エピローグ

 あの事件から数ヶ月が経った。


 リリィは骨董品屋アメリースで変わらずに働いていた。

 アビーも最近は店の方に出ることが多くなり、ちゃんと働くようになっていた。


 だが、お客達はリリィ目当ての者が多く、結局リリィの方が働くことが多かった。


 例え忙しくても、平和で当たり前の日々を取り戻したリリィはこれで満足している。


「うーん、ちょっと背伸びし過ぎじゃないか?」

「アビーさん、堂々とスカート捲らないで下さい」

「いてっ」


 お客が居なくなると、アビーは相変わらずリリィにイタズラを仕掛けてくる。

 しかし、リリィも慣れたくなくても慣れてしまったのか、落ち着いてスカートを戻すと同時にアビーの手をつねる。


「それよりアビーさん」

「なんだ?」

「もう完成したんですか?」

「・・・・・・・・まだ」

「早く書いちゃってください。ロイスさんに頼まれたんですよ」


 アビーはロイスからの頼みで、ある事を頼まれていた。


「早くしないと間に合いませんからね!結婚式に!」

「あ、ああ」


 そう、ロイスがなんとセレナと結婚することになったのだ。

 立場上色々とある二人なので、今までは仕事の付き合いとして接していた二人だった。


 だが、例の事件の後、セレナが思い切って告白をして、ロイスもすぐに承諾。

 どうやら、昔からお互いに意識し合っていたそうだ。


 そのままの勢いで結婚に至ってしまったのだ。

 そして、ロイスの親友であるアビーが結婚式での祝辞を頼まれたのだ。


「ったく、何で俺があいつの祝辞なんか考えなきゃいけないんだ」

「そこは仲の良いお二人だからじゃないのですか?」


 仕事の合間にリリィもアビーの手伝いをする。

 アビーだけでは祝辞を書くのは苦労しそうだからだ。


「そ、それに来年になったら私達のけ、け、結婚式の方を頼めば・・・・その」

「あ、ああ!そうだな!そうすればいいよな!」


 リリィも来年になったら結婚できる歳になる。

 すでにアビーからはプロポーズはされているので、後はリリィが結婚できる歳になるのを待つだけだ。


 二人は顔を真っ赤にしながら、ロイスとセレナの結婚式の祝辞を考える。


 そしてロイスとセレナの結婚式当日、二人が書いた祝辞は半分ぐらいしか読まれることはなかった。

 なぜかというと、アビーが祝辞を読んでいる最中に、リリィの指輪の赤い宝石から炎が溢れ、なんと、アリアが顕現したのだ。


 セレナの後輩であり、仲の良き友人である火の精霊でもあるアリアは、短い間だけだったが、セレナを祝福するために出てきたのだ。


 それからはセレナと抱き合って嬉し涙を流していた。


 そして数分後、魔力が切れてアリアは消えていった。


 また会えると言い残して。



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 更にそれから一年後。


 リリィもアビーと結婚することになった。


 ささやかに結婚式を挙げる予定だった二人だったが、ロイスとセレナの人望の厚さと、何処からか聴きつけてやってきた聖女クリスティアのおかげで、ルインの街全てを上げての巨大な結婚式になってしまった。


「なんか大事になってしまいましたね」

「そうだな」

「ティアなんてお父様を呼んで進行役をやってもらうって言ってましたよ」


 ティアの父、すなわち聖女クリスティアの父親は聖都アナスシアの教皇にあたる。

 そんな凄い人が一般人のリリィとアビーの結婚式を取り仕切るとは例外中の例外だ。


(主、そろそろ時間なのでは?)

「え?あ、ホントだ。アビーさん、ちょっと出掛けてきますね」

「了解だ」


 実は数日前、精霊のアーシーが目覚めたのだ。

 まだ魔法とかは使えないが、話すことは出来るようになったのだ。


(それにしても目覚めたら主が結婚とは驚いた)

「私としてはアーシーだけでも目覚めてくれてよかったと思ってるんだよ」

(そう言ってくれるだけでも嬉しいものだな)


 リリィは話しながらある場所に向かっていた。


「あ、リリィちゃん、来たわね」


 やって来たのはハンター協会の建物だ。

 そこにはセレナがおり、幾つものウェディングドレスが並んでいた。


「出来る限り集めたのよ。リリィちゃんが気に入るのがあると良いんだけど」

「ありがとうございます」

「それじゃあ着せ替え・・・じゃなかった。試着しちゃいましょうか」

「今何て言いかけたんです?」


 リリィはセレナに着せ替え人形のように、いろんなドレスを着せられた。

 似合うのが見つかったので文句はないが、終わる頃にはリリィはかなり疲弊していた。


 そして、リリィが骨董品屋アメリースに戻ると、アビーが店の前で疲れた顔をして、空を見上げていた。


「アビーさん、どうしたんです?」

「・・・あの野郎共がな。来たんだよ」

「あの野郎共?」


 リリィは首を傾げて考えるが、あの野郎共と言うのが何なのかまったくわからなかった。


「お前のファンの野郎共だよ」

「・・・・・・・ええ!?」


 リリィは自分が少しアイドル的存在に見られているのは知っている。

 だが、何故自分ではなく、アビーの方に来たのかわからなかった。


「な、何があったんですか?」


 リリィは恐る恐る聞いてみることにする。


「洗礼を受けたんだよ。お前を、リリィを大切にするようにってな」

「せ、洗礼・・・」


 具体的な内容はわからない。でも、自分のせいで、アビーがこんなにぐったりする程のことがあったことに少し罪悪感を感じたリリィだった。



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 リリィとアビーの結婚式当日。

 まさかの人物が並んでお祝いに来てくれていた。


「リリィちゃん、おめでと♪」

「リリィ、おめでとうございます」


 最初に祝いの言葉をくれたのは『闇夜の使徒』のリーダーであるメアだ。

 そして、2番目に祝いの言葉をくれたのは、聖女クリスティアだ。

 敵対していた2人の勢力のトップに近い人が並んでお祝いに来てくれたのだ。

 因みにメアの後ろにはナハトが相変わらずの無表情で立っていた。ぼそっと小声でお祝いの言葉を言ってくれたので、照れているのかもしれない。


「メアさんはもう動いちゃって大丈夫なんですか?」

「うん♪魔法は使えなくなったけどね」


 メアはあの事件の時の無理が祟り、魔力を生み出せない身体になってしまったのだ。

 最初は身体も動かすことが難しかったメアだが、リハビリを重ねて、日常生活が出来るようになっていた。

 そしてナハトに無理を言って、この場に連れてきてもらったのだ。


「リリィ、私達が貴方をリードすることになったのよ。だから準備のためのお迎えも含めてね」

「そうなの?」


 それはリリィも初耳だ。

 確かにリリィは孤児で、肉親は誰1人といない。


「そういうことですので、リリィをお借りしていきますね」

「おう、また後でな」


 アビーはリリィを見送り、自分も準備をするために移動を始めた。



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「まさかアビーの結婚式がこんな盛大にやることになるとはね」

「それは俺が驚きだってぇの」


 アビーは似合わないタキシードに身を包み、ロイスと歓談していた。


 今日はこの後、教会でリリィと誓い合った後、ルインの街を馬車を使って引き摺り回される予定だ。


「っていうか俺らを見にくる奴らなんて限られているだろ」

「そうかもな」


 アビーもリリィも特別な有名人というわけでもない。街を回ったところで、人が集まる気がしなかった。


「それはどうかしらね」


 そこにセレナがやってきた。


「どういうことだ?」

「実は闇に覆われたあの時の事件を解決したのが、リリィちゃんとアビーの2人という事実が広められているのよ」

「・・・・・・・は?」


 あの事件はハンター協会が解決してことになっているはずだ。

 一応対応したので間違ってはいないが、切り札になっていたのはハンター協会に所属していないリリィだ。アビーも戦いに参加している。


 このことは限られた人以外には伏せられていたはずだ。


「誰が流したんだ?」

「・・・・・・あの方よ」

「・・・あいつか」


 こんなことが出来るのはある程度知名度がある人物の発言だ。

 そして、リリィと深く関わっていて、知名度があるというと1人しか浮かび上がって来なかった。

 アビーは一言文句を言ってやろうと考え、リリィを連れて行った人物を追いかけていった。



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「リリィちゃん、可愛いわ!」

「リリィ!私と結婚しましょう!」

「えぇ!?」


 リリィも別の場所でウェディングドレスに着替え、メアとクリスティアで歓談?していた。


「それにしても、リリィが結婚してしまうのね。少し寂しいわ」


 クリスティアがリリィの姿を改めて見て、呟いた。


「あのアビーって男が相手なんだから、色々と大変そうね」


 メアは結婚した後のことを言っているのだろう。


「いえ、今までもスカートを捲ってきたり、胸は揉んでくるし、お風呂を覗こうともしてきていたので、あまり変わらないですよ?」

「なんででしょうか?やたらムカついてきたのですが」

「私も。聖女とは意外と息が合うかもしれないわね」


 クリスティアとメアからどす黒いオーラが出てくる。


「でもよくそんな殿方と結婚しようと思いましたわね」


 クリスティアの言葉は最もなことだ。


「そんなアビーさんでも、私が落ち込んだとき慰めてくれました。寂しいときはいつも一緒にいてくれました。命を掛けて私を守ってくれました。だから好きになっちゃったのかもしれません」

「「・・・・・・・・・」」


 リリィの眩しい笑顔に2人は何も言えなくなってしまう。


「それはそう感じちゃうかもね」

「そうですね。そのギャップがあるからこそなんでしょうか」


 クリスティアとメアが二人で納得して頷いた。


「あ、でも今のはアビーさんには内緒にしてください。恥ずかしいので」


 リリィは頬を赤く染めながら二人にお願いをする。


「あ~・・・わりぃ、聞いちまった」

「あ、アビーさん!?」


 後ろを見ると、扉の向こうにアビーが立っていた。


「こら!アビーはまだ見ちゃダメだよ!」

「そうです!出てってください!!」


 メアとクリスティアによって、アビーは締め出されようとする。


「俺はお前に用があるんだ!」


 アビーは追い出そうとしているクリスティアの手を掴んで言った。


「ま、まさかリリィだけではなく私も嫁にするというのですか!?」

「そうなんですか!?アビーさん!!」

「ちげぇよ!!」


 こうして三人はぎゃあぎゃあと騒ぎ始める。


「まったく結婚式当日だというのに何をやっているんだか」

「でもこの二人はこの方がらしいと思いますね」

「・・・そうかもしれないな」


 扉の外にはアビーを追いかけてきたロイスとセレナが微笑ましそうに見ていた。


「メアも混ぜろ!!」

「混ざんな!!」

「アビーさん、メアさんまでお嫁さんにするのですか!!」

「しないっつの!!」


 結局、結婚式が始まる時間になって、呼び出しが掛かるまで騒ぎ続けたリリィとアビー達であった。


「俺はリリィ一筋だっての!!」

「っ!?私も!私もアビーさん一筋です!!」


 こうして、リリィとアビーは遺跡の街ルインで皆から祝福され、無事に結ばれることになった。


 リリィのこれからの人生、色々なことをアビーと共に体験し、この街で幸せに生きていく。


 後に精霊達も目を覚まし、人々の前に出るようにもなる。そしてリリィは、精霊達から愛された娘と語り継がれるようになるのだった。

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遺跡の街の魔法少女 雅國 @kokkuu

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