LEVEL47 / 役割を与えろ(前編)

 「で、どうする?」


 勇斗は宿直室の風呂場に行くメンバーを決めようと、その場にいる全員に意見を求める。風呂場の収容人数はは5~6人程度というから、単純に考えれば3人と4人に分かれるだろう。


 「3回までならいいのか?」


 龍造寺が勇斗に尋ねた。


 「3回?」


 勇斗が龍造寺の質問に対し、さらに質問で返す。


 「さっき玉野が言ってたじゃん。俺達は7人だからさ、5~6人入れる風呂には一度に入れないわけだろ?つまりさ、3人と4人の2回に分けるか、2人と3人と2人の3回に分けるかってこと」



 ――勇斗は悩んだ。確かに玉野は自分達で好きなように決めればいいと言っていた。しかし実際に決めるとなると、一体どれが正しいのか分からない。


 これが6人ならば、2人ずつか、3人ずつで問題ない。何しろ風呂場の収容人数は5~6人程度なのだから。5人の場合でも同様だ。2人と3人の二手に分かれる以外の選択肢は基本的に存在しない。


 だが今回は7人だ。単純に考えれば3人と4人の2回が正しいだろう。だが、もしかしたら2人と3人と2人の3回に分けた方がよいのではないか?いや、もしかしたら最初に3人が行って、後は2人ずつという方がよいのかもしれない。あるいは最後に3人で行くべきかもしれない。


 その次に問題となるのが「割当」だ、即ち「誰と誰が一緒に入るのか?」。これが林間学校や修学旅行ならば、単純に出席番号で決めればいい。しかし今回は合宿。それも合宿の体験を感想文に盛り込もうとした場合、やはり一緒に入るメンバーは重要なのではないだろうか……



 「出席番号は関係ないんだよな?」


 勇斗の疑問に釘を刺すかのように、稔が尋ねた。


 「ああ、それは玉野も特に言ってなかったし、別にいいんじゃねーの?」


 明確な回答があったわけではないが、勇斗は何ともなしに答える。



 「俺は3番目の最後がいいな」


 しばしの沈黙が続いた後、最初に口火を切ったのは村中だった。


 3手に分かれるという方法に加え、具体的な順番まで指定した彼に、メンバーの視線が一度に集中する。


 「何で?」


 勇斗は思わず、村中に尋ねる。


 「いや何ていうか、ワンチャンチャンスは1回風呂場の撮影とか、出来るかもしれないじゃん。だとすれば最初に入る奴は、宿直室の風呂場が撮影できるような場所かどうか、見て来てほしいんだよね……」



 ――またYouTubeか!


 勇斗はもちろんのこと、その場にいる村中以外の全員が、そう突っ込みたいのを必死で堪えている様子が誰の目に見ても明らかである。


 それは一見すると、かなりふざけた提案に思えるかもしれない。だが、それは必ずしも間違った提案とは言い切れない。少なくとも勇斗はそう思った。



 ――最初に入る奴の「役割」は偵察か。


 「合宿に参加するメンバーに、それぞれ役割を与えろ」というのは、杉田から言われていたことだ。だとすれば、単に「最初の順番で風呂に入る」というだけでなく、彼等に偵察という役割、というより任務を与える事は必ずしも間違っていない。


 「なるほど、じゃあ最初に入る奴は偵察要員だな」


 そうなると、その適性のあるのが誰かということになる。



 「一番素早さのポイントが高い当間君、頼むぜ!」


 村中が、当間に視線を送り、偵察任務を買って出るよう促す。


 「いや、素早さは関係ないだろ。別に忍び込もうってわけじゃないんだから…」


 すかさず当間が突っ込みを入れる。


 確かにそうだ。偵察といっても、別に「敵に見つかったらアウト」というわけではない。何も玉野に見つからないよう、コッソリ風呂に入ってくるわけじゃないんだから。


 重要なのは、その場所の特徴を如何に的確に捉えるか。とりわけ村中が求めている「撮影可能な場所かどうか?」という、彼が求めている情報の内容を、適切に理解できているかどうかがカギとなる。


 

 「なら、俺が行くよ」


 龍造寺が偵察要員に立候補した。確かに、優等生の彼ならば、同じ風呂場を見ても他のメンバーより情報収集能力が高そうだ。


 「じゃあ、俺も」

 

 当間が龍造寺に反応する形で、1番手に加わることを宣言した。


 「2人でいいか?」


 勇斗は1番手の参加者が他にもいるか、残りのメンバーに尋ねる。


 「俺も…行っていいかな?」


 佐田が手を挙げ、志願の意思を伝えた。


 「じゃあ、残りの4人は……」


 稔が確認をとる。勇斗と彼が親友なのは、周囲の人間も理解している。したがって残りは村中と大橋。彼等が3番手ということで決定だ。そう、その場にいるメンバーが何の疑問もなく、そう決定したと思っていた。



 「俺、一人でいくよ」


 勇斗がそう宣言すると、全員の視線が彼に釘付けになった。


 一人で行く……それは誰もが思いつかない考えであった。少なくとも言った本人である勇斗は除いて。

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もしも、夏休みの課題が「ドラクエのゲーム感想文」だったら… ひが光司 @hotelmo

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