少女、巻き込まれる

 ルインのハンター協会の第1部隊隊長であるロイスに模擬戦とはいえ、魔法戦で勝ったリリィ。それは噂となりハンター協会内で知れ渡っていた。


「隊長!あの隊長に勝った女の子はどこの誰なんです!」


 ハンター協会の第1部隊に所属している22歳の女性アリアは赤い髪をポニーテールに結んでいる。その髪を揺らしながら第1部隊に与えられている部屋でロイスに問い詰めていた。


「アリア、あの子はハンターではない。ハンター規定の15歳にも入っていない女の子だぞ」

「ですが!あの魔法の技量は私達、第1部隊と同様、いえ!今から育てれば更に上に行くはずです!」


 アリアはリリィをそのように評価していた。実際に目で見ていたのでそれは間違いないと考えていた。


「だからといってこっちの都合であの子を巻き込むわけにはいかない」

「でも!」

「アリア、この話は終わりだ。これ以上あの子のことは口にしないように」


 ロイスはそう言い捨てて部屋を出て行った。


「もう!隊長は頑固なんだから!!」

「少しは落ち着いたら?」

「でもセレ姉!」


 23歳の女性セレナはアリアと同じ第1部隊に所属している。長い青い髪の彼女は落ち着いた性格をしている。


「隊長がいきなり模擬戦をしたことにも驚きましたけれど、あそこまで口を堅く否定するということは何かがあるのでしょう」

「そうだろうけどさ!」

「だから落ち着きなさいって。今はまだ様子を見ましょう。もしかしたら何か心変わりを起こすかもしれませんしね」

「・・・わかった」


 アリアはセレナの説得で静かになった。しかし、心の中ではまだリリィのことを諦められずにいた。



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「今日も平和ですね」

「そーだな」


 リリィは今、骨董品屋アメリースでいつものように店番をしていた。


「そういえばアビーさんとロイスさんって性格とかぜんぜん違いますけど、仲が良いですよね」

「ん?まぁ、あいつとはガキの頃から一緒だったからな」

「そうなんですか?」

「ああ、あいつ、今じゃ剣も魔法も強いが、昔は弱虫だったんだぜ?」

「そうなんですか!?」


 昨日戦ったロイスからは全く想像が出来ないリリィであった。


「あの頃は俺の方が強かったんだが、いつだったかな。あいつの父親が魔物に殺されたんだよ」

「・・・え?」

「それからだ。奴は母親を守ろうと必死こいて強くなろうとした。魔法の才は昔からあったが剣に限っては弱くてな。俺があいつに最初に剣を教えたんだ」

「それで・・・その」


 リリィはロイスの父親が殺されたという事実に驚いて声が出なかった。


「ん?あ、わりぃな。ちと暗い話で」

「そうだな。人の過去を勝手に話されるのは困る」


 そんな声と共に店の扉が開きロイスが入ってきた。


「ん?ロイス、また来たのか」

「ああ、ちょっとリリィに警告をしておこうと思ってな」

「け、警告ですか?」


 警告と聞きリリィは身構えてしまう。


「そんなに身構えなくていい。昨日の模擬戦を見ていた僕の部下なんだが、君を取り入れようと話を持ちかけられてね」

「と、取り入れるって?」

「僕達の第1部隊にだよ」

「わわわわわちゃしがでうか!?」


 リリィは驚きのあまりに呂律が回っていなかった。


「まぁ、そんな反応になるだろうね。これでも僕は模擬戦と言え、負けたことがないんだ。それを君のような女の子が僕に勝った。それだけで彼女の心を掴むのには十分過ぎたようだ」

「か、彼女って」

「昨日リリィが気にしていた女性が二人いたろ?その赤い髪の方がアリアっていうんだが、彼女が君を取り入れるべきだって昨日のあの後から煩いんだ」

「ああ、あの少し気の強そうな小柄の女か」


 アビーも同じ観客席にいたので思い出したようだ。


「で、でも私はまだ14歳で・・・ハンターでもないですし」

「僕からはそう言って彼女を止めてあるよ」


 ロイスは肩をすくめて言ってきた。


「だが、何かちょっかいを出してくるかもしれない。その時はこの男に言ってハンター協会に伝えてもらえるかな」

「この男って・・・俺か!?」


 アビーが驚愕の声を上げる。


「お前以外にリリィの傍にいる男が何処にいる」

「俺はもうハンター協会には行かねーぞ」

「ま、こんなことを言っているが何かあった時は頼りになるはずだから」

「は、はあ」

「勝手に話を進めんな!」


 アビーは声を荒げるが否定はしないのだった。


「それだけだ。僕は失礼するよ」

「は、はい。わざわざありがとうございました」

「いいんだよ。こちらの不手際でもあるんだから」


 そう言ってロイスは店を出て行った。


「ま、ロイスがわざわざ言いに来たんだ。リリィ、気を付けろよ」

「はい!」


 アビーの忠告にリリィは力強く頷くのだった。



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「ありがとうございました」


 リリィはこの日は午後も店番をしていた。本当は少し探索して品物を揃えたいのだが、ロイスに警告されたばっかりだ。今日だけでも用心することに越したことはない。そして店番をしているにあたって用心しなければならないことがある。それは


「アビーさん、何やっているのですか?」

「っち」


 アビーは店番をするリリィの後ろからスカートの中を覗こうとしていたのだ。


「なんで後ろ見てないのにわかる」

「そんな風に忍び寄られたら気付きますよ!」


 アビーは匍匐前進ほふくぜんしんで引きずる音を出しながら忍び寄っていたのだ。


 リリィはアビーから身を守るために警戒をしている。油断しない限り、その警戒は破れない自信があった。


「今日はやけにガードが堅いじゃないか」

「アビーさんが近くにいる時は常にガードしていないと、何されるか分かりませんから」


 リリィは当たり前のように言う。


「しかし、なんで黒いパンツなんて穿いてんだ?似合わねぇぞ」

「黒じゃありません!今日は水色です!!・・・・あ」

「そうか、水色なのか」

「~~~っ!!アビーさん!!」

「ははは!やっぱりまだまだ甘いな!リリィ!」

「もう!アビーさん!!」


 狭い店内で二人の追いかけっこが始まった。



「お?取り込み中か?」


 そこへお客がやって来た。リリィが初めて見るお客だ。全身を黒いコートで覆っていた。


「す、すみません。お恥ずかしい姿をお見せしてしまって」

「いや、大丈夫だよ。ちょっと見させてらうね」

「は、はい!」


 お客はハンターなのだろう。リリィの位置からは、コートの隙間から腰に漆黒の花の装飾がされた剣をぶら下げているのが見えた。


「ここは珍しい物を売ってるね。これなんかも売ってくれるのかい?」


 ハンターと思われる男が手にしたのは古ぼけた鍵だ。


「は、はい。大丈夫ですけど。それ、どこで使うか分からないんですよ」

「ふむ、ならこれを貰おうか」

「は、はい!お値段は・・・」


 リリィはその鍵の値段を言う。


「はい」

「確かに、ありがとうございました」


 リリィは代金を受け取り、その男は出て行った。


「・・・・・・なんかきなくせぇな」

「え?」

「いや、なんでもねぇ」


 アビーが何を言ったのかリリィには分からなかった。


「ほい!」

「あっ!」


 リリィが油断した隙にアビーはリリィのスカートを捲っていた。


「ほう、これが」

「もう!アビーさん!!」


 リリィは慌ててスカートを戻し、アビーを追いかけるのだった。



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 ここはルインの街の一角にある建物の一つ。


「遅かったな」

「すみません、遅れやした」


 黒いコートの男は同じ様な恰好をした男に謝った。


「で、遅れたからには何か収穫はあったのか?」

「一応これを」

「・・・鍵か」

「へい、何かこの模様を見たことがある気がして」

「模様?」


 男はじっと鍵を見つめる。


「これは・・・何かの紋章みたいだな」

「やっぱりそうっすか」

「ああ、恐らく何かの遺跡に関連しているはずだ」

「ではそれを探しに?」

「もちろんだ。準備してすぐに向かうぞ」

「へい!」


 黒いコートを羽織った二人組の男はその場を立ち去って行った。


 男二人の腰には漆黒の花の装飾が施された剣をぶら下げていた。



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 数日が経ち、流石に品薄になってきたのでリリィは探索に出かけることにした。


「アビーさん、今日はちゃんと店番してくださいね」

「あいよー」


 アビーのやる気の無い返事が返ってくる。


「もう、本当にやってくださいよ」

「わかってるって」


 リリィは多少の不安を残しながら探索に出掛けていった。



「えっと、今日は向こうに行ってみようかな」


 リリィはいつも気分で行き先を決めている。遺跡の街ルインは街の外にも遺跡の中への入口が多数顔を覗かせているが、それだけではなく雨や風で朽ち果てている遺跡も地上にあるのだ。


 このように地上にある遺跡でも遺跡の魔力は残っており、魔物や遺物が眠っている可能性があるのだ。


 暫く歩いていると何かの大きな建物跡のような遺跡に辿り着いた。


 リリィはその遺跡に足を踏み入れた。


「なにかあるといいんだけど・・・」


 リリィは落ちている石ころや石床の隙間から生えている草まで物色していく。


「あ、これ鉱石だ」


 リリィは一つの少し青く見える黒い石を手に取る。


「うん、少しだけど魔力を宿してる」


 青ということは水の魔力が宿した鉱石の可能性が高い。


「これがあるということは水場でも近くにあるのかな」


 こういった鉱石に魔力が宿るにはその属性である何かが近くにある可能性が高いのだ。


「でも川からは離れているし、池みたいのもないよね」


 リリィはその鉱石をゲートリングで送り、再び探索を開始する。


「・・・・だ。・・・・・・」

「わか・・・。さ・・・みます」


 リリィが歩いていると、どこからか人の話し声が聞こえてきた。


(男の人と女の人の声?)


 リリィは気になり声のする方へと歩いて行った。



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「この入口らしき中は遺跡の内部で間違いないです」


「わかりました。では一応第3部隊の方に伝えましょう。念のため入口周辺に危険な魔物等がいないかの調査も行います」

「了解しました」


 リリィが遺跡の壁から覗いてみると男の人が色々調べて、青い髪の女の人は紙に何かを書き留めていた。


「ん?あら?貴方は」


 青い髪の女の人がリリィの存在に気が付いた。


「こら、女の子がこんな遺跡に一人できちゃ・・・」


 女の人はリリィに近付きながら注意をしていたが途中で言葉が止まってしまう。


「もしかして貴方、この前隊長に勝った子?」

「へ?えっと・・・」


 リリィは近くで見てこの女性のことを思い出した。彼女はロイスと模擬戦をやった時に観客席にいた女性の内の一人だ。ロイスから注意された手前、明かしていい物なのか迷っていた。


「うん、そうよね。そのシルバーブロンドの綺麗な髪、間違いないわ」


 女性はリリィが何も言っていないのに一人で納得し始めた。


「あの、その」

「ああ、ごめんなさい。私はセレナ、ハンター協会第1部隊の副隊長よ」


 リリィが戸惑っていると女性は微笑しながら自己紹介をしてきた。


「は、はい!私はリリィといいます」

「リリィちゃんね。よろしくね」

「は、はい。よろしくお願いします」


 流石に挨拶されたら返さないとまずいのでリリィは挨拶をした。


「で?あの時隊長に勝ったのってリリィちゃんよね?」

「えっと・・・その、はい」


 セレナはリリィの両手を握って顔を覗き込んできた。流石にここまで詰め寄られてはリリィも嘘は付けなかった。


「やっぱり!あの戦いは本当にすごかったわ。今でも思い出せますもの」

「あ、ありがとうございます」


 セレナは少し興奮気味だ。


「それに、リリィちゃんってこんなに可愛いなんて!」

「わぷっ!」


 セレナはいきなりリリィを抱きしめてきた。リリィは豊満なセレナの胸に顔を埋めてしまう。


「く、くるし」

「ああ、ごめんなさい。つい」


 リリィは何とかセレナの抱擁から解放された。


「リリィちゃん、ごめんなさいね。私、可愛い物を見るとつい抱きしめたくなっちゃうのよ」

「あははは・・・・」


 リリィはなんて返したらいいのか分からなかったので笑って誤魔化した。


「そういえば何をしていらしたんですか?入口がどうとか聞こえましたけど」

「あら?いけない子ね。機密内容を聞いてしまうなんて」

「あ、ごめんなさい」

「ふふ、いいわ。一応聞いてしまったら説明してあげる。説明しておかないと危ないしね」


 セレナは微笑してリリィの頭を撫でた。


「はぁ、可愛い・・・。っと説明するわね」


 セレナはリリィの頭を撫でて意識が飛びそうになるが何とか持ちこたえた。


「そこの地面に穴があるでしょ?」

「はい」

「あの穴の中はこの下にある遺跡に通じているの」

「え?ではあれも遺跡の入口ですか?」

「そうなるわね。で、私達第1部隊は大型やそれ以上の危険な魔物担当なんだけど、新しい遺跡が見つかった場合、最初に潜ることがあるのよ」

「えっと、新しい遺跡の調査って確か第3部隊じゃ・・・」


 リリィは記憶を頼りに質問をした。


「よく知っているわね。そうよ、その通り。だけど新しい遺跡の入口に守護者ガーディアンと呼ばれる遺跡を守護する存在がいることがあるの」

守護者ガーディアン・・・ですか」

「そう。その守護者ガーディアンっていうのが厄介者で、最低でも大型の魔物と同等クラスの強さなのよ」

「え!?そんなに強いんですか!?」

「ええ、だから私達第1部隊が最初に入ってその守護者ガーディアンがいないかを調べるのよ」


 セレナが説明してくれたことはリリィも知らなかったことだった。


「副隊長!遺跡の内部に守護者ガーディアンらしき影が確認できます。どうしましょうか?」


 そこへ先程の隊員らしき男が報告にやってきた。


「あらあら、じゃあリリィちゃん。私は仕事がっ!」

「わわっ!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 突然、地面が揺れ出した。


「こ、これは!」


 セレナが状況を確認しようとする。


「副隊長!遺跡内部から攻撃がきます!」

「何ですって!?リリィちゃん!」

「わぷっ!」


 セレナはリリィを抱き寄せて担ぎ上げる。


「退避!」


 セレナの言葉とともに隊員の男も走り出す。


 ズガァアン!!


 そして、先程いた地面から何かが飛び出してきた。


「あらあら、結構な大物がいたのね」


 セレナはリリィを下ろしながら武器である細剣を構えた。柄の部分に水の魔石で出来た青い花の結晶が取り付けられている。


 そして、セレナは細剣の切っ先を遺跡から出てきた守護者ガーディアンに向けた。


 守護者ガーディアンは3m程の鎧騎士のような恰好をしている。両手で大剣を持っており、兜の目の穴から一つの赤い光が覗いていた。


「お嬢ちゃんは危ないからこっちへ」

「わわ」


 男の隊員はリリィをセレナから引き剥がした。


「行くわよ!」


 セレナは細剣を振り上げる。すると水の柱がセレナの横に出現する。


「あれって・・・」


「あれは副隊長が所有するオーパーツの細剣です。あれは水属性の魔法を溜めておくことが出来ます」


 どうやら詠唱する暇がないときに使う道具のようだ。


「スプラッシュ!!」


 セレナは二つの水の柱を蛇のように動かし、守護者ガーディアンに向けて放った。


 スプラッシュは水属性の中位魔法の一つだ。水の柱を1~2本出して水圧で敵を押しつぶす魔法だ。


 守護者ガーディアンは持っていた大剣でスプラッシュを切った。水飛沫が舞い守護者ガーディアンを濡らす。


「風よ・水よ・連なれ・仇名す者・打ち砕く・雷槌を下せ・トールハンマー!!」


 ズゴオォォン!!!


 セレナが魔法を唱えると守護者ガーディアンの頭上に魔法陣が生まれ、轟音と共に雷が落ちた。


 風と水属性の複合魔法、対象に雷を落とす魔法だ。


 ガガガガ!ガガガガガ!!


 守護者ガーディアンは水に濡れていたので全身に雷は行き渡ってしまい、変な音を出し始める。


「・・・・・・」


 セレナは警戒をして守護者ガーディアンの様子を見ていた。


「・・・・・・」


 リリィもその様子を見ていた。これで終わったと思っていたのだが


「っ!避けて!!」

「っ!」


 セレナはリリィの警告を聞き、すぐにバックステップでその場から離れた。


 ズゴオォン!!


 その直後、セレナがいた場所に守護者ガーディアンの目から雷撃が飛んできたのだ。


「私の魔力?まさか魔法を吸収した?」


 セレナが怪訝に思っていると守護者ガーディアンは再び動き出し、大剣を構えて襲い掛かってきた。


「エンチャント・ウィンド」


 ズガン!!


 セレナは風属性の強化魔法を使った。これは己の速度を上げる魔法だ。セレナは間一髪で守護者ガーディアンの一撃を避けた。大剣が振り下ろされた場所は穴が空き、下にある遺跡まで通じてしまっていた。



「セレナさん、援護します!猛き炎!清き水!母なる大地!天翔ける風!彼の者に祝福を!!エンチャントメント・カルテット!!」


 リリィはあのままでは危ないと思い、全ての強化魔法を同時に掛ける魔法を使う。


「っ!ありがとう!」


 セレナは一気に身体が軽くなるのを感じた。一瞬何が起きたか分からなかったが自分で掛けた強化魔法より効果が出ているのは間違いなかった。


 セレナは守護者ガーディアンの攻撃を躱し、詠唱を唱える。


「水よ・敵を・打ち抜け・アクアショット!」


 水の弾丸がセレナの手から放たれる。水の弾丸は目を狙い見事に命中する。その攻撃で守護者ガーディアンは一瞬動きを止める。セレナはチャンスと見て守護者ガーディアンに飛び掛かり、弱点と思われる赤い目を細剣で攻撃しようとした。


「ダメっ!!」


「っ!きゃっ!!」


 細剣で突こうとした時にリリィの声が聞こえ、守護者ガーディアンの目を見た瞬間、先程セレナが放ったアクアショットが赤い目から放たれてきたのだ。セレナはそれに直撃してしまい吹き飛ばされてしまう。


 ズサ!


「っく」


 セレナは立ち上がろうとするが、攻撃が当たった場所が悪く、立てずにいた。もし、リリィの強化魔法が無かったら大怪我をしていたかもしれない。そこへ守護者ガーディアンが大剣を構えて近付いて来た。そして、大剣がセレナに向かって振り下ろされる。


「っ!」


 セレナは目を瞑り、これで終わったと思った。しかし


「大地よ・敵を・貫け・ロックグレイブ!!」


 ガキン!!


「・・・え?」


 セレナが目を開けると、地面から生えた石の槍がセレナの前で交差して守護者ガーディアンの大剣を受け止めていた。


「セレナさん!私も戦います!」


 リリィは人の死なんて見たくなかった。自分に戦う力があるのに傍観しているなんて出来ない。怖くても力があるのなら戦おうと決めた。


(たぶんこの守護者ガーディアンは魔法を吸収して返してくる。でもそれなら)


「大地よ・仇名す者を・圧し潰す・岩壁となれ・クラッシュウォール!!」


 リリィは地属性の中位魔法を使う。3mはある岩の壁を創り、四方から守護者ガーディアンを圧し潰す。


「炎よ・大地よ・連なれ・仇名す者を・圧し潰せ・グラビティ!!」


 元々岩の壁で横から圧し潰されそうになっていた守護者ガーディアンの周辺に重力場が突如発生し、岩ごと下へと圧し潰され、鎧は軋みを上げている。それは守護者ガーディアンの悲鳴にも聞こえた。


 これは火と地属性の複合魔法。対象周辺に重力場を出現させ、範囲以内を重力で圧し潰す魔法だ。


「セレナさん、壊していいんですよね?」

「え、ええ。大丈夫だけど」


 セレナは目の前の光景が信じられずに呆然としていた。クラッシュウォールはともかく、グラビティはセレナは使うことができない魔法だ。以前の模擬戦でもリリィはアイスプリズンを使っていた。自分より10歳近く年下の女の子がこのような強力な魔法を使えることに驚きを隠せないでいた。


「わかりました。業火の炎・猛き水・荒れ狂う風・連なれ」

「っ!?」


(何なの!?この子!?三属性の魔法なんて聞いたことない!そう言えばさっきも)


 セレナはリリィの詠唱を聞いて更なる驚きを見せた。魔法は基本的に一つの属性で出来ている。そこから応用して複合魔法として対属性以外の属性を二つ掛け合わせる魔法が創られた。そして、3属性の掛け合わせも考えられたが、成功した例はない。結果、不可能と言われているのだ。理由としては3属性となるとどうしても対属性が入ってしまうからという理由だ。


「凍結せし者・業火に晒せ・全てを破壊しろ・コキュートス・カタストロフィ!!」


 その魔法をリリィが唱え終わると、守護者ガーディアンを一瞬にして氷で包んだ。よく見ると氷の中では炎が燃えており、徐々にその炎が大きくなっていく。そして


 ッダアアァァァァァァーーーン!!!!


 守護者ガーディアンもろとも氷は炎の爆発と共に砕け散った。


「「・・・・・・・・・」」


 その魔法を見ていたセレナと隊員の男は絶句していた。


「倒しました・・・よね」


 リリィは守護者ガーディアンと戦うのは初めてのことだ。先程の魔法を吸収する物といい初めて見るのだ。もしかしたら再生するのではないかと思ったが、それは考え過ぎのようだった。守護者ガーディアンの鎧はほとんどが砕けており、部分的に業火により解けている場所もある。そして、目であった赤い宝石にもひびが入っていた。


「・・・リリィちゃん」

「あ、ごめんなさい!今治癒を!」

「はい?」

「清き水よ・我が手に・癒しの光を・ヒーリング」


 リリィの手が青い優しい光に包まれる。その手でセレナが怪我をしている場所に手を当てた。すると傷はみるみる内に消えていき、綺麗な肌に戻っていた。


 これは水属性と思われる治癒魔法だ。骨折ぐらいまでなら治癒が出来る魔法だ。


「これで大丈夫です」


 リリィは額の汗を拭って言った。


「・・・痛くない」


 セレナは怪我をしていた腕を動かして確認した。


「い、今のは・・・」


 セレナと隊員の男もまだ放心状態だった。


「あの・・・」


 動かない二人を見てリリィは声を掛けた。


「あ、ありがとう、リリィちゃん。おかげで助かったわ」

「リリィ殿!ありがとうございました」


 二人はリリィにお礼を言った。


「いえ、あのそれより、あれ壊してしまいましたが大丈夫ですか?」


 リリィは守護者ガーディアンの残骸と共に壊された遺跡を見て言った。


「本当は大丈夫ではないですが、今回は異例の事態でしたからしょうがないです。リリィちゃんがいなければ私はあそこで死んでいたかもしれないのですから」


 セレナは今目の前で起きたことを現実と受け止めるのに時間がかかっていた。


「リリィちゃん、さっきの魔法は何なのでしょうか?」


 そこでセレナはリリィに聞いてみることにした。


「え?どの魔法ですか?」


「その、私に掛けた強化魔法もそうですが、3属性の魔法、治癒魔法のことです。私はハンターを15歳の時からやっています。魔法の才能も他の者より長けていたので20歳でハンター協会に入りました。その中で色々な資料を見てきましたが、三属性の魔法も治癒魔法も実験記録はあれど、成功例は無いはずです。それなのに」


 セレナは途中で言葉を切ってしまった。目の前のリリィが泣きそうな顔をしていたからだ。


「やっぱり怖いですよね。私は・・・」


 リリィは静かに泣き始めてしまう。


「いえ、怖くはないですよ。こんなに可愛いんですから」


 セレナはリリィを優しく抱きしめた。


「すみません、昔、この力の所為で色々とやって言われたものですから」


 リリィは涙を拭きながら言った。


「ではあの魔法は」

「はい、私が自分で創った魔法です。魔力が暴走しないように創り出した私のオリジナルです」


 リリィはリリィ自身の魔法について軽く説明をした。


「それは・・・いえ、あまり深入りするわけにもいきませんね」


 セレナはこれ以上リリィの心の傷に触れないことにした。


「セレナさん、ありがとうございます」


 リリィは聞いてこなかったことに感謝をした。


「いえ、今日は私達が本当に助けられたのですから、私の方がありがとうですよ」


 セレナはそう言って立ち上がった。


「では、私達は一度帰還します。行きますよ」

「は、はい!」


 セレナと隊員の男は歩き出した。


「そうだ、リリィちゃん」

「・・・なんでしょう?」


 セレナは少し歩いた所で振り返りリリィを呼んだ。リリィの目にはまだ少し涙が溜まっている。


「貴方の力は決して怖くない。その力は私を助けてくれた。私が今ここに生きていることがそれを証明しています。だから自信を持ってください」

「っ!はい!」


 リリィはアビー以外の人に話して、初めて認めてもらえたことが嬉しくて、悲しい涙ではなく、嬉し涙が溢れそうになった。


「もし貴方さえよかったら一度ハンター協会の私達の所へ訪れてください。これは強制ではないですから忘れてもらっても結構です」

「わかりました」

「では、一緒にルインに帰りましょうか。ルインまでは一緒ですから」


 セレナはリリィに手を差し伸ばした。


「はい!」


 リリィは返事をしてセレナの傍に走り出し手を握った。そして、3人でルインに帰っていくのだった。

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