少女、突然の・・・
リリィはいつものように朝早くから、店内の掃除をしていた。
トントン
まだ開店前の早い時間に扉をノックする音が響いた。
「はーい」
リリィは返事をしてから、扉の鍵を開けて、誰が来たのか確かめる。
「おはよう・・・リリィ」
「あ、ロイスさん。お久しぶりです」
やって来たのはロイスだった。ロイスは暫くの間、聖都アナスシアに遠征をしていたのだ。
「帰って来たんですね。って、何か疲れていません?」
久しぶりに会うロイスの顔は少しやつれたように見えた。
「あ、ああ、色々あってな。というより、その延長線にいるというか」
「んん?」
ロイスらしくないはっきりしない態度に疑問を持つリリィ。
「それよりアビーは・・・寝てるのか?」
「はい、絶賛爆睡中です」
「爆睡か」
「はい」
「・・・・・・少し待たせてもらってもいいかな?」
「はい、大丈夫です」
「すまない」
ロイスはそう言って奥にある椅子に腰掛けた。
「何か飲みますか?」
「いや、大丈夫だ」
「わかりました。私は外の掃除してきますので」
「了解した・・・ふぅ」
リリィはロイスを店内へ残して、外の掃除へと出ていった。
(やっぱり疲れてるのかな?ご飯でも作ってあげようかな)
リリィは掃除をしながら、そんな事を考えていた。
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「すまないな、リリィ。朝食をご馳走になってしまって」
「いえ、2人分作るのも、3人分作るのもあまり変わりませんから」
ロイスはそのまま朝食をご馳走になっていた。
「それにしてもアビーはまだ起きないのか?」
「いえ、朝食が出来たのでそろそろ」
「おはよーっす」
リリィの言葉の途中でアビーが起きてこの場にやって来た。
「おはようございます」
「おはよう、アビー」
「お?ロイス、帰って来たのか」
アビーを2人で迎えると、アビーはロイスがいることに気が付いた。
「まぁね」
「ん?何かあったのか?」
リリィでも気が付ける程のロイスの違和感に、アビーは幼馴染であるので、すぐに気が付いた。
「ああ、それで相談というか・・・」
「珍しいな。お前が言い淀むなんて」
アビーも今のロイスを見ることは希なようだ。
「お前はアナスシアに行ってたんだろ?」
「ああ、仕事でな」
「それではその仕事で何かあったんですか?」
「それが」
「見つけました!!」
「「へ?」」
「はぁー」
そこへ知らない女性の声が扉が開け放たれる音と共に響いた。ロイスはその声を聞き、深い溜め息をついた。
現れた少女は銀色の長い髪をしており、服装はあまり肌を露出していない薄手のローブみたいのを何枚も着ている。
「ロイス様、本日は私をルインの案内をして頂けるはずなのでは?」
「・・・はい、そうでしたね」
いきなり目の前に現れた女性は、ロイスにべったりと密着しながら、ねだり始めた。
「アビーさん、アビーさん、彼女はどなたですか?」
「いや、俺も知らないな。でもどこかで見たような」
リリィとアビーは2人に聞こえないように、こそこそと話した。
「あら?貴方は・・・」
そこで女性がリリィの方を見て、何かを感じ取ったのか、見つめてきた。
「え、えっと・・・私はリリィといいます。一応ここの店で働いている者ですが」
リリィは少しオドオドしながら、自己紹介をした。
「そう、リリィさんというのね。私はク・・・いえ、ティアですわ」
「ティアさん・・・ですか」
「ティアと呼び捨てで構いません。見たところ同じ位の年齢でしょうし。私もリリィと呼ばせて頂きます」
「はぁ」
リリィがよくわからない内に、話がトントン拍子で進んでいく。
「失礼ですが、クリ」
「ロイス様、今の私はティアです。よろしいですね?」
「わかりました、ティア様」
「それと今私を呼ぶ時に『様』は付けないでいいですから。私もロイスと呼ばせて頂きます」
このティアという少女は少し強引な所があるようだ。
「で、ロイス。このティアっていうガキはどこのどいつなんだ?」
「ア、アビー!」
ロイスは慌ててアビーが余計な事を言わないように、近寄ろうとする。しかし
「ガ、ガキですって」
突如、ティアから何か危険そうな気配が漂ってくる。
「・・・ロイス、この男は処刑しても宜しいでしょうか?」
「え、いやそれはいくらなんでも」
「いいえ!私は初めての屈辱を味わいました!!」
次の瞬間、ティアから魔力が溢れ出してくる。
「ちょっ!ちょっと待て!」
「いいえ!待ちません!」
アビーの制止する声を聞かずに、より一層魔力を増幅させるティア。
「やめてください!」
「っ!?」
そこにリリィが割って入った。そして、何故かティアの魔力は霧散してしまう。
「ティア、アビーさんを傷付けるというのであれば、例え誰であっても容赦はしません」
「・・・・・・リリィ、貴方は何者です?」
ティアはリリィの迫力に押されたのではなく、リリィに何かを感じて、集中を解いたのだ。
「えっと・・・私は私でしかないですが」
リリィもティアが魔力を霧散させたので、警戒を解いたが、ティアの質問の意図が読み取れなかった。
「・・・・いえ、今日は貴方を見れただけで良しとしましょう。ロイス」
「はい」
「町の案内。宜しくお願いします」
「・・・わかりました」
そう言ってロイスとティアは店を出て行った。
「な、なんだったんだ?」
「それは私が聞きたいです」
訳も分からず取り残されたリリィとアビーは二人が出て行った扉を見つめていたのだった。
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(なんだったんです?さっきの感じ・・・気配は)
ティアはロイスに案内されながら、先程リリィから感じた何かについて考えていた。
「クリスティア様、何かあったのですか?」
「・・・・・・」
ティアこと聖都アナスシアの聖女クリスティアは考え事をしていて、ロイスの声が聞こえていなかった。
(リリィは魔法使いに間違いはありません。それは私が見てそう感じたのだからそれはあっているはず。それなのに、何故この私が、光輝の巫女の末裔である私が彼女を恐れた・・・・・ってこの私が恐怖を感じた?)
リリィから感じた物の正体が恐怖だと理解した。
(私の光属性の魔力は基本属性の4種より上位のはず。今まで聖都にやって来た大魔法使いを名乗る人を見てもこんな感覚に襲われたことなんて一度もないのに)
聖女であるクリスティアはこの世界を救った巫女の末裔として有名で、姿を一度は見ようと、いろんな人達が聖都を訪れるほどだ。
「クリスティア様」
「・・・・え?な、なんでしょう?」
「い、いえ、先程から心ここに在らずと思いましたので」
「・・・・・・ロイス、つかぬことをお聞きしますが、リリィとの交友は長いのですか?」
「い、いえ、交友という意味ではそこまで長くはないです。アビーとは幼馴染ですので長いですが」
「あびー?」
「・・・・・・・そういえばまだ自己紹介していなかったな。アビーの奴」
自己紹介をしていないことを思い出したロイスはため息をつくのだった。
「えっと・・・クリスティア様を侮辱した男です」
「ああ、あれの事でしたの。まぁ、いいです。それよりあのリリィはただ者ではないですね」
「・・・どうしてそう思うのです?」
「私は年齢で言えばまだ16歳の未熟者です。しかし、色々な人々を見てきた立場の人間です。これまでにも強いハンターや魔法使いにも会ってきましたが、恐怖を感じることは一度もなかった。それなのに、リリィから感じたあれは、私にとって恐怖その物にしか感じ取れなかったんです」
「聖女の貴方が感じる恐怖・・・ですか」
ロイスは今までリリィにはお世話になったことが何度もある。そのリリィが聖女から恐怖を覚えられた。その事実がロイスは受け入れ難かった。
「失礼ですが、リリィはいい子で優しい少女です。そこまで恐れる心配はないかと」
「そ、そうですか」
(でも、あの少女が危険な感じがするのは間違いありませんね。これからの仕事に支障が出なければいいのですが)
クリスティアはそれでもリリィの存在が気になっていた。
「それより案内はどうしますか?続けますか?」
「そ、そうです。今はロイス様とのデートを楽しむとしましょう」
クリスティアはそう言って誤魔化して、ロイスと共にルインの街へと消えていった。
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それから数日が経ち、相変わらずの忙しい日々が続いていた。
「ごめんなさい、今日の分の魔石はもう無くなってしまって」
「やっぱここも駄目か」
「すみません」
ハンターの客が求めてきた魔石は既に売り切れてしまっている。というのも、暫く前からこの街ルインに人が多く訪れるようになってから、街の外れにあるアメリースの店まで客が多く訪れるようになっていた。
その関係で、採取に毎日行かないと追い付かない程に物が売れていくのだ。現に今もアビーが採取・・・というより狩りに出掛けている。
「でもまぁ、噂のリリィちゃんに会えたから良しとするか」
「あ、あはは。ありがとうございます」
最近はこのような客が増えているのだ。最初の頃のように突っ掛かってくる客はいなくなったが、リリィ目的で来る客がいる。
(まぁ、物が無くても私がいることで、お客さんが喜んでくれるのなら、まだいいかな)
リリィはまだ見られる恥ずかしさに慣れていない。多少照れ臭くても、店番はやらなくてはいけないので、前向きに考えるようにしていた。
「そういえば、噂で聞いたがリリィちゃんって魔法使えるのか?」
「え、ええ、まぁ」
「ならハンターなのか?」
「い、いえ、ハンターではないです。まだ14歳ですし」
ハンターに登録出来るのは15歳の成人を迎えてからだ。リリィも来年には登録出来るようになるが、今のところなろうとは考えていない。
「おい、行くぞ」
「ああ!ま、機会があったら魔法も見せてくれな」
ハンターは仲間から声が掛かり、そう言い残して店を出ていった。
「ハンターか・・・・・・でも、このままでいいかな」
もう採取とかハンターの真似事をしているリリィには、あまり関係のない話だった。
それから暫く経ち、昼が過ぎた頃にアビーが帰ってきた。
「ただいまっと」
「おかえりなさい」
リリィはお客の相手をしながらアビーに挨拶した。
「そういえばリリィちゃん、聞いたか?」
「えっと・・・何をでしょうか?」
いきなり話を振られたリリィは意味が分からなく、聞き返した。
「いや、数日前にハンター協会の方に聖都アナスシアの聖女様が来たそうなんだ」
「そうなんですか?」
「おう。で、その聖女様が明日広場で挨拶をするそうなんだ」
ハンターの人の話をまとめると、例の聖女様が何日かこのルインの街を見て、何か思うことがあったのか集会みたいのを開きたいと言ってきたらしい。内容はわからないが、滅多に見られない聖女の姿を見られるとかで、街中ではお祭り騒ぎになっているらしい。
「その話、俺も聞いたな」
「へぇ・・・、そうなんですか?」
「・・・・リリィ、聖女のこときになるのか?」
「・・・少しだけ」
「そんなら明日その広場に行ってみるか?」
「はい!行きたいです!」
アビーの提案に喜ぶリリィ。
「そんならリリィちゃん、広場に昼前には言った方がいいぞ。挨拶は昼からやるって聞いたから」
「はい!わかりました」
「そんなら、明日は店は休みだな」
リリィとアビーは明日、聖女の挨拶とやらを見に行くことになった。
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そして、翌日。リリィとアビーは昼前に広場に向かった。
「うわぁー・・・凄い人ですね」
「だな」
広場の片隅に壇上が創られており、その付近をハンター協会の部隊が警備に当たっていた。
「あ!セレナさんじゃないですか?あれ」
「ん~・・・みたいだな。ってかリリィ、よくそんなすぐに見つけたな」
その警備の中に見慣れた顔を見つけた。
「でもアリアさんはいないんですよね」
「あいつならセレナの近くじゃないのか?」
2人は目を凝らして探してみるが、アリアの姿は無かった。
「あいつ小さいからなぁ・・・。人の波に流されちまったんじゃねぇか?」
「だーれが流されたって?」
「あ!アリアさん!?」
いつの間にかジト目のアリアが2人の後ろにいた。
「もう!アビーは失礼過ぎ!私だってそんなすぐに流されたりはしないよ!」
「そんなにってことは流されたことがあるのか?」
「・・・・・・・あるけど」
「・・・・ップ!」
「笑わないでよ!」
アリアとアビーが漫才のようなやり取りを始める。
「2人とも仲が良いんですね」
「「良くない(よ)!」
なんだかんだで衝突することがある2人だが、傍から見ていると仲が良いようにしか見えなかった。
「で、何しに来たんだ?」
「そうそう!リリィちゃんに話があるんだ!」
「私に?」
突然、話があるといわれてきょとんとするリリィ。
「聖女のクリスティアは色々とまずいかもしれないんだ!」
「まずい?」
「うん!リリィちゃんにとってだけど」
「んん~?」
アリアの話を聞けば聞くほどよくわからない。
「あの聖女はリリィちゃんのことを」
「聖女クリスティア様の登壇だ!静かにしろ!」
そこへ警備の者から声が掛かる。アリアはハンター協会に一応属しているため、黙らざる終えなくなる。
そして、聖女クリスティアが登壇する。
「ね、ねぇ、アビーさん・・・あれって」
「・・・・ああ、間違いないな。あのガキはロイスと一緒にいた」
「ティア・・・だよね」
そこに現れたのは神秘的な衣を纏ったクリスティアことティアの姿だった。
「皆さん。この街、ルインはとても素晴らしい街だと、ここ数日拝見させて頂き思いました。ハンター協会を中心に安全も守られており、ハンター稼業も充実していると、そう感じさせられました」
聖女クリスティアの集会の話が始まった。
「本来、このような場所に外出することを許されない私ですが、ある予感を感じて今この場所に来ています」
ティアによる話は街の皆が見守る中、続いて行く。
「それを調べるために私はこの街に来て、脅威になりそうなものを私の巫女の力で確認を行ってきました」
『おおーー!!』
その言葉に民衆は歓声を上げる。
(脅威って『闇夜の使徒』のことかな)
リリィは脅威と聞き、その名前が頭に浮かんだ。
「私はその脅威に対し、実力行使でこの街から排除することにしました」
ティアによる演説は今もなお、続いて行く。
「だから・・・・・・消えなさい」
その言葉と共にティアの身体から魔力が溢れ出す。そして、ぶつぶつお何かを言いだす。恐らく詠唱だろう。
「リリィちゃん!」
「え?え?な、なに?」
「逃げるよ!」
「え?」
「逃がしません。ホーリーショット!!」
「きゃっ!」
ティアの手から放たれた光の弾丸は、リリィ目掛けて真っ直ぐに飛んできた。アリアに引っ張られたリリィは何とかその攻撃を避けることに成功していた。
「ク、クリスティア様!?」
近くにいたロイスも狼狽している。
「リリィ、私は貴方を見た時に恐怖を感じました。その正体・・・暴かせて頂きます」
こうして、大勢の街の人々の前でリリィは、聖女クリスティアに敵対宣言をされてしまうのだった。
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