第24話 アンダーランドへの道行き

 『アンダーランド』への道行は、大変なものだった。ワームの襲来がいつもより多く感じたし、天候にも恵まれなかったからだ。それ所か、砂の海で遭難しそうな目にあった。おかげで、フライングワームの巣と呼ばれる奇妙な竜巻を見る事が出来たけど、突っ込んで居たらと思うとぞっとする。だって、あのフライングワームが無数に飛んでいる竜巻だよ? 生きて帰れ無い所の話じゃない。


 遭難しかかったのには訳があるんだ。『アンダーランド』に最寄りのサンドハーバーからの光信号が無かったんだ。船が近づけば、光信号や汽笛で互いに合図する手筈なんだけど、サンドハーバーからは何の信号も届かなかった。目視できる距離にいるけど、特に変わった様子もない、最初はそう見えた。でも、遠眼鏡っていうのかな、あの筒状の遠くまで見える奴でつぶさに観察していると……サンドハーバーに人の影が全くなかったんだ。


 こいつは不味いって事になって、急遽、針路を変えた訳なんだけど……。その結果が遭難騒ぎって訳。砂の海は陸地と船が走れる砂漠の境目が分かり辛いから、陸地からある程度離れるんだけど、それが今回は不味かった。海と違って、悪天候でも転覆する危険性は少ないそうだけど、代わりに進みが悪くなる。そりゃそうだよね、砂の水かけたら固まるからね。暴風雨の最中は泥をかき分けながら船が進むような物。速度は出ない。


 それだけだったら、まあ、遭難も無かったんだけど……。不意に行き先を決めるのに使う羅針盤の針が、くるくる回りだす現象が起きてしまったんだ。悪天候の視界が悪い最中にそれが起きたから、もう大変。見張りを多くして、周囲に何もないか大型のアセチレンランプを灯して、警戒した。ランプって言っても大型だし、反射板のおかげで一定方向を照せるから、かなり遠くまで見えるんだ。範囲は狭くなるけどね。


 そんな風に警戒しながらゆっくり進んでいったらさ、船が大きく揺れるほどの風が吹いた。それも絶え間なくだよ? 何事かと思ったら、前方に突如竜巻が発生してさ……嫌になっちゃうよね。ランプで浮かび上がった竜巻の中に、無数のフライングワームの影を見つけて、ワームの巣だ! って、船員さんが叫んだ。また、皆慌ただしく旋回する作業に入ったり、万が一に備えて銃座に付いたりしたんだ。勿論、ボクはアルジャーノンに乗って、待機した。正直、あの夜は本当に疲れた。


 竜巻に逆らいながら、どうにか全船がその影響下から脱せたのは、それから数時間後の事だからね。丁度、天候も回復したおかげで皆がほっとした矢先だよ、ここが何処か良く分からないって話になったのはさ。相変わらず、羅針盤はくるくると回り続けているし、回りは砂の海ばかり。それに丁度日没の時間帯だったこともあり、一難去ってまた一難って感じだった。


 結局、それから三日位は遭難っていうか、陸地を目指してまっすぐに進んでいた。まあ、まっすぐ進めばいつかは着くだろうって事だったんだけどね。船内の雰囲気は、そこまで悲観した物は無かったけど、メイさんだけが石炭代が~とか、余計な食費が~とか言ってた。『アンダーランド』には交易で行く訳じゃないのにと思うんだけど、余計な出費は堪えるみたい。そう言って居られる程度に石炭も、食料も積んでたって事だけどね。


 それで、三日経ったあの日の夜、ついに陸地を見つけたんだ。そして、そこで繰り広げられていた光景を目にして、ボク達は甲板の上で立ち尽くしてしまった。横一列に並んで紐で繋がれた人々を、強化蒸気鎧が、例のフラハティが揃えた火を噴く蒸気鎧が、その腕から吹き出す炎で全て焼き払う光景だったから。


 誰かの声が響いた。レイジーだったか、エリックだったのか。男の人の声。ひどく怒っており、その声で皆が我を取り戻した。船員さんの内、何人かはすぐに銃座に座り、其方に向けてガトリングや重砲を向けたけど、まだ生存者がいるから撃つに撃てなかった。蒸気鎧だけを狙い撃つのは無理だ。


 船ですぐに接舷したくとも、ここはドックじゃない。接舷可能場所かもわからないし、連中がのんびりそれを見てる訳がない。ボクは思わず歯噛みしながら小さく畜生って呟いて、アルジャーノンの炉に火を入れた。起動には時間がかかるし、起動しても、この距離じゃ意味が無い。船に気付いて居る筈だけど、陸の蒸気鎧たちはお構いなしに、次の人々を焼き殺そうとしている。何とも嫌な時間だったけど、不意に、不意に見た事もない蒸気鎧が姿を見せた。


 暗闇から浮かび上がったように見えた、闇と同じ色の蒸気鎧は、瞬く間に火を噴く蒸気鎧たちを圧倒していった。それが死の灰を振りまく八人の一人『カラミティ』ジェーンとの最初の出会いだった。

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