少女、暗黒の太陽に襲撃受ける

「なにこのすごい闇の魔力」

「そんなに凄いのか?」


 リリィとアビーは炎の鳥に乗って、暗黒の太陽の近くに来ていた。


 アビーにはというより、リリィ以外の人間には見えてはいないが、暗黒の太陽の周りは闇の魔力が渦巻いており、すごく危険な感じがした。


「うん。いつこっちに被害があるかわからないです。アリアさん、このまま近付けそう?」

(う~ん、ちょっと難しいかな)

(・・・もっとブーストする?)

(いや、そうじゃなくて、闇の魔力が濃いから私達に被害が来る可能性があるじゃん)

(・・・・・リリィだっけ?吹き飛ばせない?)

「・・・・・・やってみますね。アビーさん、一応警戒しておいてください。魔法で闇の魔力を吹き飛ばせるか試してみます」

「ああ」


 リリィは集中を始める。今回は闇の魔力を吹き飛ばすのが目的なので、光属性の魔法を使う。


「光よ・仇名す」

「リリィ!」

「きゃっ!」


 詠唱を始めたところで、リリィはアビーに頭を下げさせられた。すると、突如、リリィが立っていた場所に黒い弾丸の様な物が通り過ぎていった。


「アリア!離れろ!」

(わ、わかってるよ!!)


 アビーの声を聞き、アビーに声は届いていないことを忘れて叫んで、炎の鳥は一旦その場を離れていった。


「な、なにが」

「攻撃だ。お前が詠唱をした・・・いや、集中した時から周りにある黒い霧の様な物が動き始めたんだ」

「え?」

(リリィちゃんの魔力に反応したのかもしれないよ)

(ん、あれは闇の魔法と同じ攻撃。リリィの光の魔力に反応したと見るべき)

「私の魔力に・・・」


 それでは近付いて魔法を撃つことなんてできない。詠唱中は無防備になってしまう。


「近付いて魔法を撃てないんなら、事前に詠唱とかできないのか?ほら、お前が良く使うやつ、カルテなんた何とかリングってやつ」

「それってカルテット・エレメンツリングですよね。でもあれは光の魔法ではないですし」

「それを今創れないのか?」

「無茶苦茶なこといいますね」

「悪かったな。俺にはそれぐらいしか思いつかねぇんだ」


 リリィは考え込む。幸いにも離れて、魔力を集中しなければ、襲い掛かってくることはない。


「リリィ、魔法はそんな簡単に作れるものではないのだろう?」

「ううん、私の場合は感覚で作っちゃうから、難しくはないんだけど、調整が出来ないの」

「なんだか凄いことを聞いた気分ね。精霊としても」


 リリィの言葉にウォーティは呆れ気味だ。


「でもカルテット・エレメンツリングは普通の魔法じゃないの」

「それはそうだな。俺も四属性の魔法なんてきいたことはないらな」

「違うの。そうじゃなくて」

「どういうことだ?」

「あの魔法は対属性用の魔法なの」

「・・・・・・・そういう仕組みか」


 アーシーは今のリリィの言葉でわかったようだ。


「あの魔法は対属性を一緒に扱うことで無理矢理バランスを取ってるの。本来なら魔法が発動しているはずの魔力を、対属性でバランスを取って、魔力を発動させない状態で停滞させているにすぎないの」

「ってことは光の魔力の対ってことは闇の魔力がいるってことか」

「うん」


 リリィはまた考え込む。すると、今の特殊な状況を見てあることを思い付いた。


「・・・・・・・アーシー」

「なんだ」

「闇の魔法ってやっぱり闇の魔力がいるの?」

「そうだな。光と闇は特殊な魔力だ。自然界にある火、水、地、風のように魔力があるわけではない」


 アーシーの言うことは、光と闇の魔力は自然界には無い物。だから、魔法として成立しない。リリィが光の魔法を使えるのは、己自身に光の魔力を宿しているからに過ぎない。


「今この状況でも?」

「む、それは・・・」


 リリィはアーシーの返答で答えが見つかったような気がした。


「やってみるね。光よ・闇よ・我が手に光を・我が手に闇を」


 リリィは新たな魔法を紡ぎ出す。それはリリィの体内にある光の魔力と周囲に溢れる闇の魔力を使った、今まで存在することのなかった魔法。


「対たる輝きの旋律を・我が手に・アウリオーレ・デュアルリング!!」


 リリィの両腕にそれぞれ光と闇のリングが現われる。


「っ!?」


 それと同時に闇の魔力のリングを纏う左腕に激痛が走る。


「リリィ、大丈夫か?」

「う、うん。なんとか」


 だが、その顔は痛みで引き攣っている。


「リリィ、その闇のリングを早く解放するんだ」

「わ、わかってるんだけど」


 闇のリングはリリィの力に反発しようとしており、上手く制御が出来ないでいた。


「リリィ、これを使え」

「う、うん!」


 アビーが取り出したのは光の魔石だ。リリィはこれを闇のリングに当てて魔力を解放させる。すると闇のリングは霧散して消えていった。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「大丈夫か?」

「少し疲れただけだから・・・」


 リリィは闇のリングから解放されて一息つく。そして、右腕には光のリングは健在だ。


「これなら、詠唱しないで魔法放てます」

「だが、魔力を常に出しているのと変わらない」

「アリアとウィンディアが攻撃を潜り抜けた瞬間に放たないとだめよ」

「わかってます」


 それはどれくらいの時間か分からないが、そこまで長くはないだろう。無暗に暗黒の太陽に近付き過ぎれば、闇に精神を蝕まれてしまう可能性もある。


(行くよ、リリィちゃん)

「行きます!」


 アリアはウィンディアの風を利用して、更に速度を上げて飛行をする。


 そして、闇の魔力もリリィの光の魔力が迫ってきているのを迎撃しようと、無数の弾丸が飛来してくる。


(つっ!?)

「アリアさん!」

(だ、だいじょう、ぶ。ちょっと掠っただけ。リリィちゃんは前を見て)


 弾丸のいくつかがアリアの炎の翼を貫通して、炎が途切れていく。それはアリアの力の源である火の魔力が削られていくのと同じだ。


 それでもアリアは速度を落とさなかった。ウィンディアもアリアの力が不足している所で上手く加速を促しているのだ。


「きゃっ」

「っと、俺が支えてやるから前を向け!」

「うん!」


 だが、やはりアリアの制御も上手く出来なくなって荒い飛行になってきている。リリィは何度か投げ出されそうになったが、アビーが上手く支えてくれている。


 そして、闇の魔力の攻撃の合間から、暗黒の太陽が見えた。


「リリィ、行け!!」

「うん!ライトリブル!!!」


 前に突き出すようにした瞬間、リリィの手から光の波動の様なものが前に広がっていった。

 闇の魔力や霧はその波動に当たると、次々と相殺されて消えていく。


「アリアさん!!」

(いっけーーーー!!!)


 闇の魔力が消えたタイミングでリリィはアリアに指示を飛ばす。アリアは気合だけで突破を試みた。


 そして、リリィ達は暗黒の太陽に向かって行った。



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「ファイアストーム!!」


 ロイスの魔法は木の守護者ガーディアンを炎に包み込んだ。


「エレメント・ウィンド」


 そしてそのまま剣に風を纏わせて、近くの魔物に斬りにかかる。

 魔物はそのまま崩れ落ち、守護者ガーディアンの方も燃え尽きて動かなくなった。


「さ、流石隊長ですね」

「口を開く暇があれば、魔物を少しでも減らすんだ。大地よ・仇成す者・貫く・槍となれ・ロックランス!」


 ロイスが魔法を使うと剣先に魔方陣が浮かびあがる。そこから出現した石の槍は剣先にいる複数の魔物を貫いていった。


「たたたたいちょー!!!」

「今度はなんだ!」

「るるルインの街の地下より、多数の守護者ガーディアンが襲来!」

「なんだと!?」


 ロイスはまさかの事態に驚きを隠せない。だが、驚きながらでもロイスは剣を振るい、魔物を切り捨てていっている。


「・・・・・仕方がない。大きめの魔法使うぞ。猛き炎・荒ぶる風・連なれ」

「お、お前ら!隊長の前方に行くな!巻き込まれるぞ!!」


 ロイスの前方にいたハンター達は割れるように待避していく。その結果、ロイスの目の前には道ができ、そこに魔物や守護者ガーディアンが流れ込んでくる。


「全てを・焼き尽くす業火・悠久の風と・舞い踊れ・」


 ロイスの発動した魔法は目の前から放射状に広がりながら、炎の嵐は焼き付くしていく。近付いてきていた魔物達を巻き込み、遠くにいる守護者ガーディアンまで一瞬で墨に変えるほどの威力だ。


 これは火と風の複合魔法だ。複合魔法の中でも威力と範囲は上位に入る魔法。かなりの魔力を消費するため、使える者は限られている。

 現にロイスも肩で息をするほど疲労していた。


「はぁ・・・はぁ・・・僕は街の方をやってくる。お前達はここを死守するんだ」

「りょ、了解しました!」


 ハンターはロイスの魔法を見て唖然とする中、返事をして再び魔物に向き合うのだった。

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