第21話 弟子入り
ルシオは、死の灰を撒く八人について知らない。あの時、メモリーギア『フブキ』が起動した場に居なかったんだから当然だ。その彼が告げたフラハティの姿は、ボク達をゾッとさせるのに十分だった。不気味な符号が指し示すのは何か? 考えるまでも無く、フラハティは人を滅ぼす為に動いている。
「……『フェイスレス』フラハティだったっけ? 洒落じゃすまなくなってきたね……。そんな野郎が相手とは、面白いじゃないか。」
メイさんの語る言葉は、いつもよりずっと低く、しかし力強かった。ルシオは、自分の言葉がすんなり信用されたことに驚いたのか、回りを見渡していったんだ。
「敵だった奴の言葉だぜ? それに顔が無いなんて……何で信じられるんだ?」
「過去の戦争時に人類に対して脅威となった奴らの中に『フェイスレス』フラハティと呼ばれられた奴がいたらしい。戦争時代の蒸気鎧に組み込まれていたメモリーギアが語ってくれた。それに、お前もう嘘はつかないだろう? まあ、嘘つくには狡くないとすぐバレるがな!」
後半は茶化すようにレイジーは言ったけれど。予想外の言葉に、ルシオは頭を項垂れていた。そして、徐に顔を上げてレイジーを真っ直ぐに見やって言ったんだ。
「無理を承知で言わせてくれ。フラハティと戦うならば俺も加えてくれ! 俺を助けた名前も知らない機械兵を、無作為に、無感情に殺した奴が許せねぇ! 頼む、頼むよ!」
「それはサンドラとライネに聞け。エリックは……直接戦ってないから何とも言えんかな。」
レイジーは端的にそう告げて、ボク達にどうするかをパスしてきた。いきなり、そう言われてもなぁ……。確かに根は悪い奴じゃなさそうなんだけど。ボクが言葉に詰まっているとサンドラが、迷った末に言葉を掛けた。
「では……私の父母、それに兄がどうしているかご存知ですか?」
その言葉に、ルシオは固まった。恐れていた事を聞かれたように……。何だろう、何か嫌な予感がする。逡巡するルシオを見て、そう感じたけど、それは皆そう思ったようだ。レイジーも如何した物かとでも言うように小首をかしげたが。何かを言う前にルシオが覚悟を決めて、話し始めた。
「親父さんは幽閉中だ。フラハティは、親父さんはまだ使えるって話をしていた。お袋さんと兄貴は……信じてもらえないかも知れないが……優雅に暮らしている。人質としてじゃない、前の俺と同じように奴に心酔しちまっているから……。」
「おいっ!」
「それはっ!」
ルシオの言葉にボクとエリックが同時に怒りを露わにしたけれど、サンドラは黙っていた。黙ってルシオを見つめて、それから小さく息を吐き出した。
「正直なのですね。人質として元気にやっているって言えば、誰もあなたが加わるのを反対しなかったのに。」
「嘘はつけねぇ。そうしたら、俺は死んじまったあいつに顔向けできないばかりか、あんた達にも顔向けできない。」
「貴方が嘘吐きならば良かったのに。そう思いますわ……。でも、私は貴方が加わるのは認めます。」
サンドラはルシオの言葉に顔を青ざめさせながらも微かに笑い、力なく椅子に座った。そして、ルシオが加わる事を認めたんだ。……分ってる。サンドラのお母さんやお兄さんの事を、そう言って一番損するのはこの場ではルシオだってことは。彼は、それを恐れずに自分の中の何かに従い、告げただけなんだ。つまり、それが事実だってことはボクでも分った。
「お前がずる賢い奴なら、良かったと言うべきか、悪かったと言うべきか。」
「すまねぇ。」
「謝んなよ。……仕方ないさ、人は自由だ。成長するのも堕落するのも。さて、ライネは如何する?」
レイジーの軽口にルシオの謝罪が重なる。それから、レイジーが渋い顔をして、サンドラのお母さんやお兄さんに対してか辛辣な一言を添えた。レイジーは見かけからは分からないけれど、かなりストイックな所が在るから気に入らないんだろう。サンドラのお母さんとお兄さんの事が。
それにしても、衝撃的な話を聞いた後に、ボクにも決めろと言うあたりレイジーも時々ひどい。
「……良いんじゃない。味方は多い方が良いし。」
「だってよ、良かったじゃないか。」
「ああ、良かったよ……ありがとう。サンドラ、ライネ、そしてエリック。俺を受け入れてくれて。礼を言う。」
ボクの言葉を受けて、レイジーは微かに笑って言った。そして、自分のコップに入っている飲みかけの水を飲み干して、のどを潤せばほっと一息ついた様だった。ルシオはボク達一人一人に頭を下げて、礼を言った。何だかむず痒いと言うか、変な気分だ。でも、それだけフラハティに対して怒ってるってことかも知れないね。助けてくれた人を、殺されたからなんだろう。機械兵は人じゃないかもしれないけど、ここは区別する所じゃない。心があって通じ合えたんだったら、人と言ってもい筈だ。そんな事を考えていると、レイジーを見ながらルシオは更に言葉を投げかけた。
「……そして、レイジー。迷惑ついでにあんたにも頼みたい事がある。不躾だが……俺を弟子にしてくれ!」
「うんうん……ん? んん? 弟子?」
これは……急展開だ。レイジーもうんうんと頷いていたけれど、話題が急に自分に切り替わって、思わず変な声を上げている。
「魔術ってのは自分で研鑽するものかもしれねぇ。だが、フラハティは俺が答えを見つける時間を待ってくれはしない。今のままじゃ大した戦力にもなりゃしない……。そこで無理を承知で頼む。指標だけで良い、俺に教えてくれ!」
その言葉を聞いてレイジーは暫し黙った。迷うように視線を彷徨わせてから、ゆっくりと目を閉じた。口の中で何かもごもごと呟いてから、一つ頷いてルシオを見た。
「お前、何処まで教えられた?」
「力の引き出し方、風だから刃が良いと言う事、それだけだ。」
「……ああ、道具扱いか。」
レイジーはため息をついて何やら考えるように指先をクルクルと回している。
「……銃は?」
「銃? 一応使えるが……基本的には回転式蒸気拳銃が得意だ。」
その言葉にレイジーはまじまじとルシオを見て。小さく頷いた。
「良いだろう、これも何かの縁だ。……一応聞いておくか。ボクからも質問がある。サングイン・ネブラの名を知っているか?」
「知っている。フラハティが言うには、自分の内にそんな名前の亡霊を取り込んでいる、だからそう言う力があるって話はしていた。」
「……魔術師の亡霊のくせに取り込まれやがったか……。まあ、これで話はスムーズになった。フラハティを殺れば良い訳だ。……と言いたいんだがなぁ……曲者に魔術が加わったのか。」
うんざりしたような面持ちで天井を見上げてレイジーはぼやいた。
「本当に、洒落にならないねェ……。」
メイさんはげんなりした様子でそう呟いたけど、皆同じ気持ちだったと思う。最悪な奴に最悪な力が備わっていると言う感じ。それでも、もう逃げ出そうとは思わない。何とかして奴を止めないと……。
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