少女、街の襲撃に遭う

 リリィが白昼夢らしいものを見た日から数日が経った。


 骨董品屋アメリースは特に問題も無く、平和な日が続いていた。そんなある日のこと


「いらっしゃいませ」


 いつものように来店したお客に対応するリリィ。そして、お客はまた魔石を購入して帰っていく。アメリースに訪れたハンターの話だと、最近はハンター協会の方で魔石の発掘が上手くいっていないとのことだった。だから、常時魔石はここで売っているのでこちらに買いに来るようになったそうだ。


「ふぅ・・・アビーさん」

「・・・なんだ」


 リリィは店内のお客がいなくなったので、椅子に座って寝ていたアビーに話しかけた。


「私はこのまま魔石を作って売っていてもいいのでしょうか?」

「・・・・・・あぁ、協会の方が気になるのか」

「はい」


 アビーは暫く考えて、リリィの懸念を言い当てた。


「まぁ、向こうとしては面白くはないと思うが、注意されているわけでもねぇから、いいんじゃねぇ?」

「そのことでお話があります」


 アビーが言い終わると扉からセレナが店の中へと入ってきた。


「あ!セレナさん!こんにちは」

「はい、リリィちゃん。こんにちは」


 真面目な顔で入ってきたセレナだったが、リリィに挨拶されて笑顔になった。


「で、セレナだっけか?何かあったのか?」


 ロイスからは報告や何かあった時はロイスかセレナを通すと言われていたので、何かがあったと考えたのだ。


「まぁ、何かあったと言えばあります」


 セレナは真面目な表情に戻し、説明に移る。


「お気付きかもしれませんが、私達ハンター協会の方で管理している魔石の発掘現場から魔石の発掘量が減少しているのです。なのに、一般のハンターは以前と変わらないぐらいの魔石を持っていたので聞いたところ」

「ここの店で買ってると」

「そういうことです。なので、出来たら貴方達が発掘している場所を」

「無理だな」


 セレナの言葉を遮ってアビーは言い放った。


「この店の利益を易々教えるわけねぇだろ」


 まぁ、実際はリリィが作っているのだが、今は騒ぎにしたくないので伏せておいた。


「はい、それは重々承知です。なので、私達ハンター協会の方で魔石を大量に買わせて頂けないかと。部隊の方でも魔石不足が続いており、少し厳しい状況なのです」


 どうやらハンター協会の管理している場所から魔石の発掘が難しくなり、探索等で使う魔石が足りなくなってきた。だからここで売っている魔石を大量に欲しいということらしい。


「今在庫の方はあるのでしょうか?」

「えっと、こちらも最近その影響で魔石はかなり品薄になって来ています」

「やはりそうですよね」


 ある程度予想はしていたようだ。


「で、でも、明日には何とかしますので!」


 リリィはハンター協会の人の手伝いが出来ると思い、気合いを入れて言った。


「でも、リリィちゃん。発掘するのは大変でしょ?」

「な、なんとかします!」


 セレナの言葉にリリィは真剣に答える。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


 二人は無言で見つめあった。


「わかりました。では、明日のこの時間にまた来ますので」


 セレナはリリィを信じることにした。


「わ、わかりました!」


 時間は昼過ぎ、今からなら休憩を挟みながら作れば、この前のように倒れることもないだろう。


「それなら今日は店じ・・」

「アビーさんは店番お願いしますね」

「・・・・・りょーかい」


 アビーは店を閉めて釣りでもしようとしたのだが、リリィに釘を差されてしまう。


 この後、セレナは勤務中ということで帰って行き、リリィは魔石作り、アビーは店番をすることになった。



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「・・・・・ふぅ」


 リリィは時間を掛けて魔石を作り続けた。時間を掛ければ魔力の消耗も抑えられるので、以前よりは疲れはなかった。


「とりあえずはこれぐらいでいいかな」


 魔石は決まった数を作れない。これぐらいの魔力ならこれぐらいといった感じで作っている。今は赤、青、黄、緑の魔石を20~30個程作った。


「うーん・・・魔石のことは黙っていた方がいいよね」


 リリィは魔石生成のことはまだ知らせない方がいいと考えていた。アビーもその考えには賛成していたのでこのままでいいはずなのだ。


「でも、ロイスさんとセレナさんには言った方が・・・」


 リリィはロイスとセレナだけには教えてあげたいと思うようになっていた。色々としてくれている二人にはあまり隠し事をしたくなかったのだ。


「そろそろ帰ろうかな」


 太陽も傾き始めてきて周囲をオレンジ色に染めてきていた。そろそろ帰って夕飯を作らなければいけない。


「ん?」


 その時、視界の隅に何かが見えたような気がした。

 リリィはその場所まで歩いて行く。


「これって・・・」


 リリィはしゃがんでその物を拾った。


「指輪?」


 そう、リリィが拾った物は小さな黄色い宝石が施された指輪だった。指輪には台座が5つ付いているのだが、黄色い宝石が一つしか付いていなかった。他の台座は空だ。


「何かのオーパーツ?」


 リリィはそんな気がした。そしてその指輪を指に嵌めてみた。


「えっ?」


 突然、リリィの頭の中に何かの映像が流れ込んでくる。


「あ・・・あ・・・そうだ。光を追いかけて・・・石碑に辿り着いて・・・・」


 リリィはこの前倒れた時の記憶が突然戻ってきたのだ。


「確か・・・何かが危険って言ってたような・・・」


 リリィは夢の内容を思い出そうとしていた。


「あれは・・・大きな兵器?」


 そう、リリィが見たのは二人の女性が大きな何か兵器のような物に触れて封印やら危険やら言っていたことだった。


「・・・あ、帰らなきゃ」


 気が付くとすでに陽は落ちており、周囲は暗くなっていた。



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「ただいま」

「お、遅かったな。もう少しでまた探しに行くところだったぞ」


 リリィが帰るとアビーは何かの出掛ける支度をしているところだった。


「ごめんなさい、少し考え事をしてたら遅くなっちゃった。今から夕飯準備するね」


 リリィは素直に謝り、台所へ入る。


「リリィ、魔石の方は整理しておいたから後で確認してくれ」

「うん、わかった・・・って、整理してくれたの!?」

「・・・なんでそんなに驚く」


 リリィは店番は頼んだが、整理までは頼んでいない。アビーが率先して整理してくれるのは珍しかったのだ。


「いや、だっていつもは頼んでもしてくれないし」

「あ~・・・まぁそうだったな」

「どういう風の吹き回し?」

「なんか凄い言われようだな。ただ、魔石生成は大変だろうって思ってやっただけだ」


 アビーは以前魔石生成の帰りにリリィが倒れたことから、かなりの負担が掛かると思い手伝ったのだ。


「アビーさん・・・ありがとうございます」


 リリィは眩しい程の笑顔でアビーにお礼を言う。


「お、おう」


 その笑顔に少し見とれつつアビーは返事をする。


「じゃあ、夕飯作るね」


 リリィは夕飯作りに取りかかった。


 この日はリリィが倒れたときのことを思い出していたが、リリィは頭の中が整理が出来ていなかったので、誰にも相談することはなかった。



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「兄貴、いつまで潜るんですかい?食料尽きそうですぜ」


 黒いコートの男とズズは遺跡に潜り続けていた。隠し通路を見つけたのはいいが、通路は一本しかなくクネクネとずっと続いていた。途中途中休みを取ってはいるが、疲れはピークになりつつあった。


「・・・・・・やはりこいつがそうなのか」


 突然黒いコートの男は足を止めて、壁に手をやる。片方の壁は平で綺麗なのだが、もう片方はでこぼことしていた。男はそのでこぼこしている方の壁が気になったらしい。


「その壁がどうかしたんですか?」


 ズズも壁に触ってみるが、ただの石のような感触しかない。


「お前はおかしいと思わなかったのか?」

「な、何がでしょう」

「この通路の長さだ」

「まぁ、何日も歩いているのはおかしいと思いましたが」


 ズズ達は何日もこの隠し通路を歩いていた。しかし、途中に小さな部屋のような空間はあれど、通路は常に奥へと続いていた。


「この壁は恐らく守護者ガーディアンの成れの果てか何かだ」

「え!?」


 ズズは驚いてしまう。今まで歩いてきた壁もそうだとすると相当な数だからだ。


「ここは巨大な空間か何かで、この守護者ガーディアンが道を常に変え続けて、何かを守っているのだろう」

「・・・・・・・」


 ズズはもう言葉も出なかった。


 このでこぼことした壁が全て守護者ガーディアンだとしたらどんなに恐ろしいか。そんなことを想像するのも嫌だった。


「・・・仕方がない。一度引きっ!!」


 男が引き返そうと言おうとした瞬間に壁が動き出した。それはまるで侵入者を逃がさないようにするように二人を囲い始める。そして、大きな石の人形の形を取り始めた。


「ひっ!?」

「・・・なるほど。俺達を消すつもりか」


 ズズは後退ったが、男は右手で剣を抜き、左手に何かを持って臨戦体勢を取る。


「ズズ、お前は俺の後ろから付いてこい」

「は、はい!」


 その後、その場に大きな音が響き渡るのだった。



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 ある昼下がり、リリィはアビーと一緒に骨董品屋アメリースでいつも通りに働いていた。


「っ!?」


 しかし、突然何かに気付いたようにリリィは顔をある方向へ向けた。


「どうした?リリィ」


 アビーはそれに気が付きリリィに声を掛ける。


「・・・・・・来るの」

「何が」

「行かなきゃ!」

「え?あ!おい!!」


 リリィはアビーの言葉に目もくれずに飛び出していった。


「おめぇら!今日は店仕舞いだ!!」

『・・・・は?』


 アビーの声に店の中にいた数人の客はきょとんとする。


「おら!出てけ!」


 客はアビーに追い出されるようにして、外へ出た。アビーも鍵を閉めて、そのままリリィが走って行った方向へ飛び出していった。


「な、なんだったんだ?」

「さ、さぁ?」


 残された客達はその場でポカーンとしているのだった。



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「はぁ、はぁ、はぁ」


 リリィは息切れしながら街中を走り続けていた。街の中は人々が慌ただしくリリィが走っている方向と逆に走っていた。


「やっと追いついた・・・ってなんだ!!」


 アビーはやっとのことでリリィに追い付き並走する。そして、リリィが向かっている先を見て驚愕した。


 街の外が見えてくると、埋め尽くすような魔物とハンター達が戦っていた。その中に見知った顔を見つける。


「ロイス!」


 アビーは剣を抜き、急いでロイスに加勢する。


「っ!アビー!来てくれたか!」


 ロイスはアビーに背中を任せるように立ち回る。アビーもそれに合わせて立ち回り始める。そして、二人は周りにいる魔物を次々と切り捨てていく。


 幸いにも魔物はゴブリンやスライムのような弱い部類に入る魔物が大半だ。


「違う・・・・っ!?」


 リリィは大量の魔物を見て、先程感じた気配と違うと感じた。



「隊長!魔物の奥から石人形型の守護者ガーディアンが複数出現しました!」

「なんだと!」


 ハンター協会のハンターから報告が上がった。


「で、どうすんだ?」


 近くで話を聞いていたアビーがロイスに訪ねる。


「今ここを離れると街が危ない。少し数を減らさないと。それに守護者ガーディアンに対抗出来る者となると」


 ロイスは魔物の数を見て言う。周りにはアビー以外にも数十人のハンターが街を守るように展開していた。スカーフの色も疎らで部隊関係無しに戦っているようだ。


「魔物の向こうには誰もいませんか?」


 リリィが魔物に下位魔法を放ちながら訪ねる。


「あ、ああ。数が数だから街の防衛に人を集中させているからいないはずだ」

「わかりました。ここから向こうの魔物を殲滅します」

「は?」


 ロイスはリリィの言葉に唖然としてしまう。


「リリィ、守りは任せろ!」


 アビーはリリィが集中出来るように、リリィの周りの安全を取り始める。


 その間にリリィは深呼吸をして魔力を集める。


「天を巡る悠久の風よ・全てを飲み込む渦となりて・全てを斬り裂け・グランエアロストーム!!」


 リリィが詠唱を終え、魔法名を言うと魔物が密集している場所に巨大な竜巻が現れる。それは徐々に巨大化していき、街へと向かって来ていた魔物の殆どを飲み込んでしまう。遠くにいる守護者ガーディアンもそれに巻き込まれ、ボロボロに朽ちていくのが見える。


『・・・・・・・・・』


 その光景を見ていたロイスを含むハンター達は全員唖然としていた。


 そして、竜巻が収まった後には魔物の残骸が広がっていた。


『わあぁぁぁーーーーー!!!!』


 それを見たハンター達は歓声を上げて喜んでいた。


 しかし、リリィの顔は魔物を倒したのにも関わらず厳しいままだった。


「アビーさん!」

「おうよ!」


 リリィはその魔物の死骸の中を駆け抜けてある方向に走り出す。アビーもすぐにそれを追う。


「おい!お前達!」


 その後ろ姿にロイスは声を掛けるが二人はそのまま立ち去って行った。


「・・・・・・」

「追ってください。隊長」


 そこへセレナがやってきてロイスに声を掛ける。


「だがまだ魔物が」


 大半の魔物はリリィの魔法で殲滅出来たが、残党がまだ残っている。


「ここは私がやります。だから隊長は二人の後を」

「・・・わかった。セレナ達にここは任せる」

「はい!お任せください!」


 ロイスもリリィとアビーの後を追って走り出した。


「・・・どうかご無事で」


 セレナは3人の無事を祈ってから戦闘を再開した。



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「リリィ、何があるんだ?」


 リリィの走る速度ならアビーは普通に会話は出来るので聞いた。


「はぁ・・・はぁ・・・守護者ガーディアン・・・もっと・・たくさん・・・・・その奥に」


 リリィは走るのがやっとで息が荒くなりながら、アビーの質問に答える。


「は?守護者ガーディアンがたくさんだと?」


 アビーはリリィの言葉を拾い向かっている先をじっと見てみる。


「おいおい!マジかよ!」


 そこには蠢く岩の様な物がたくさん見えた。


 そしてある程度見える場所でリリィは足を止める。


「はぁ・・・はぁ・・・」

「おい、大丈夫か?」


 これからあの守護者ガーディアンの群れと戦うというのにリリィは息をしているのがやっとの状態だ。


「だ、だいじょうぶ・・・です」

「そうは見えないけどな」


 まだ守護者ガーディアンの群れからは距離はある。だが確実にゆっくりだがこちらに向かっては来ている。



「おーい!」


 そこへロイスの声が響いた。


「お?きたか」

「ああ、君達だけに行かせるわけにはいかないからね」


 そう言ってロイスは息を整える。


「で?あれは何なんだい?」

「全部守護者ガーディアンだとよ」

「・・・マジか?」

「ああ、マジだ」


 あまりの衝撃にロイスの言葉も崩れてしまった。


「さてと・・・リリィ。どうするんだ?」

「えーと・・・何とかしなきゃと思ってここにきたから、何とかしようと思うけど」


 流石のリリィも守護者ガーディアンの数に少し圧倒されている。


「ここからの距離なら上位魔法である程度は倒せそうだが」


 ロイスも対策を考え始める。


「そんなことして魔力は持つのか?」

「そこなんだよなぁ」


 上位魔法は広範囲殲滅魔法もあるがその分魔力の消費が激しい。先程使ったリリィの風の魔法もオリジナルではあるが、上位魔法と同等程度の力を持っている。普通のハンターや魔法使いでは上位魔法は使えないものが多い。例え魔法に長けていると言われるロイスでも2~3発打てば魔力切れを起こしてしまうほどだ。


「わ、私がやります。二人には強化魔法を掛けますので、それで時間稼ぎをお願いします」

「だが、それではリリィの負担が大き過ぎる」


 流石のロイスもリリィの魔法が凄いからと言って、一人で任せるのには気が引けた。


「いえ、まだまだ大丈夫です」

「しかし、先程も上位魔法クラスを使ったばっかりだろう」

「あれぐらいならいつもやっていることと比べれば全然平気です」

「いつもやっていること?」


 リリィのいつもやっている事というのは魔石生成である。魔石生成に必要な魔力は相当な物で一つを作るのにも上位魔法と同じぐらいの魔力を要する。それをリリィは日に百個は作れるほどの魔力を有している。以前の守護者ガーディアンと初めて戦った時は緊張して精神的疲労で体調を崩して倒れてしまったが、最近は戦闘は何度も見ているし、経験も少しは積んだので精神的に成長していた。なにより


「リリィ、お前は俺が守ってやるから安心して魔法を使え」


 アビーと更にお互いに深く理解し合えたことで、精神的にかなり安心できるようになっていることが大きい。


「うん!お願いしまうっ!」


 リリィは頷きながら答えたので下を噛んでしまう。


「うー・・・いひゃい」

「あはははは」

「わりゃうなんてひろいです」


 リリィは痛がりながらもアビーに抗議する。


「ふ、お前達といるとこっちも安心してくるよ」


 そんな二人んも様子を見ていたロイスは肩の力が抜けた。


「さあ、アビー、リリィ。そろそろ始めようとしようか」

「ああ!」

「はい!!」


 三人の目の前には近くまで来ている守護者ガーディアンの群れを見据えて戦闘態勢を取るのだった。

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