少女、女3人寄れば・・・
あの事件から数日が経ち、また日常が戻りつつあった。
今回の事件はあまり表沙汰になっていなかったので、街では騒ぎにならなかった。
騒ぎになったのは空を穿つように放たれた五条の光。それは一瞬のはずだったが、目撃者は以外と多かった。
だが、離れた場所からしか目撃者がいなかったのが幸いし、数日が経った今ではほとんど話しを聞かなくなっていた。
「ありがとうございました」
リリィが買い物してくれたハンターを見送る。
「それにしても最近は変なことに巻き込まれがちだな」
お客が出て行ったのを確認して、アビーが話しかけてきた。
「そうだね。最近はあまり採取にもいけていないような気がするし」
「まぁ、それどころじゃなかったからな」
二人が話していると、店の扉が開いた。
「こんにちわ」
「・・・・・こんにちわ」
店に来たのはセレナとアリアだった。
「あ、アリアさん。先日はありがとうございました」
「あ・・・うん、どういたしまして」
リリィは先日の戦闘後に助けてくれたアリアを一時探したが、どうにも時間が合わなくて、お礼を言っていなかったのだ。
「ん?アリアさん、どうしたんですか?」
「えっと・・・ううん、なんでもない。元気で何よりだよ。リリィちゃん」
アリアは最初、リリィを窺うような感じで見ていたが、リリィの言葉を聞き、いつもの調子に戻った。
「リリィちゃんってこの後、時間ありますか?」
「えーと・・・いいですか?」
「別に出かけるんならいいぞ。店は適当にやってるから」
「大丈夫そうです」
リリィはアビーにお伺いを立て、すぐに出かける了承を得た。
「よかった。それなら3人で遊びに行きましょ?」
「今日はセレ姉と休日が合ったから出掛けることにしてたんだ」
「だからリリィちゃんもってことで誘いに来たのよ」
二人はリリィを囲うようにして話しかけてくる。
「わぁ、ありがとうございます!」
リリィは遊びに行くと聞いて、満面の笑顔になる。リリィは友人らしい友人はいない。なので、こうやって遊びに誘われることはなかったのだ。
「じゃあ、アビーさん。いってきますね」
「あいよー」
アビーの適当な返事を聞きながら、リリィはセレナ達とルインの街中へと出掛けて行った。
「セレナさん、アリアさん、今日はどこに行くんですか?」
「えっと、リリィちゃんは何処か行きたいところある?」
「私達は結構街に遊びに来たりするからどこでもいいよ」
セレナとアリアは休みが合えば、仲が良い姉妹のように一緒に出掛けている。街もだいたいは歩いたことがあったのだ。
「えっと・・・」
「何かある?」
「その・・・あまり街で遊ばないのでわからないです」
「あらら」
「それじゃあさ、美味しい甘い物でも食べに行こうよ」
リリィが沈みそうになり、アリアは直ぐに提案を出した。
「そうね。そこでお茶しながら今後の予定を決めるってことにしましょうか」
「甘い物って食べていいのですか?」
「「え?」」
リリィの質問に2人は固まってしまう。
「えっと・・・リリィちゃんはケーキとか食べたことは?」
「えっと・・・ケーキは知っていますけど、食べたことはないです。高いですし」
「「・・・・・・」」
リリィの主婦みたいな一言に言葉が出なくなる2人。
「じゃあ、せっかくだからこの機会に食べようよ」
「そうね。美味しいケーキが食べれる場所知ってるから行きましょうか」
「はい!」
リリィは初めて食べるケーキに想像を膨らませながら、3人でおしゃべりしながら歩いて行った。
「ここよ」
「ここが・・・」
セレナに連れられてこっられたのは少し洒落た喫茶店だった。大きくはないが、内装も綺麗で何種類かのケーキがガラス張りのケースの様な場所に並べられていた。周りには青と緑の魔石が置かれている。恐らく魔石の効果で微風と冷気で冷やしているのだろう。
「私がおごってあげるから好きなの頼んでいいわよ」
「やったー!!」
「いんですか?」
喜ぶアリアと対照的に、遠慮がちのリリィはセレナに問いかける。
「いいのよ。好きなの選んでね」
「は、はい!」
リリィはセレナの返事を聞いて、顔を輝かせた。セレナもそんなリリィを見て胸が暖かくなる。
「えっとえっと・・・」
「私はこれ!」
迷うリリィの隣でアリアが叫んだ。アリアが選んだのはチョコが使われたケーキだ。
「それじゃあ・・・私はこれにします」
リリィはフルーツが使われたケーキを選ぶ。
「それなら私はこれにしようかしら」
セレナは紅茶のケーキだ。
3人はそれぞれのケーキに合う紅茶を頼み席に着き、お待ちかねのケーキを食べることにする。リリィは形が崩れないようにフォークで上手く切り取り、口に小さく切り取ったケーキを運んだ。
「ん~~~~~!!!」
「どう?リリィちゃん」
「初めてのケーキの感想は」
セレナとアリアはリリィの最初の一口をどんなふうに食べるか見ていた。リリィは口に入れた瞬間のクリームの甘さとフルーツの酸味や香りが口の中で弾けて、瞬間で笑顔になる。
「おいっしいです!!ケーキってこんなにおいしいんですね!」
リリィは興奮気味でケーキの感想を言う。あまりに良い笑顔で大きな声で叫んだので、周りの他のお客さんからの注目を集めてしまう。
「あらあら」
「あんな笑顔で食べる子がいるなんて」
周りからはリリィの反応を見て、微笑ましいと思ってくれているようだ。
「あぅ・・・ごめんなさい」
リリィは顔を赤くして騒いだことに対して謝罪をする。
「いいのよ」
「ええ、ここのケーキは美味しいからね」
その後も、一口を食べるとそのたびに笑顔が炸裂するリリィを見て、セレナ、アリアだけでなく、周りの皆も笑顔になってしまう。
「リリィちゃん、これも食べてみる?」
「いいんですか!」
「私のもあげるよ」
リリィの笑顔を見て、セレナとアリアは自分のケーキを少し分けてあげることにする。
分けてもらったケーキを食べると、リリィは再び満面の笑顔になるのだった。
ケーキを食べ終わり、会計をして出て行こうとすると
「リリィちゃん、また来てね」
「はい!絶対また来ます!」
どうやら店員さんに気に入られてしまった様で、サービスをするからとまで言われて見送られてしまった。
「ふふ、やっぱりリリィちゃんは可愛いものね」
「でも、あんなに騒いでいたのに、誰も文句を言わないのは凄いと思うよ」
リリィが食べる度に少し騒いでしまっていた。それなのに、周りからは怒られることなく、可愛いと称賛をされ続けられ、他の客のケーキまで分けてもらっていた。
「ケーキってあんなに美味しい物だったんですね」
ケーキをいっぱい食べられて、幸せそうな顔で歩くリリィだった。
「ねぇ、あれリリィちゃんに似合いそうじゃない?」
「そうでしょうか?私には少し派手なような」
「そんなことないと思うわよ」
その後は市場に行った。そこは街以外から集められた品物を売っていたりする。リリィも利用したことはあるが、今みたいにおしゃべりをしながら、わいわいと品物を見て話すなんてことは初体験だ。
「お、リリィちゃん」
「あ、ご無沙汰してます」
1人の大柄なハンターの男が話し掛けてきた。
「リリィちゃんの知り合い?」
「はい、ウチの店の常連さんです」
この男ハンターはよく買い物に来てくれるので、顔見知りなのだ。
「しかし珍しいな。リリィちゃんがこうやって遊んでいるなんて」
「はい!私も初体験です!」
『っ!?』
その男ハンターは話から普通に驚いていたが、周りの男性からは別の意味で捉えられて、注目を浴びてしまう。
「あんな男に・・・」
「許せん」
耳を済ますと男ハンターに殺意が集まってきているのがわかる。
「あ、あははは・・・」
「リリィちゃん、その言い方はちょっと」
「え?」
状況を見ていたセレナとアリアは乾いた笑いをしていた。リリィはよく理解していないようだ。
「なんつーか、居づらいから俺は行くわ」
「あ、はい!またウチにいらしてくださいね」
『っ!?』
リリィが笑顔で言うと、またもやリリィの発言に周りは反応する。
「お、おう・・・」
男ハンターはそう返事をして、人混みに飲まれていった。
「・・・あの人、帰れるかな」
「大丈夫・・・だとは思うけど」
セレナとアリアの二人は男ハンターのこの後の安否が気になるのだった。
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「リリィちゃん、この先にある公園に行ってみない?」
「公園ですか?」
「ええ、特に何があるというわけではないけど、緑があるから休憩にはいいわよ」
街は遺跡を補強や修復をして造られているため、石造りの建物や道が多い。
街に緑がある場所を作るため、広場を造り、植物を植えて公園にしたのだ。この公園はこの街唯一の公園なので、結構人が集まってくる。
公園の脇には出店等もあるので、休憩するのにはもってこいの場所なのだ。
「行ってみたいです」
「やっぱりリリィちゃんは行ったことないの?」
「はい、多分私は公園に行くなら、街の外に採取に行っていると思いますし」
リリィは屈託のない笑顔で言うが、それはそれで悲しい理由だった。
「アビー殿もここぐらい連れてきてあげればいいのに」
「だね。外より安全だし」
「でも、ここでは遺物とか取れないですよね?店の前の川を下って行くと、綺麗な小さい湖もありますし、そっちの方がお得な気がします」
「「・・・・・・・・」」
リリィの言うことは最もなのだが、子供のリリィが言う言葉ではないと、二人は心の中で思った。
「リリィちゃんって何歳からあそこで働いているの?」
「えっと・・・本格的に働き始めたのは10歳ぐらいだと思います。それまでは品出しとか簡単なお手伝いをしていました」
「え?そんな小さな時から手伝ってたの?」
「はい、私は拾われっ子ですから」
「「っ!?」」
セレナとアリアはリリィが孤児だとは知らなかったのだ。住み込みで働いているからそんな予感はしていたが、実際に本人の口から聞くと衝撃が走った。
「そ、そうよね。じゃあ、アビー殿はリリィちゃんの家族みたいなものなのね」
「そうですね。アビーさんに拾われなかったら、今ここに私はいないでしょうし」
「私とセレ姉みたいな関係なんだね」
「そうなんですか?」
「うん、私もセレ姉と暮らしているし、私も拾われっ子だから」
「え?セレナさんに拾ってもらったのです?」
「違うよ。私の場合はハンター協会に拾ってもらったの」
「そうだったんですね」
リリィもまさかの話に驚いていた。
「私も最初は人の生活に慣れなくて迷惑掛けていたけど、今はだいぶ恩返しは出来たかなって思ってるよ」
「私もアビーさんには迷惑掛けてましたね。今も掛けるときもありますけど」
リリィはアリアと近い境遇だと知り、親近感が沸いた。
(・・・・人の生活?)
セレナはアリアが言った言葉に少し違和感を覚えていた。
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「今日はありがとうございました」
リリィはアメリースまで送ってもらい、お礼を言った。ケーキや飲み物等を奢ってもらったりして、色々な初体験をさせてもらったリリィは満足していた。
「私達も楽しかったですよ」
「また皆で遊びに行こうね」
セレナとアリアはリリィを送って笑顔で別れ、帰路に着いた。
「今日はリリィちゃん誘って正解だったね」
「ええ、そうね。リリィちゃんは相変わらず可愛かったし」
セレナは今日のリリィを思い出して、自然と笑顔になる。
「でもリリィちゃんと過ごしてると、リリィちゃんの凄さっていうか、皆が笑顔にする力がよくわかるね」
「そうね。喫茶店でも周りの人達を笑顔にしていたし」
「だよね。だから・・・認めたのかな」
「今なんて言ったの?」
セレナはアリアの最後の言葉を聞き取れなかったので聞いてみる。
「ううん、何でもない。それよりセレ姉、今日の夕飯はなに?」
「そうね・・・家にある物で考えるわ」
セレナは家にある食材を思い出しながら、アリアと歩いていった。
先程の言葉は聞き取れなかったが、いつもの義妹のアリアらしくない雰囲気を気にしながら。
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