第22話 出港
ルシオがレイジーに弟子入りしたあの日の夜から数日が経った。サンドハーバーはまだまだ復興の途中だけど、ボク達は次の目的地を目指すことにした。『アンダーランド』、良くない噂の街だけど、だからと言ってフラハティの好きにさせて良い訳じゃない。それに、メイさんは最悪な展開も考えていた。
メイさんが語る所によれば『アンダーランド』は富裕層と下層民とではっきりと分かれているそうだ。少数が多数を支配するには力とか刷り込みとか必要らしいけど、富裕層はそれを駆使しているんだって。『スカイスチーム』でも上層民と下層民と分かれていたけど、仕事が違うだけっていう意識しかなかった。でも、『アンダーランド』は明確に支配者と被支配者の図式に分かれるんだそうだ。
この違いにボク達は戸惑ったけど、レイジーが考えるに、スカイスチームの動力は石炭であり、石炭を掘るには多くの男手がいる。下層民が主である鉱夫がボイコットなんてしてはスカイスチームは落っこちるしかない。だから、下層民であってもある程度の権利や誇りを与えたのだろうって。それが時代が進むにつれて、それなりに互いを尊重する様になったんじゃないかって。
確かに、上層民の生活は憧れるけど、あの人たちの仕事って大変そうだからね。サンターナさんとこの製鉄業だってそうだったし、フラハティの所為で印象が悪い炭鉱府だって、本来は炭鉱の探査から、人員の手配と色々と実務から事務仕事が沢山あるって話だったし。
話を『アンダーランド』に戻そう。メイさんの言う最悪な展開、それはフラハティと『アンダーランド』の富裕層が手を組むと言う事。フラハティが本当に人類の抹殺を考えているのか分からない以上は、当然警戒しなきゃいけないって、メイさんは言うんだ。人類の抹殺が事実だったとしても利用できる内は手の内を明かさず利用するんじゃないかとも。十分にあり得そうな事だと思う。
フラハティと手を組む人がいる、そんな状況になっていたら、ノコノコと『アンダーランド』に向かうのは危険かもしれない。メイさんはそこで言葉を区切って皆に聞いた。それでも行くのかって。でも、可笑しいよね、メイさん自体は行くつもりなのに。
その問いかけに真っ先に応えたのは、ボクだった。フラハティと『アンダーランド』は既に手を結んでいるかもしれないし、そうじゃないかも知れない。だったら、準備を整えて向かう以外にはないんだって。……ボクだって、『アンダーランド』の人達と手に手を取ってフラハティと戦えるなんて思ってない。それでも、危険性だけ見て動かないっていうのは、良くないと思った。
ボクの言葉に、皆が少しだけ驚いたようだったけど、それで方向性は決まったんだ。出来うる限りの準備をして『アンダーランド』に向かおうって。
そして、ついに出港の日が来た。『ウエスト・サンドハーバー』には長く居たように感じるけど、2週間も滞在していない。それでも、ここでは色々な事を経験したし、多くの出会いもあった。サンターナさん達とも会えたし。そうそう、ネイさんとレイチェル、それにルシオが乗船することになったんだ。ネイさんとレイチェルは音を出す兵器の解析と、ボクの強化蒸気鎧の改装をしてくれるんだ。ルシオは、レイジーにしごかれてる。傷の経過を見ながらだけど、体を鍛えたり、呼吸の仕方を変えたりしてた。魔術師になるのって大変なんだなぁ……。
船が汽笛を鳴らした。港を離れる合図だ。見送りの為に港に皆が集まっていた。サンターナさんことパストルさんとイサベルさん、お爺ちゃん、お婆ちゃんと呼んでも良いのよってイサベルさんは言ってたけど、それは、ちょっと恥ずかしい。それにルシオのお父さんとお母さんであるクレメンテさんとカミラさん。少しだけ話をする機会があったけど、クレメンテさんは物静かだけど、意志が強そうな人だ。カミラさんは、気さくな人だったけど、ルシオに対してはもの凄く怖かった……。
他にはスコットさんやキャサリンさん、それにスカイスチームの人達や港の人達も見送りに来てくれた。彼らに、手を振って別れの挨拶に代える。何だか悲しくなったけど、止まってなんて居られない。そんな思いに応えるように船は砂の海へと進みだした。
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