第16.5話 Mors est miles

 炎が迫る最中、死が間近に迫っているのに、ボクは変な夢を見た。一瞬にも満たない僅かな時間だけど、確かに夢を見たんだ。


 そこは今よりも荒れ果てた大地、傷跡が生々しい分より酷く荒れ果てた様に見える大地だった。砂塵を巻き上げながら、ふらつく様に大地を滑る影が一つ。蒸気エンジンと飛翔石の力で僅かに浮きながら移動する機動蒸気鎧の姿は、さっきまで見ていたあの機体だ。……片腕を失い、胸部装甲に大きな穴が開き、黒いオイルを血の様に垂れ流しているが、間違いない。


 この朽ちかけた機動蒸気鎧セイヴァリを動かしているのは、小型蒸気計算機内にあるメモリーギアの『フブキ』。先程、レイジーが動かした例の奴。本来は搭乗者をサポートする為に存在するメモリーギアが今は駆動系の全ての操作を行っていた。……何で、こんな事分るのかボクにも良く分からないけれど、そう言う物なんだって、理解している。夢だから、で済ませて良いのかな……。


 一方の搭乗者はと言うと、腕が吹き飛び、胸に穴が開いて、そこからとめどなく血を流している。即死じゃないのが不思議なくらい。メモリーギア『フブキ』は、搭乗者である『アマネ』に呼びかけながら、生き残った人類の立て籠もる基地を目指して機動蒸気鎧セイヴァリを動かしている。そんな状況だと、何故かすんなり把握できた。


 アマネの薄い茶色の髪は、汗がにじむ額に張り付いてしまっている。意識は既に朦朧としているようだった。フブキの機械音声による鼓舞だけが虚しく響いている。だが、アマネには分かっているみたいだ。自分の命は長くはない事が。しかし、彼女は何処か誇らしげに薄い笑みを口元に浮かべていた。何かを成し遂げたのだと言う自負が、そこにはあった。


 メモリギア『フブキ』は語る。スカイスチームは飛び立った。ギブスン・スターリングの攻撃圏内を離れたのだから、私たちの勝ちだ。だから、基地に戻り傷を癒そうと。でも、それが無駄な鼓舞だと『フブキ』も分っているに違いない。


(これで、私の役目は終わり……。さよなら。私のたった一人の妹……。スカイスチームで幸せに……。)


 最後にアマネの声が、心の内の声が聞こえてきたように思えた……。


 彼女は、過去の戦に生きたとある兵士は死んだ。


 そして、ボクも死者の一員になろうとしている。ああ、もう、炎の熱も感じない……。感じない? いや、そもそも体は何処も燃えてもいない。少しだけ火傷したかもしれないけど……それだけ?


 一瞬の夢から覚めたボクが見た物は、蒸気鎧に向けて右手を向けているレイジーの後ろ姿だった。燃え盛る炎がレイジーの右手にみるみる吸収されていく光景だった……。


Rufus tempestasルフス・テンペスタース それが我が魔法名マジカル・モットー。この程度の炎で大嵐を飲み込めると思うなよ……。」

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