LEVEL22 / 王様は誰だ?

 えっ?おかしいだろ。少なくとも、こんな面倒な課題を出し、生徒を苦しめる。玉野はまさしく「魔王そのもの」じゃないか!


 そして、それを倒すために自分は塾に通い、そしてその倒し方を教えているのが学進ゼミ。だからどう考えたって王様はこちらのはず。


 「勇者ってさ、別に魔王を倒したいわけじゃないだろ?」

 「えっと、一体何を言ってるんでしょうか?」

 「王様が倒せって言ったから。だから仕方なく」

 「いや、そういう問題じゃ……」

 「ゲーム感想文を書いてこいって言ったのは誰だっけ?」

 「玉野ですよ」

 「じゃあ、やっぱり玉野先生は王様だ」


 なるほど。確かにそう言われてみれば納得が行く。


 確かに、勇者は魔王が憎いとか、あるいは家族や友人の仇をとるとか、そんな感じじゃなかったな。


 いや、そういう話もシリーズの中には存在していたかもしれない。しかし言われてみれば、主人公である勇者が魔王を倒す動機は「王様の命令」だ。


 あるいは自分が勇者の血を引いているから。むしろ「王様の許可も得ずに」一人で旅立つなんて話、ドラクエシリーズの中に存在していただろうか……


 「確かに、言われてみればそうですね」

 「だろう?それがわからなかったから、減点-5」

 「また減点ですか!」

 「しょうがないだろ、重要な部分なんだから」


 勇斗は「そんなの黙ってりゃいいじゃん!」と言い返したかったが、ここで反論してもあまり意味はないと思い、敢えて何も言わなかった。


 「じゃあ、残りの-10点は一体何なんですか?」


 現在、勇斗が減点-10になっている原因は「課題の要旨ようしを十分に理解していない」というのが原因だ。しかし杉田の採点は「80点」である。


 だとすれば、あと-10点は一体何なのか?


 「まあ、誤字脱字ごじだつじによる減点はお約束として……」

 「何点ですか?」

 「-2~4点くらいかな?」

 「それと龍崎、字の上手い奴だって提出するわけだろ?」

 「まあ、確かにそうですね」


 さすがの勇斗もそこまでは考えていなかった。


 確かに。書道教室に通っていて、小学校の頃から習字ではいつも高評価を貰っている生徒は存在する。


 そういった彼等が作文を書いたとすれば、やっぱり字は綺麗きれいなもので、実際以上に高く評価されるというのは何となく理解できる。


 「お前、字は上手い方?」

 「普通……いや、あんまり上手くないです」

 「じゃあ、-2点」

 「そんな、ひどいじゃないですか!」

 「それが現実だよ」


 現実……確かにそうだ。悔しいが事実なのかもしれない。


 「だから、内容で挽回ばんかいするんだよ」

 「内容で挽回……ですか?」

 「そのとおり」


 現在の持ち点は「90点」。そして誤字脱字や字が汚いというマイナス点を含めるとさらに-4~6点の減点がされるとする。


 だとすれば、現在の持ち点は「84~86点」ということになる。


 「でも、80点といいましたよね?」

 「そのとおり」

 「じゃあ残りの4~6点はどうやって減点するんですか?」

 「分からん」

 「分からんっ、て何ですか!」

 「心証しんしょう。つまり先生の判断次第だよ」

 「先生の判断……ですか?」

 「そう、先生の判断」


 要は「採点者の気分次第」ということらしい。あの玉野のことだ、おそらく男子よりも女子生徒に有利な採点をするだろう。


 いや、待てよ。今回、女子は課題を免除されている。だとすれば、一体誰が有利な採点の恩恵おんけいを受けるのだろうか?


 自分は玉野に対してあまりいい印象がない。一方、玉野はどうだろうか?もしかしたら自分の事なんか「好きでも嫌いでもない」のかもしれない。


 「依怙贔屓えこひいき」はされないとして……かといって、減点されるわけでもないのではないか?


 「だから、今の完成度だと「80点は確実」なんだ」

 「なるほど」

 「でも、それ以上は「採点者次第」なんだよ」

 「じゃあ、杉田先生が採点者の場合は?」

 「一番、厳しく採点をしてみた」

 「そうなんですか……」


 おそらく、過去に玉野に「喧嘩を売った」。あるいは極端に成績が悪い生徒の評価は低いのかもしれない。とはいえ、そんな生徒でも「80点」はとれるということだ。


 「別に、玉野は僕のことなんか眼中にないですよ」

 「なら、減点は1~2点くらいにして欲しいな」

 「そうだといいですけどね」


 そんな杉田の「採点」が終了した頃、50分の経過を示すチャイムが鳴った。


 「とりあえず10分間休憩な」

 「この後はどうするんですか?」

 「せっかくだから感想文、ここで書いていけよ」

 「あっ……そうか」


 今回、勇斗が書いてきたのはあくまで「下書き」だ。


 (果たして、ちゃんと書けるのだろうか……)


 しかし、下書きを書いた時点では何となく文章も書けそうな気がしていたし、実際に杉田の下書きの内容は褒めてくれているようだ。


 「一応、午後1時まではこの教室、使っていいから」

 「ありがとうございます」

 「原稿用紙が必要だったら、スタッフルームに取りに来いよ」

 

 そう言い残し、杉田は教室を去って行った。


 「ここからは「自習」って感じだな」


 あとは下書きの内容に従って感想文を仕上げるだけだ。それに、昨日の宿題では思いつかなかった「減点事項」も盛り込んで書いてみよう。


 「もしかしたら、今日中に終わるかもしれない」

 

 勇斗はそんな期待を抱きつつ、下書きと一緒にカバンの中に入れていたさらな原稿用紙を取り出し、感想文の作成に取り掛かった。

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