少女、捜索を手伝う

 アリアは1人である遺跡に来ていた。


「・・・・・・・」


 そして、封印されている扉の前に立ち、手を封印に翳した。


 すると、封印は消えていき、勝手に扉が音を発てて開いた。アリアは1人、その扉の中へと入っていった。


「・・・・・・・・誰?」


 扉の中へ入って少し歩いた所で、後ろから近付こうとしてきる気配に気付いた。


「おかしいですねぇ?僕は影紛れているのに見つかってしまうとは」


 影の中から声が響き、姿を現す。


「あんたは」

「僕はユルバン。『闇夜の使徒』の幹部を務めさせて頂いております。そして貴方は----ですね?」

「っ!?」


 ユルバンの言葉を聞き、アリアは目を見開いた。


「やはりあの女を使って事件を起こして正解でした。貴方を見つけることが出来た」

「・・・・あの事件は・・セレ姉を襲った原因を作ったのはお前か!!」


 アリアはユルバンの行いを許すことが出来ず、手足に炎を纏わせて、襲い掛かった。ユルバンは口元をにやつかせて、アリアを迎え撃つのであった。



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 リリィがセレナとアリアと遊びに行ってから数日が経った。骨董品屋アメリースでは変わることなく営業をしていた。


「そういえばアビーさん」

「ん、なんだ?」


 客がいなくなったタイミングでリリィはアビーに話し掛けた。


「私に出来る近接での戦い方ってあるのでしょうか」


 リリィは以前の戦いで、ロイスが倒れてしまい、1人で戦った時は下位魔法を唱える余裕も持たせてくれなかった。なぜか思い出した代償魔法と呼ばれる禁忌の魔法で難を逃れたが、毎回あれを成功させることなんて出来ない。


 それならば、少しでも近接戦闘を覚えて、対応できるようにしておきたいと考えた。


「・・・・・・あるのか?」

「はぁー・・・やっぱり難しいですよね」


 アビーは考えたが、リリィの運動音痴は知っている。運動音痴が出来る近接戦闘なんてあるのかと、逆に聞きたいぐらいだ。


 リリィもそれが分かっていたので、逆に納得してしまう。


「リリィの強化魔法を自分に・・・やっても逆に危ないか」

「それに・・・その、私がそれをやると、効果が無くなった時に動けなくなるんですよ」

「ん?効果切れたら身体が重く感じはするが、動けないほどではないだろう」


 毎回のように掛けてもらっているアビーは身体が慣れてしまっているので、重く感じるだけで、特に問題はないのだ。


「いえ・・・その、全身が筋肉痛になってしまって」

「・・・・っぷ」

「笑わないでくださいよ!」


 アビーが魔法強化が切れて筋肉痛になって動けなくなった姿のリリィを想像して、噴き出してしまった。


「わりぃわりぃ、でも確かに普段動かない奴が魔法で無理やり動けば痛くはなるわな」


 魔法で身体能力を強化したとしても、身体を動かすのは自分だ。早く動ける分、動き過ぎてしまうと身体の限界なんてすぐに超えてしまう。運動を普段していない人ならなおさらだ。


「でも何かあった時に少しでも動けたらって思うんです」

「なるほどなぁ・・・」


 アビーはリリィの真剣な気持ちに何かないかと考え始める。


「武器は・・・持たない方がいい・・よな。逆に危なくなる。でも」

「・・・アビーさん?」


 いきなりぶつぶつ言いだしたアビーに名前を呼んでみるが、反応がない。


「・・・・・・・・・これか?」


 アビーは突如リリィのスカートを堂々と捲った。水色のパンツが露わになる。


「何するんですか!」

「ごふっ!」


 リリィは思いっきりアビーの鳩尾に拳を入れた。


「・・・・・威力はいい・・・人間相手にはいいかも・・・しんねぇな」


 アビーは今受けた打撃をと考えたが、魔物にこれをリリィがやっても効果があるか定かじゃなかった。


「・・・まさか今のを考えていたんですか?」

「・・・・・・・・(こくん)」


 リリィもまさかアビーがその確認で、スカートを捲って来たことに呆れていた。


「・・・・・水色か」

「思い出さないで!!」


 リリィはスカートを押さえてアビーを蹴りつけるのだった。



 それからしばらく経ち、もうすぐ夕方になろうとした時間。


「お邪魔します!」


 セレナが慌ただしく店に入ってきた。まだ客が店内にいたので、突然現れたセレナに困惑していた。そして、セレナの視線はアビーとリリィに吸い込まれる。


「あ、アビー殿!リリィちゃん!助けてください!」


 そう言いながら、セレナはリリィに泣き付くようにして懇願をしてくる。


「せ、セレナさん。どうしたんですか?」


 いつものセレナとは考えられない程の狼狽え振りに困惑するリリィ。まだ人目もあるのにセレナは目から涙を流していた。


「・・・わりぃが、今日は閉店だ」

『・・・・・・・』


 アビーは残っていた客に告げた。客達もただ事ではないことを悟り、静かに店を出ていった。


 その間、セレナはリリィに抱き付き、しゃくりを上げながら泣いていた。



 しばらくしてセレナは少し落ち着きを取り戻した。


「ごめんなさい、リリィちゃんの顔を見たら、気が緩んでしまいまして・・・我慢出来なくなってしまいました」


 セレナの目元はまだ赤い。


「いえ、大丈夫です。それより何があったんですか?」


 リリィはセレナに何があったか聞く。様子を見るにただ事ではないのは明らかだ。


「アリアが帰ってこないの」

「え?」

「昨日出掛けてから帰ってこないの」

「どこか遺跡に入ってるとかはないのか?」

「昨日出掛ける時に夕方には帰ると言っていたの」


 セレナからの話をまとめると、昨日の朝にアリアが出掛けていった。その時に夕方までには帰ると言っていたそうだ。夜になっても帰ってこないので、近くを探したが、見つからなかったそうだ。


「ハンター協会の方には」

「言ってあるわ。でも、今は人が少ないのよ」

「そういや今日はロイスはいないんだな」

「隊長は今この街にいないわ」


 セレナは悔しそうに告げた。


「えっと・・・どこへ行ったんです?」

「聖都アナスシアよ」

「そりゃまた遠くに行ったな」


 聖都アナスシアは巫女戦争に勝利した巫女を崇拝している街だ。この街ルインからは船を使わないと辿り着けない場所にある。


「それではハンター協会ではアリアさんを探す人が少ないということですか」

「そうなの。私は他の仕事よりもアリアを優先しているけど、他はそうじゃないから、どうしても少ないの。だから、少しでも人が欲しくて頼みに来たのよ」

「アビーさん」


 リリィはアリアの捜索を手伝いたいと思った。アリアには助けてもらった恩もあるし、数少ないリリィの大切な友人だ。リリィは上目遣いでアビーを見上げる。


「そんな顔しなくても、俺も手伝う。あのちんちくりんには世話になったしな」

「ありがとうございます!」


 二人の返事を聞き、セレナは深くお辞儀をする。


「それで、こんな時間に来たということは、もう何ヵ所かは回ってきたんだろ?」

「はい・・・、私が思い付く限りの場所には行きました」


 時刻は夕方だ。こんなお願いをしてくるということは、思い付く場所には全て行ってきたということだ。


「どんな場所を探してきたんですか?」

「自宅以外に協会やよく行くお店、後は・・・」


 セレナは今日回った場所を次々と言っていく。


「遺跡とかは行かなかったのか?」


 聞いた場所は全てルインの街中だった。不思議に思い、アビーが質問する。


「はい、アリアはあまり1人で遺跡に行くことがないので」

「・・・・・あれ?」


 セレナの話を聞いていると、リリィの付けている指輪が仄かに光る。


「すみません、少し席を外します」


 リリィは台所に飲み物を取ってくる素振りで、その場から離れた。


「どうしたの?アーシー」


 リリィが話し掛けると、指輪から声が響く。


「私ならアリアの場所を特定できるが、どうする?」

「えっと、この前のセレナさんの魔力みたいに?でも、アリアさんの魔力はわかるの?」


 以前、セレナの魔力を追った時は、セレナの身体から感じた魔力を元に辿ったのだ。今回はその辿るための魔力が無い。


「他の者ならば無理だが、アリアの居場所なら私は検討が付いている」

「え?どういう事?」

「それは言えない。だが、恐らくは私が知る場所だ。そこになら案内出来る」

「・・・・・・・」


(案内してくれるとして、どうやって皆を連れていこうかな・・・。ううん、教えるしかないよね)


 リリィは二人にアーシーの事を教えるか迷ってしまう。だが、アリアの命が関わっているのだから、こんなことで迷う余裕は無い。リリィはそう考え、二人の場所へ戻ろうと歩き始める。


「アーシー、お願いします」

「任された」


 移動しながらリリィはお願いすると、アーシーもリリィの考えを察して、答えてくれる。


「セレナさん」

「リリィちゃん、どこか思い付いた?」


 アビーとセレナはどこにアリアが行ったかを話し合っていたようだ。


「アリアさんの居場所へ案内します」

「「・・・・・え?」」


 リリィの言葉にアビーとセレナは唖然としてしまう。


「リリィ、居場所がわかるのか?」

「うん、っていうか、これから案内してくれる」

「どういう事だ?」

「じゃあお願い。アーシー」

「では、着いてくるがよい」

「「っ!?」」


 リリィの指輪から聞こえた声に驚く二人。リリィは詳しい説明はしないで、アーシーに引っ張られるように、店を出ていく。


「それでは行きましょうか」


 リリィは二人にそう催促して歩きだす。二人もよくわからないが、リリィに付いていくのだった。



 --------------------------



「なぁ、リリィ」

「はい」

「さっきの声は何なんだ?」


 アビーの質問は最ものことだ。


「あれは」

「リリィ、私が話す」


 リリィが説明しようとすると、アーシーの方から声が掛かった。


「アビー、それとセレナ。私は地の精霊アーシー。我が主、リリィと契約をした精霊だ」

「契約?」

「精霊?」


 この世界には精霊の存在は公になっていない。かつてあったとされる『光と闇の巫女戦争』の伝承に残っていたが、この伝承も時が経つに連れて曖昧になり、今では『巫女戦争』としか伝わっていない。


 内容としては、光や闇については省かれ、一人の巫女が力を誤って使い世界を揺るがす存在となった。それを別の一人の巫女が精霊と共に討伐し、世界を救ったとされている。


「えっと、姿の無い私の友達って考えてくれれば」

「「それはどうなんだ(どうなの)?」」


 リリィの考えに納得できない二人だった。


「我が主を害する存在は許さないが、そなたら・・・特にアビーには私も常に感謝をしている」

「お、おう」

「いつも命を掛けて主を守っていただき感謝を」


 アーシーはずっとアビーにお礼を言いたかったらしく、満足していた。


「それよりアーシー、街を出たけどいいの?」

「アリアの居場所はこっちで合っているはずだ。かつての彼女ならばな」

「かつて?」


 リリィはアーシーの言い回しが気になった。


 だが、そうこう言っている内に目的の場所に到着したようだ。


「この遺跡は・・・」

「ここはともしびの遺跡ですね」


 セレナは遺跡を知っているようだ。


「ほう、燈の遺跡と云われているのか」


 少し意外そうにアーシーは呟いた。


「この遺跡は火の魔石が多く取れた遺跡で、今も壁や天井等至る処に魔石があります。それで、この遺跡はランタンが無くても、中は明るいことで有名ですね」

「そんな遺跡があるんですね」

「俺は昔一回来たことあるな。そんな名前だったのか」


 セレナの説明にそれぞれの感想を言う。

 そして、遺跡の入口から中に入る。セレナが言っていたように中は十分な明るさがあった。


「やはりこの遺跡にいるようだ」

「そうなんですか!?」


 アーシーが確信をもって言うと、セレナはリリィの手を取り、指輪に向かって叫んだ。


「あ、あの・・・セレナさん」

「あ、ごめんなさい」


 いきなり手を握られたリリィは戸惑っていた。セレナもそれに気付き、手を離した。


「厄介な気配も感じる。今後は私はあまり表に出ないようにする」

「え?道案内は・・・」

「このまま進めばある扉がある」

「それって、封印されている扉ですか?」


 セレナは思い出したように言う。


「セレナさん、知っているのですか?」

「ええ、扉っていうとこの遺跡にはそれしか無いから」

「それならばそこだ。後は頼んだ」


 アーシーはそのまま話さなくなった。


「セレナさん、案内お願いします」

「ええ、分かったわ。・・・・・アリア、待っててね」


 セレナはアーシーに教えてもらった扉までの道を思い出しながら、進んでいく。

 リリィとアビーはセレナに続いて、周りを警戒しながら進むのだった。



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「うぅ・・・・・ここは・・・・。そうだ・・・・私は」


 アリアが目を覚ますと壁に枷で縫い付けられていた。


「目を覚ましましたか?」


 目の前にはユルバンと名乗った男が気味の悪い笑みを浮かべて立っていた。


「こいつ!!」

「無駄です。貴方はもう力がないはずです。現にもうその姿を保つのも時間の問題でしょう」

「っ!?」


 アリアは力を入れようとするが、上手く入れられない。炎も上手く手足に宿せない。


(あ・・・もう服すら具現が出来ていないんだ)


 そこで自分が裸の状態だと気付く。これでは攻撃はおろか、今の状態を保つのも時間の問題だ。


(あれがあれば・・・)


 アリアはあれを探して見渡す。だが、いつも置いてあった場所にあれが無かった。


「貴方が探しているのはこれでしょう?」


 そう言いながらユルバンは赤い小さな宝石をアリアに見せる。


「返せ」


 視線だけで人を殺すような威圧でアリアは言う。


「それは無理な相談です。これがあの封印を解く鍵となるのですから」

「封印?・・・なんのこと?」


 アリアは封印と言われてもよく分からなかった。


「何を言ってるのです?これは貴方その物。そして、地狼が守っていた封印と同じ、火鳥が守る封印の鍵じゃないですか」

「・・・・・ふふ」


 アリアはその言い分に対して笑いが込み上げてきた。


「何勘違いしてるの?それはその封印とは関係ない。まぁ、封印はされていたけど、もう意味を成していないからね」

「・・・・・・どう意味だ?」


 アリアの言葉でユルバンの口調が変わる。

 そして、気配も先程とは比べ物にならないくらい凶悪な物になった。


「そんなの教えるわけがないでしょ」

「貴様・・・死にたいのか」

「ぐっ!」


 ユルバンはアリアの首に手を回し、締め上げてきた。


「あっ・・・・ぅ・・・」

「このまま死ぬか、闇に呑まれて消滅するか選ばせてやろう」


 ユルバンの手から闇が零れ始める。


「あぁぁあああ!!!」


 闇が触れている場所に激痛が走り始める。


(やば・・・・もう・・・・意識が・・・・・)


 アリアは意識が朦朧とし始める。


「アリア!!」

「なに!?」


 突然大好きな声がその場に響いた。


(せ・・・・れ姉・・・・)


 アリアはそのまま崩れ落ちた。



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「アリア!!」


 セレナは封印されていたはずの扉が開いているのを見つけると、迷わずに飛び込んだ。

 そして、締め上げられているアリアを見つけて、締め上げている男を迷わずに細剣に宿らせていたアクアショットを解放して男、ユルバンを吹き飛ばしたのだ。


「この子娘が!!」


 ユルバンは闇を手から放ち、セレナに向けて放った。


「ファイアボール!!」


 それを後から来たリリィが迎撃する。リリィは移動している最中に唱えていた『カルテット・エレメンツリング』の赤のリングを使ったのだ。


「アリア!」


 その間にセレナはぐったりとしているアリアに駆け寄り、枷を外そうとする。


「外れ・・・ない!」

「貸せ!」


 セレナが苦戦している所にアビーが来て、剣で枷を両断してしまう。


「アリア!」


 そして、セレナは自分の腕の中にアリアを抱きかかえた。だが、人間の大きさにしては、やけに軽く感じて顔が青褪めていく。


「アリア!アリア!」

「くっくっく・・・無駄ですよ。そいつは既に力をほぼ使い切っている。消えゆくのも時間の問題ですよ」


 ユルバンが狡猾に笑いながら言ってきた。


「・・・・許さない」


 セレナはアリアを地面にそっと寝かせて立ち上がった。


「許さない!!」


 次の瞬間、セレナから大量の魔力が溢れ出してくるのだった。

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