LEVEL14 / メロスは走らなかった
「走れメロスはドル
なぜなら、
ところが
この場合、生徒達は本人の意志と関係なく読まなければいけない。本を読みたいのではなく、学校側から本を読めといわれるから「仕方なく」。あるいは「義務で」読むのである。出版社にしてみれば、課題図書はまさしく「金の成る木」であり、また「打ち
そんな出版社の人間にとって、目下の悩みは少子化だ。なぜなら学校によって読書好きを強制されている「文学奴隷」が減少すれば、自ずと出版業界の収益にも影を落とすからである。
最近は日本政府も
ただその一方で、彼等の子供が日本で生まれ日本の「義務教育機関の
「一体何を考えているんですか?」
お盆休みでガラガラとなっていた品川のビルにある
課題が読書ではなく、ゲーム。それは生徒にとっては嬉しいことなのかもしれない。しかし、出版社にしてみればある意味「
その「異常事態」ともいえる虎ノ口中学校の夏休みの課題に対し、金子は、というより赤木出版社は
「一体、何を考えているんですか?」
「別に、こういうのも
「勉強をサボれってことですか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、一体どういうことですか?」
もしゲーム感想文が「選択課題の一つ」であれば、まだよかった。
しかしゲーム感想文を拒否した女子生徒達は、そもそも読書感想文を免除されているというではないか。
そうなると当然だが……虎ノ口中学校では今年、誰も課題図書、いや走れメロスを買わないということになる。
「子供達はちゃんと勉強をしてもらいませんと」
「だから、そのためのゲーム感想文ですよ」
「何を言ってるんですか!」
「何をって、勉強の話ですよ」
むろん、出版社が学校に対して課題図書の指定を強制することは出来ない。とはいえ、これは事実上の「
当然ながら、お互いにメリットのある行為である。だからこそ、その「
「いやね、メロスも走ってばっかじゃないですか」
「だって、それが仕事でしょうが」
「そろそろ走らなくてもいいかな、って思って」
「冗談は顔だけにしてくださいよ!」
「何だと、テメェ……」
しまった、と金子は思った。
何となく、
とはいえ、このような
「すみませんでした」
不本意ながらも、赤木は玉野に対して頭を下げた。
「すみませんで済んだら警察はいらねーよ!」
「いや、警察は関係ないでしょう」
「じゃあ、顔は関係あるのかよ!」
こうなるともう、「売り言葉に買い言葉」である。
(モンスタークレーマーがあらわれた、どうする?)
こちらの言葉尻を捉え、一方的に高圧的な態度で迫る。ただのクレーマーではなく、人間の会話が成立しない「モンスター」である。
赤木は今、営業職にとって最も厄介な相手と
方法はいくつかあるのだが、まず一つは「戦う」。こちらの
教師だって、課題図書を指定することで得られるメリットを自ら手放すほど馬鹿ではない。だとすれば、その取引の打ち切りを
もう一つは「魔法」。そもそもこのような反逆行為には、間違いなく「裏がある」。
その裏とは何か?考えられるのは「謝礼」だ。つまり、もっと謝礼の内容を弾めば相手はこちらの要求を受け入れるはず。
とはいえ、露骨に金品を要求すれば確実に「犯罪」だ。だとすれば、こちらが相手の事情を慮り、相手を満足させる。
つまり相手にしてみれば「そちらが提案するのを待っている」あるいは「俺の気持ちを
「魔法使いじゃないんだからさ……」
これは赤木の先輩の
だとすれば、さながら「魔法使いの如く」相手の気持ちを汲(く)み、そして謝礼の内容を弾むと提案すれば、きっと相手はこちらの要求を受け入れるはず……
少なくとも、今の金子の判断はそうだった。
「別に、たかろうってわけじゃないですよ」
「たかるなんて……そんな」
「こんな課題があったって、いいじゃないですか」
「まあ確かに、そうですけど」
世の中には「大人の事情」というものがあるではないか。少なくとも今までの
「別に、ずっとこの課題を出すとは言ってませんよ」
「じゃあ、今度は……」
「さあ、どうでしょうか?」
「さあって、そんな無責任な!」
彼等に謝礼をするのは、当然だが「課題図書の指定」が条件だ。それを一方的に破った上、今後の予定も白紙だという。そんな不安定な状態の中、一方的にこちらが「持ち出し」をするなど、到底できるわけではない。
(
金子はそう嫌味の一つも言ってやりたかった。しかし
「とにかく、このままでは困ります」
「ならば結構ですよ」
「結構ってね~……アンタ」
「アンタとは何だ!」
やばい、と思った。せっかく
そんな面倒な案件にこれ以上付き合うわけにはいかない。
「あの、本社に戻って上の者と相談致しますので」
「そうですか、じゃあそういうことで」
……とにかく、この場は無事収まった。
「逃げる」
赤木は自分の
「しかし一体、何が目的なんだ?」
結局、金子には最後まで玉野の
とにかく、今の自分が一人で解決するのは困難だ。上司に解決策の一つでも提示してもらえれば、と彼は思った。
ブーブーブー
金子が去るのと入れ替わる形で、マナーモードに設定していた玉野のスマホが鳴った。
「もしもし」
「どうも、
「ああ、どうも」
「今、品川駅に着いたのですが」
「そうですか、では駅に向かいますので」
「よろしくお願いします」
玉野は電話を切ると、席を立って伝票をとり、喫茶店の
そして、その足で次の客が待っている品川駅へと向かった。
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