少女と集まる思い

 リリィが精霊達の力を借り、戦うことを決めてから、数時間が経った。


 時刻はもうすぐ夜明けになろうとしているはずなのだが、暗黒の太陽の影響で、街は深い闇の中にいるようだった。


 火の灯りはあるのだが、この暗さは闇の魔力の影響なので、普段より明るく照らすことが出来ないでいる。


「本当に酷い有り様だ」

「ロイスさん、街の方は」


 リリィやアビーはナハトやメアといった闇夜の使徒の人達と共に、ルインの街の広場にやって来ていた。

 そこには街の警邏にあたっていたロイスも合流していた。


「街の人達は何人かは怪我をしたが、命の危険はない。ただ、今も街の外周で戦っているハンターは数人が殺られている」

「そうな・・・」


 その言葉を聞き、リリィは泣きそうになってしまう。

 もしかすると、いつも買い物に来てくれていたお客さんかもしれないのだ。


「それよりクリスティア様は」

「ティアなら大丈夫です。えっと・・・」


 リリィは闇夜の使徒のアジトにいると言っていいのか迷い、ナハトを見る。

 ナハトは視線をメアに向け、答えていいのか無言で問いかける。


「少しいいかな?メアはメアって言って、闇夜の使徒の主をしているの。一応、現代の光輝の巫女様はメア達のアジトで休んでもらっているよ。もちろん被害は与えないから安心して」

「・・・・・・信用していいのか?」


 ロイスはいきなりのことで、迷ってしまう。

 それもそうだろう。先程は助けて貰ったとはいえ、敵対しているボスがいきなり出てきたのだから。


「はい、メアさんは信用出来ますよ。たぶん」

「リリィちゃん、たぶんは余計だよ~」

「え、な」


 いきなりリリィに抱き付きながら、メアは言ってくる。


「あ~もう!リリィちゃんのおっぱい柔らかくていいね」

「も、揉まないでください!」


 というか、いつの間にこんな仲になっているんだろうと、疑問に思うリリィだったが。


「リリィちゃん、皆を・・・街を頼んだよ」

「・・・・・・・」


 メアが突然、囁くような声でそんなことを言ってきた。

 恐らく、暗黒の太陽までの攻撃の道を作る際に、自分が無事でいられないことを、悟っているのだろう。


 そう考えたら、リリィはメアに向かって振り返り、今度はリリィからメアに抱き付いた。


「任せてください」


 リリィも囁くようにメアに答える。


 ロイスはいきなり抱き付き合う少女二人の姿を見て戸惑うが、何かを察して優しそうな目で見ていた。


「・・・・・・・・くそ」


 だが、ナハトは苦虫を噛んだような顔をして、呟いた。


「なぁ、リリィ」

「なに?アビーさん」


 そこにアビーが話しかけてくる。


「今回、俺に出来ることはあるか?俺は魔法は使えねぇから、役に立てねぇかもしれねぇが」

「そうですね・・・」

(魔法が使えない?リリィ、アビーという男は魔法が使えないのですか?)


 いきなりリリィの指輪の宝石に宿るかつての光輝の巫女リュミエルが話しかけてくる。


「え?は、はい。魔石は使えますけど、魔法は使ったところは見たことはありません」

「どうしたんだ?リリィ」


 いきなりリュミエルに話し掛けたので、アビーが戸惑っていた。


「あ、ごめんなさい。お母さんがアビーさんは魔法を本当に使えないのかって聞いてきて」

「確かに俺は一切魔法は使えないぞ。でも、そんな奴なんて他にもいるだろ」

「いや、アビー。普段は魔石とかあるから使わないだけで、一般人も初歩的な魔法なら使える」

「そ、そうなのか?」


 ロイスの説明にアビーは呆然としてしまう。


(・・・リリィ、アビーはもしかすると今回の戦いの鍵になるかもしれません)

「アビーさんが?」

(ええ)

「でもアビーさんはエッチですよ?私なんか何回も色々触られていますし、見られてもいます」


 リリィの説明にその場の全員が白目でアビーを見る。


(・・・事が終わったら処刑しましょう)

「え、でも嫌じゃないわけではないですけど、私は平気なので」

(・・・・・・・なるほど。それなら静かに見守るとしましょう)


 その言葉で自分の娘がアビーに惚れているとわかり、リュミエルは引き下がることにした。それでも、アビーに対して警戒は別の意味で強めることにした。


(リリィ、アビーが使用するあの剣。あれは本来、魔石の魔力だけではなく、使用者の魔力を魔石で相乗させて使用する武器です。なので、彼では本来の力を発揮出来ません)

「で、でも私は剣は使えないです・・・あ、でもロイスさんなら」

「僕がどうかしたかい?」


 話し半分で聞いていたロイスが、自分の名前が呼ばれたので、話に加わってくる。


「あの、アビーさんの剣をロイスさんが使えば」

(違います。リリィ)

「え?」

(貴方の光の魔力を魔石として作成し、更に貴方の全力の魔法を強化するのです)


 リュミエルの考えはリリィの光魔法を最大まで強化しようとするというものだった。


「で、でも私剣は」

(それは彼に協力してもらいます)


 リュミエルはアビーに意識を向ける。


(リリィ、光の魔法の中には感覚を同調させる魔法があります)

「感覚の同調?」

(ええ)


 それからリリィはリュミエルから同調の方法を教えてもらうことになった。

 それを今度はアビーに説明し、実際にやってみることにする。

 無理な動きをしなければ、身体への負担もほとんどないらしい。


「アビーさん、いきますよ」

「あ、ああ」


 リリィはアビーの背中に手を置き、魔力を操作する。


「・・・・・・リンク」


 リリィが魔法を唱えると、不思議な感覚に襲われる。

 それはアビーも同じようで、慌て始める。


「な、なんだ?左右の目で見えるものが違うぞ」

「私達の視界を共有することに成功したんです。アビーさん、自分の身体を動かさずに、私の視界での身体の操作をやってみてください。あ、でも急な動きは怖いのでやめてもらえると」


 リリィが話している途中で、いきなり腕が勝手に動き、両手を挙げた。


「お、おお?変な感じだけど動かせたぞ」


 アビーはリリィの方に向き、自分の身体のようにリリィの腕を動かし続ける。

 リリィも自分の感覚は生きているので、勝手に動く身体に違和感を感じていた。


「あ、アビーさん、あまり早く動かさないでください」

「わりぃ。でもやっぱりリリィの身体だと身長もそうだが腕や足の長さが違うから、難しいな」

「それはそうでしょうけど・・・。これで戦えそうですか?」

「出来なくはないと思うが・・・・よっと」


 アビーはリリィの身体で反復横跳びや跳躍をして、動きの確認をする。


「あ、あ、アビーさん!?怖いです!」


 リリィは自分なら転んでしまいそうな動きに恐怖を感じ、アビーに訴えかける。


「ん~・・・もうちょっとなんだけどな」

「な、なにがですか~!?」

「あ、そうか」

「っ!?!?」


 突然動きを止めたかと思ったら、リリィは自分のスカートをたくしあげ、自分でパンツを見せていた。もちろん、アビーの方を向いたままでだ。


「うん、最初からこうすればよかったんだな」

「や、やめ」


 幸いにも、他の人達は準備をしに行っているので、人はいない。


「おい、アビー。やめてあげろ」


 ロイスはリリィの方を見ないようにしながら、アビーにやめるように言う。

 すると、リリィの手はスカートを離し、元の位置に戻っていった。


「り、リリース!」


 リリィは慌ててリンクの解除を唱えた。


「お?視界が戻ったぶぉほ!!」


 アビーがリリィに報告するように言うと、リリィのアッパーがアビーの顎に炸裂した。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・ロイスさん、ありがとうございます」

「い、いや、こちらこそ悪かったな」

「いえ、大丈夫です」


 ロイスなら紳士的だからまだ許すことは出来る。

 でも、事の原因を作ったアビーはリリィのアッパーで、伸びていた。


「・・・・・・・やり過ぎちゃいましたか?」


 なかなか起き上がらないアビーを見て、そう呟くのだった。

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