少女、復帰する
「おはようございます」
「お、身体はもう大丈夫なのか?」
「はい、普通に生活する分には問題ないです」
リリィはアリアとアーシーと話した翌日には大分動けるようになっていた。
「それにしても私がいなくてもちゃんと出来るんですね」
「・・・リリィは俺をどう見ていたんだ」
アビーが朝早くから起きて開店準備をしている光景を見て、リリィは率直な感想を言った。
「リリィ、動けるようなら店番頼めるか?」
「いいけど、どこか出掛けるの?」
「ああ、遺跡に魔物退治でもして、売り物集めをな」
「売り物・・・」
リリィは店内の様子を見てみると、品数が少し少なくなっているのに気が付いた。
「ごめんなさい。私のせいですね」
アビーは自分を心配して、出来る限り家から出ないようにしていたのだと、リリィは考えた。
「まぁ、そいつもあるが・・・」
「ん?何かあるの?」
アビーの歯切れの悪い言い方に何かあるのかとリリィは考える。
「いや、街の方が昨日辺りから少し騒がしくてな」
「騒がしい?魔物とか
「いや、なんつーか・・・お祭り騒ぎ的な感じで」
「あれ?でもこの街のお祭りってまだ先ではありませんでした?」
この遺跡の街ルインの祭りというと、冬の季節のある祭りしかないはずなのだ。
「そのはずだけどな。で、この街の外部からも人が集まっているらしくて、なかなか店を空けられなかったんだ」
「なるほど、要するに儲け時ってことですね」
「そういうこった」
二人は話しながら開店準備を進めていく。
「あ、でも魔石は」
「まぁ、数は少ないが・・・まだきついだろ?」
「で、でも少しなら」
「ダメだ。しっかり休んで万全な状態になってからだ」
「・・・はい」
リリィは役に立てなくて少ししょんぼりするが、心配してくれる気持ちが嬉しかったりもする。
そして、開店準備も終わり、開店時間を迎えようとしていた。
「それじゃあ、私は店番してますね」
「おう、頼んだ。俺も準備して行くか」
アビーは剣を帯刀し店から出ようとして足を止めた。
「そうだ、リリィ。スカートの後ろ、直しておけよ」
「へ?」
「じゃ、行ってくるわ」
「・・・・スカート」
アビーが出ていく中、リリィは自分のスカートを手で確かめる。前は問題なかったが、スカートの後ろが捲れて上着に引っ掛かっていた。要するに、パンツ越しとはいえお尻が丸出しの状態だった。
「っ!?もう!気付いてたなら早く教えてよぉ!」
既に出掛けてしまったアビーにリリィは叫んでいた。
--------------------------
「いらっしゃいませ」
「お、リリィちゃん。風邪は大丈夫なのかい?」
「え?ええ、はい。もう大丈夫です」
「そっか、そいつはよかった」
(アビーさんが風邪だって言って誤魔化してくれたのかな)
流石のアビーも、リリィが筋肉痛で動けないとは言っていなかったようだ。筋肉痛で動けないなんて知れ渡ったら、恥ずかしいので、リリィは内心ほっとしていた。
「じゃあ、これをくれ」
「ありがとうございます」
その後も常連のハンターの客を中心に色んな人がこのアメリースにやってきては、リリィの体調を心配をしてくれた。
そして、暫く店番をしていると、アビーが言うとおり、見知らぬ客が多いことにも気が付いた。
外部の客ということは、ルインの街にはあまりいない人もいるってことで、少し問題も起こりそうになったりもしていた。
「嬢ちゃん、俺達とどっか行かねぇか?」
「今は働いている最中ですので、そういうのはお断りしています」
「そんなこと言わねぇでよ」
リリィははっきりと言うが、この柄の悪そうな男二人はしつこくリリィに詰め寄ってくる。
「ですからっ!?」
リリィは断り続けようとしたが、一人の男がリリィの腕を掴んできた。
「お前みたいな女は俺らの言うことを聞いてれぶべら!!」
「あ、あれ?」
リリィの腕を掴んでいた男が地面に叩きつけられた。
「何すんだてめぇ!」
もう一人の男が仲間を叩きつけた人に抗議の声を上げる。
「おい、貴様ら。俺らのリリィちゃんに何しようとしてくれてんだ?ええ?」
「はぁ?なにいって・・・やが・・・・・」
リリィに詰め寄っていた男は途中から顔面蒼白になった。なぜなら、いつも利用しているハンター達。即ちリリィのファン達が数人で男二人を囲んでいたのだから。
「あ、あの、助けてくれたのはありがたいのですが・・・その・・・あまり騒がないでほしいかな?なんて・・・」
「大丈夫だ、リリィちゃん。こいつらと少し話し合うだけだから」
「そうだぜ。リリィちゃんはこのまま店番しててくれや」
そう言って常連のハンター達は気絶して倒れている男と、襟元を掴まれ逃げ出せない騒がしい男を引きずって、店を出て行った。
「このやろ!放しやがれ!」
「うっせえ!」
「・・・・・・・」
リリィは何も言えずにその様子を見送っていた。
そして、その後、遠くから男の断末魔が聞こえてくるのだった。
--------------------------
その後リリィは問題なく過ごしていた。そして、お客も落ち着いてきて、昼食を考えている時にアビーが帰って来た。
「ただいまっと」
「お帰りなさい」
「お、おう」
アビーはいつも出迎える側なので、リリィの出迎えに少しどぎまぎしてしまった。
「ほ、ほら、これ一応とれたやつだ」
「結構魔物狩ったんですね。今整理手伝います」
リリィはアビーが背負っていた荷物を預り、袋の口を開けた。
「あれ?これって・・・」
荷物の一番上には素材ではない可愛らしくトッピングされた小さな袋が入っていた。リリィはそれを取り出す。
「その・・・お前への感謝の気持ちだ」
「・・・・・・・・」
アビーはリリィにいつも苦労を掛けていることには自覚はあった。リリィが動けない生活をしてそのことを強く思ったのだ。しかし、感謝を伝えることは照れ臭く感じて、いつもうやむやにしていた。そして、アビーからプレゼントを渡すことも今までしたことがなかった。
リリィはリリィで突然のプレゼントに思考が停止してしまっていた。
「・・・おい、リリィ。開けてもいいんだぞ」
「っ!っっっっっ!!」
アビーが硬直していたリリィの肩に手を置くと、リリィは硬直が溶けて、顔を真っ赤にして部屋の隅に行ってしまう。
(ええぇ!どうしよう!!嬉しい!!)
リリィは嬉しすぎて思考が暴走していた。両手で胸にその袋を抱きしめていた。
「おーい、開けないのか?」
「あ、開けます!」
アビーもここまで喜ぶとは思っていなかったので、にやにやしてリリィに声を掛けた。
リリィは袋を破らないように開けると、可愛らしい花の形をした髪飾りが入っていた。
「わぁ!」
「ど、どうだ?俺、女の趣味はよくわからないから、リリィに似合いそうなの選んだつもりなんだが」
アビーはリリィの様子を窺いながら聞いた。
「可愛いです!これ私がもらっていいんですか!?」
「あ、ああ。そのために買ったんだからな」
「あ、あの!つけてもらっていいですか?」
「あ、ああ」
アビーはリリィの勢いに押されて髪飾りを受け取る。そして、似合いそうな場所へと丁寧に付けてあげる。
「リリィの髪はさらさらしてんだな」
「えへへ」
アビーに髪飾りを付けてもらうと、リリィは洗面所にある鏡の前で自分の姿を見て、はしゃいでいた。
「・・・あんなに喜ぶもんなんだな」
アビーはもう少しリリィにこういった機会を与えるのもいいかもなと考えるのだった。
「ねぇねぇ、アビーさん!似合ってますか?」
「ああ、似合ってるぞ」
その日、リリィは常に上機嫌で過ごしていた。
--------------------------
それから更に数日が経った。
リリィも以前のように動けるようになり、あの日以来の宝物である花の髪飾りを付けて、採取に出掛けていた。
「だいぶ集まったかな」
最近はアビーが採取に行ってくれていたが、アビーは魔物等の素材を中心に集めてくれるが、鉱石や植物の知識が乏しいため不足していた。
今はリリィが鉱石や植物を中心に集めている最中だった。
「後は・・・魔石も創らないと」
リリィはいつもの魔石生成している場所に向かって歩きだした。
「そういえばもう少しなんだなぁ」
リリィはお客から聞いたことを思い出していた。
それは、近々、聖都アナスシアから聖女と呼ばれる人物が遺跡の街ルインを訪れるということだった。最近、ルインに外から来る人が多い理由はここにあったのだ。
「でも聖女様かー。私も話しか聞いたことない人が来るんだ」
実は遺跡の街ルインは聖都アナスシアからの支援で出来た街といってもいいぐらいの恩があるのだ。
まだルインが出来る前、ハンターがこの付近でオーパーツと同等の遺物が多数取れるという噂があり、この場所に集結していた。
だが、どの街からも遠いこの場所は死者がたくさん出る場所でもあったのだ。
それに気が付いた聖都アナスシアの聖女が、この場所に街を造る計画を打ち出し、ハンターを中心にして街を造り上げたのだ。
そのため、ルインのハンター協会は何かと聖都アナスシアに報告を上げることが多い。
そして、今回は現聖女の少女がこの街にやって来ようとしていた。
「もしかして、ロイスさんが呼ばれていたのって」
アリアが行方不明になる前にロイスが聖都アナスシアに向かったことはセレナから聞いていた。もしかすると、聖女来訪のためにロイスは呼ばれたのではと、リリィは考えた。
「・・・・まぁ、今考えてもしょうがないか。よし!始める前にこれは取っておこ」
リリィは魔石生成の場所に到着し、暴発したときに吹き飛ばされないように髪飾りを大事にポケットの中に入れた。
「じゃあ火からいこうかな」
リリィは魔石生成を開始した。
--------------------------
「っ!?」
「ん?アリア、どうしたの?」
セレナは一緒に書類整理をしていたアリアがピクリと何かに反応したような気がして尋ねた。
「な、何でもないよ」
「そう?」
「うん!ちゃちゃっと終わらせよ!」
「そ、そうね」
アリアに言われてセレナは作業を再開した。
(この感じ・・・。リリィちゃんが火の魔力で何かやっているかな)
アリアはリリィが火の魔力を圧縮した時の波動の様な物を感知したのだ。
(ん~・・・。戦ってるわけではなさそうだけど・・・、後で聞いてみようかな)
相当な量の火の魔力を使った感じはしていたが、魔法を使った時のように魔力が拡散する感じはしないので、助けは無用とアリアは考えていた。
--------------------------
「ただいま」
「おう、おかえり」
リリィは魔石生成が終わった後、髪飾りを付け直して、アメリースに帰ってきた。
「魔石はあれぐらいで足りそう?」
「ああ、もう何個かは売れたけど、量は大丈夫そうだ」
アビーは倉庫の中をちょいちょい覗いて、魔石の整理をしていた。やはり、魔石はハンターの中では重要な道具なので、大抵の人は買っていく。
「よかった。じゃあ私は倉庫の整理してきちゃうね」
「ああ、頼んだぞ」
そう言ってリリィは倉庫に下りていった。
リリィが採取で手に入れた物はゲートリングで送られて、床に広がるように杜撰に置かれていた。ただ、魔石だけは多少整理がされていた。
「んーとこれは・・・」
リリィは今日の戦利品を種類ごとに分けていく。
「あれ?こんなの取ったっけ?」
そんな中、1mはある泥の塊みたいな物が混じっていた。
「何かに紛れていたのかな」
今日取った戦利品の中には魔物の素材も混じっている。魔物の素材はまだ解体していないので、魔物の体内に変な物が混じっていることも稀にあるのだ。
「へ?きゃっ!」
リリィがそれを袋で覆って破棄しようと手を伸ばすと、泥が動き出し、リリィの足に絡みついてきた。
「ちょ・・・やめ・・・」
泥のひんやりとした感じとうねうね動く気持ち悪さから、リリィは逃げようとするが、泥が足に絡みついていて逃げられなくなっていた。
「あ!ダメ・・・そこは」
泥はリリィの足を撫でまわすようにしながらスカートの中へと侵入してきた。
「え?え?これって・・・スライム!?」
リリィは泥の正体に気が付いた。スライムは無形の魔物で人を食べたりはしないが、人の肌に付着する汚れや菌を溶かして食べる習性がある。そしてその溶かす粘液は服にも及ぼすのだ。
リリィの服はスカートとパンツがすでに溶け始めてしまっていた。
「や・・・これ以上は・・・・」
泥のスライムは次は上半身に上がってくる。上着も溶かされ始め、リリィはただ泥を纏ったような姿になってしまう。
「あ!そ、そこは!!」
スライムがリリィの下半身のある部分を撫で回した。
「ダメーーー!!!」
リリィがそう叫ぶと同時に、リリィの魔力が暴走を起こして、爆発を起こした。
爆発はリリィの身体から外へ向けての魔力の爆発だったので、リリィに纏わり付いていたスライムは霧散して散り散りになっていた。そして、爆発の影響で周りにあった今日の戦利品の植物類は使い物にならなくなっていた。幸い鉱物に限っては少し欠けただけで済んでいた。
「おい!爆発音がしたけど大丈夫か!?」
1階から爆発の音を聞きつけたアビーが倉庫へ駈け込んで来た。
「・・・・・えっと、これはどういう状況だ?」
アビーが目にしたのは倉庫の部屋に泥が飛び散っている光景と、爆発の中心と思われる場所にリリィが倒れている光景だった。
「ん・・・えっと・・・・あ!スライムは!?」
そんな中、リリィは目を覚まし、身体を起こして女の子座りをしてスライムの姿を探す。
「いなくなったのかな?あ、アビーさん」
見渡していないことを悟り、倉庫の入口にいるアビーに気が付いた。
「すみません。ちょっと変なのが混ざってたみたいで」
「あ、ああ。そうなのか」
「はい、それで色々とあって・・・・・・」
リリィはその色々あったことを思い出し、今の自分の置かれた状況を見直した。
倉庫は部屋に泥が飛び散っていて、掃除するのが大変そうだ。どうして部屋に泥が飛び散っているかと言うと、リリィの魔力の暴走が原因だ。そして、暴走を起こしたリリィの服は、スライムに溶かされて裸に近い状態にされていた。そこに、暴走による爆発が加われば服はどうなるか。
リリィはアビーの顔から自分の身体へと視線を移す。
「っ!?」
リリィは自分が裸になっていることに気付き、手で胸と大事なところを隠した。
「み・・・見た?」
「・・・・・(ふい)」
アビーは嫌な予感がしてリリィから視線を外した。もうその事実がリリィの裸を見たということを物語っていた。
「アビーさん!出てって!」
「わ、悪かった!」
アビーはリリィに怒鳴られて、急いで倉庫から出ようとする。
「あ、待って!」
「・・・・・・・」
だが、リリィが出て行こうとしたアビーを呼び止める。
「その・・・服・・・持ってきてくれない?」
まだ上の店は開店中でお客の姿もある。そこを通らなければ自分の部屋に行けない。流石に裸で通るわけにもいかないので、リリィはアビーに服を持ってくるように頼んだ。
暫くして、アビーから服を受け取り、着替えたリリィ。いつもの服は何着も持っているので、いつも通りの服に着替えたのだが、アビーはある物を取ってくるの忘れていた。
「まぁ、変なパンツ持ってこられるよりかはいいけど」
アビーは下着を持ってこないで服だけを持ってきたのだ。
「うぅ・・・スースーする。早くパンツ穿きに行こう」
いつもは可愛いから着ている短めのスカートの裾を抑えてリリィは倉庫から店のスペースの1階を通り、2階の自室に向かおうとする。
「お、リリィちゃん、大丈夫か?上まで音が響いていたけど」
「え?あ、はい、大丈夫です」
「そうか、爆発音だから何事かと思ったよ」
「あ、あははは・・・」
リリィは心配してくれたお客に失礼が無いように、スカートを抑えるのをやめて、しっかりと応対する。
「そ、それじゃあ私はちょっと野暮用があるので」
リリィはそう言って、自室に戻ろうと背を向けてカウンター裏にある階段を目指して歩き出す。
そこへ、開いている窓から少し強めの風が舞い込んでくる。その風はリリィのスカートを巻き上げてしまう。
『・・・・・え?』
「っっっ!!!」
リリィは店内にいるお客の視線がリリィのお尻に集まって声を漏らしたことに気が付いてしまった。
「いやあぁぁぁぁ!!!」
リリィは自室に逃げ込むように駆けていった。その時、またもやスカートが舞い上がり、可愛らしいお尻が見えてしまったことにリリィは気付いていない。
「おい、お前ら今見たことを忘れねぇとしばくからな」
『は、はい!!』
アビーはお客に向けて殺気の籠った声で言うと、お客の全てが青い顔をして返事をした。
この日、リリィが自室から出てきたのは、閉店後、夕飯を作りに下りて来た時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます