LEVEL6 / 禁じ手

 「コピペサイト」


 そこには読書感想文の「模範解答」がアップされており、それをコピペすればいいというものだ。それも一つや二つではない。


 加えて作品数も多岐たきに渡る。多くの学校で課題図書として指定されているであろう走れメロスや風の又三郎はもちろん、羅生門らしょうもん高瀬舟たかせぶね。あるいは作品ではなく芥川龍之介あくたがわりゅうのすけや宮沢賢治といった、作者名で検索することが可能なサイトも多く存在している。


 「森鴎外もりおうがい コピペ」

 「読書感想文 コピペ」

 「夏休み 課題 コピペ」


 このようなキーワードを使って検索すれば、そのサイトを発見するのは実に簡単な作業だった。


 むろん、それは学校の教師もよく理解しており、とりわけコピペサイトには並々ならぬ警戒を示している。


 「インターネット上にある、コピペサイトの利用は一切禁止です」


 去年の夏休み前、読書感想文の課題を告げられた際に敢えて「厳命」する程だった。


 にもかかわらず、それを無視してコピペサイトを使い、感想文を提出したと思われる生徒は当然だが再提出を求められた。勇斗同様、あらすじを適当に書いただけという連中と全く同じ扱いだ。


 中でも「文学少女」として知られる月城陽菜つきしろはるながその中の一人であったため、これはクラス中の話題となった。


 いや、実際に本人は否定している。しかしコピペにはチェックツールというものがあって、それを使って照合すれば不正行為は一発でバレるらしい。その結果、玉野曰く「コピペ率が87%に達していたためクロ」と判断したそうだ。


 もちろん本人は納得してなかったらしく、実際に母親が直接抗議に来たらしい。そのやり取りを立ち聞きしていた女友達によれば、彼女の母親曰く「本の内容をきちんと理解していれば、その感想文の内容は概ね似たり寄ったりの内容になり、それをコピペと一方的に決めつけるのは不当である」という事らしい。


 ちなみに、その母親は出版社に勤務しているらしく、文章に関してはかなりうるさい人物であるという事だ。そういう人が言うのであれば、確かに説得力がある。


 だが、玉野はそんな人に対しても「ひょっとして、あなたが娘さんの代わりに書いたんですか?」と、まるで小馬鹿にするような態度であったらしい。


 「なるほど、あの玉野の事だ。自分に逆らう人間に対しては一方的に、そして頭ごなしに否定してかかったのだろう……」

 

 結局、月城はコピペツールに引っ掛からないようチェックし、無事1回の再提出で済んだ。だが本人の友達から聞いた話によれば、彼女は自分の存在をまるで否定されたかのような結果に加え、母親をあたかも「モンスターペアレンツ」のように扱った玉野に対し、相当な不信感をもっているらしい。


 「これがコピペサイトか」


 勇斗はネットを検索し、最初に目についたコピペサイトをクリックした。そのサイトの管理人は元新聞記者で、予備校講師を経験した後、今はフリーライターをしているらしい。


 「なるほど、確かに」


 勇斗には感想文の書き方は分からない。しかし、おそらくその読書感想文の内容は完璧だ。特別、国語の成績がよいわけでもない。まして作文など全く何を書いてよいのか分からない。しかし、そんな彼が見ても、そのサイトにアップされている「文章の専門家」とやらが書いた読書感想文は、やはり一部のすきもない完璧な感想文に見えた。


 「やっぱり、これしかないんだろうか?」

 「いや、待てよ。これはおそらく、教師も見ているはず・・」


 去年、コピペ率が87%に達した月城は「クロ」と断定された。当然だがこれを超えた場合は同じ評価をされるだろう。


 では、一体何%ならばよいのだろうか?86%ならば「シロ」となるだろうか?いや、それは到底考えにくい。かといって全くオリジナルの「0%」というのは不可能らしい。


 「作品名や登場人物の「固有名詞」。あるいは「です」「ます」といった定型表現も重複していればカウントされてしまうため、100%オリジナルの文章は絶対に不可能です」


 そのコピペサイトの解説文によると、完全にオリジナルな文章は不可能らしい。そして、


 「コピペチェックツールを使用した場合、コピペ率が概ね50%~60%程度であれば、基本的にはオリジナリティの高い感想文だといえるでしょう」


 このようにも書いてある。


 「一度コピペして、そこから自分の言葉をいくつか入れればよいのだろうか?」


 そのような方法がないわけでもない。しかし、それは結局時間がかかってしまうのではないか?


 それに今回の課題は読書感想文ではなく、ゲーム感想文だ。そもそもコピペ可能な「原文」自体が未だに見つかっていない。


 やはり当初、考えていた。そして稔も同じように考えていたのだが、


 「これって玉野の罠だったんじゃないだろうか……」


 結局、オリジナルの感想文を書かざるを得ない。ゲーム感想文、というと一見、子供に遊びを容認させているように見える。しかし実際のところは、


 「コピペされるよりマシ」


 そのような「消去法で選んだ」課題だったのではないだろうか?


 「でも、このままじゃ絶対終わらない……」


 有効な手立てが思いつかないまま、夏休みの時間だけが刻々と過ぎて行った。

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