゲームをやって欲しくないと考えるのが当然である。むろん、中には昨日の
だが、そんな生徒はほとんど存在しない。大概がゲームによって時間を
そんな大半の「
これでは兄弟の間に「
とりわけ下の子が男の子の場合、問題は
ゲームが原因で兄弟喧嘩が起きた挙句、親が兄の方に
「家庭内が
玉野の「傷口」をさらに広げるか如く、春日の批判は続く。
(またか、昨日は出版社の編集者に散々やられたのに……)
昨日、和久井の出版にあたり、その企画会議に参加した際には出版社の編集者である
そして、その傷が
「確かに、ゲーム感想文に生徒達は苦戦しているようですが……」
それでも玉野は何とか反論を試みる。しかし周囲の雰囲気はどうやら、彼の反論を「苦しい言い訳」と
「それで校長先生、合宿の許可を頂きたいのですが」
「合宿?今の時期に何部のですか?」
「いえ、部活動ではなく、勉強です」
「勉強の合宿ですか?」
「そうです、ゲーム感想文の合宿です」
とりあえずこれだけは伝えておかなければならない。この状況で、合宿計画が認められるかはどうかはともかく、とりあえず計画を提案するのは昨日、電話のあった
「あの、玉野先生。自分で何言ってるかご存知ですか?」
春日が
「私は校長先生に聞いているんですよ」
玉野も負けてはいない。そこは子供の、いわゆる「スクールカースト」のような力関係ではなく、大人同士の「対等な力関係」である。
「合宿……ですか」
「そうです、合宿です」
「そうですね……」
「無理でしょうか?」
「無理、というわけではないですが……」
さすがの校長も、この状況で
そんな状況で彼の意見だけを一方的に認める方が、むしろ不平等だと思われるだろう。文字通り「玉野を
「でも、合宿で感想文が書けるんですか?」
春日にそう反論されるのも無理はない。1日か2日の勉強合宿を行ったところで一体、何の成果があるというのだ。もっとも仮に運動部の合宿だとしても、せいぜい1日か2日で一体、何が変わるというのだ……そう思われても仕方ない。
「それが……終わった生徒がいるみたいなんです」
「終わった生徒がいる?」
あのゲーム感想文には「落とし穴」がある。それはゲームのシナリオを中途半端に知り過ぎているだけに、あらすじを
「それは「あらすじを書いただけ」であって、感想文ではない」
毎年、国語教師が生徒に注意する決まり文句だ。したがって生徒の「
「ただ……合宿をやる意味はあるかもしれません」
「どういうことですか!校長先生」
予想外の校長の回答に、春日は
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